第313回:クルマ作りの本場で製品を磨く
今日のマツダを支えるヨーロピアンR&Dセンターを訪問
2015.09.30
エディターから一言
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「SKYACTIV(スカイアクティブ)」と呼ばれるさまざまな技術と、独創的な「魂動」デザインで注目を集める今日のマツダ。欧州における開発拠点であるヨーロピアンR&Dセンターを訪問し、マツダのクルマ作りにおいてこの施設が果たす役割と、欧州で同社が何を学んでいるのかを探る。
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「マツダ越 KOERU」を生み出した欧州の開発拠点
2015年9月15日に開幕したフランクフルトモーターショーにおいて、マツダはクロスオーバータイプのコンセプトモデル「マツダ越 KOERU」を世界初公開した。
このコンセプトカーを手がけたのは、フランクフルト郊外オーバーウァゼルにあるマツダモーターヨーロッパのヨーロピアンR&Dセンターだ。この開発拠点は、マツダが古いロウソク工場を引き取り、1987年に開設したもの。約100人のスタッフがここでは働いており、そのうちの3分の1が日本からの出向者となる。
「海外拠点が開発に貢献できる内容は地域によって違います。ITなどであればアメリカ。そして、ここ欧州はデザインと走りですね」と言うのは、ヨーロピアンR&Dセンターのトップ、ゼネラルマネジャーの猿渡健一郎氏だ。
この開発拠点では、マツダが開発する新型車の試作車を持ち込み、欧州のあちらこちらで走らせている。また、最新の競合車を取り寄せて、その質感や走りを確認するのも、ここの仕事だ。そして、越 KOERUを生み出したように、新型モデルのスタディーを発信するデザインスタジオもある。欧州のデザインのトレンドをキャッチするのも大切な役目だという。
「人材育成という面でもここは大切な拠点です。ヨーロッパのスタンダードは、世界のスタンダードと考える社内の人間もいます。地域によって異なる部分はありますが、基本的なクルマの動かし方は、ヨーロッパがスタンダードでしょう。そうしたことを肌身で感じてもらいたい。そのために、うちは赴任の任期が比較的短く、2~3年です。最近は半年単位の赴任も行っています」と猿渡氏。その結果、マツダの社内では欧州の走りに対する共通のイメージができたという。
「われわれの新世代商品群は、アウトバーンを含めて長い距離を快適に走ることができます。これが大きな成果のひとつだと思います。以前に、試作車を持ち込んで走り込んだところ、骨格から変えないといけないと分かりました。ところがうちは小さな会社なので、簡単にはできません。考え方から変える必要がありました。それが、モノづくり革新であり一括企画でした」
欧州で走りのスタンダードを知ったからこそ、マツダの新世代商品群は誕生した。これこそが、最大の成果ではないだろうか。
なぜ欧州は走りを学ぶのによいのか?
マツダは欧州に専用のテストコースを持たない。そのため新型車や競合車のテストは、ほぼすべてが公道で行われる。
「ここは環境がいいんですね。いろいろな道があります。ロングドライブをすると、いろいろな国をまたいでいくことになりますからね」と猿渡氏は語る。ドイツの道では問題なかったものが、北欧に行くと途端に音振(おとしん)の問題に悩まされるなんてこともあったという。アウトバーンを200km/hで走ったときに音がどう聞こえるのか? これも実際に走ってみないと分からないことだ。
「ニュルブルクリンクサーキットを借りて走ることもありますが、それはタイムを競うためではありません。あそこはヨーロッパの道が凝縮されて、いろいろな要素がある。そこを狙ったラインで快適に走れるかどうか。安心して走れることが重要なので、自分たちで走って確認しています」
ちなみに取材に訪れたガレージには、訓練車として用意された「RX-8」を見かけた。こうした車両を使って、スタッフが欧州の道を学んでいっているというのだ。
「それとこちらでは、競合車もいっぱいいます。最新の競合車を手に入れるのも簡単です」
欧州の競合車が日本に導入されるまで待っていては、開発は間に合わない。欧州の最新モデルの走りをすぐに確かめられるのも欧州拠点ならではのメリットなのだ。
同じ“魂動”でも環境が違えば出てくるものも違う
「『魂動』デザインは日本の美意識に基づいたもの。引き算の美学ともいえます。極限まで研ぎ澄ました凜(りん)としたたたずまい。そして色気の艶(つや)。この凜と艶という、相反するものを組み合わせたものです」とデザイン アシスタントマネジャーの岩内義人氏は語る。コンセプトカーである越 KOERUは、ヨーロピアンR&Dセンターによる提案であるが、考え方そのものは、日本のデザインスタジオとまったく変わらないという。
「それでも、日本を出て初めて分かる気づきもあります。日本らしさって何だろう? それに対する欧州ならではの視線もあります。彼らいわく、“軽い”というのです。素材をいろいろ使うからでしょうね」
「国によって空の色がまったく違います。色の見え方が違う。それに、まわりにある競合車も日本とは違います。そうした中で、いかに際立つ造形を作ることができるか、日々苦労しています」というのはモデリング マスターモデラーの石本悠二氏だ。モデラーとは、デザイナーの描いたイメージ図を、クレイ(粘土)を使って立体的な造形に変換させる人である。当然、モデラーの腕前によって完成車の出来栄えは大きく左右される。そのため、マツダはモデラーを大切にし、デザイナーと同格に扱うという。また効率アップのためにデジタル化が進む風潮の中、デジタル処理ではなく、従来通りにクレイでの造形生成を優先させる姿勢を守っている。
越 KOERUのチーフデザイナーである小泉 巌氏は、フランクフルトモーターショーの会場で「マツダはデザインプレミアムを目指したいと思っています」と語っていた。価格やヒエラルキーが高いのではなく、デザインのバリューが高い、優れたデザインで評価されるブランドになりたいというのだ。そうした目標が、モデラーを大切にする姿勢につながっているのではないだろうか。
また、こうした取り組みもあって、欧州におけるマツダデザインに対する評価は徐々に高まっているという。2015年のジャーマン・デザイン・アワードでは、日本ブランドとして初の「チーム・オブ・ザ・イヤー2015」を獲得。レッド・ドット・デザイン・アワードでは「MX-5(日本名:ロードスター)」がベストカー賞を獲得している。そして、ヨーロピアンR&Dセンターの最新の成果である越 KOERUについても、特に現地メディアの間でポジティブな意見が多かったという。
デザインと走りにおいて、欧州の開発拠点であるヨーロピアンR&Dセンターがいかにマツダに貢献しているか。それがよく分かる取材であった。
(文=鈴木ケンイチ/写真=鈴木ケンイチ、マツダ)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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