第18回:ラウンドアバウト――環状交差点の“今”を見に行く(その1)
ロードスターとアルゴリズム体操
2015.09.29
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
新宿駅西口ロータリー
居座った低気圧が降らせていた長雨が上がった週明けの月曜日、長野県飯田市にあるラウンドアバウトを目指す朝だった。
腰痛持ちにとってスポーツカーの乗り降りは、特に乗り込みは、決して油断してはならないときである。シートにおさまってしまえば快適な姿勢を確保できるにしても、車高の低さゆえに、そこに至るまでが要注意であることを忘れてはいけないのだ。
ドアを開けて運転席の横に立ち、やおら腰を低くした状態で体を左にスライドさせ、しかも、ただ左に移動しているのではなく、同時に、座面近くまで下がっていく。そして、シートにストン。この、たとえるならアルゴリズム体操の「手をよこにィ♪、あら危ない♪♪」でのぎこちない腰の落とし方をはるかに凌(しの)ぐ不自然な体勢、さらに、そのまま行う身体移動。動きの距離と時間はほんのわずかでしかないけれど、このときがまさに問題で、腰痛持ちたちの誰もが同じ思いを抱くのである。
ギクッ、ってなったらやだな、と。
早朝の新宿駅西口のバス乗り場には行列ができていて、そのロータリーに滑り込んできた「マツダ・ロードスター」。ハンドルを握る女性(=担当編集者)の長い髪が風になびいて、と書きたいところだが、オープンで走ってもロードスターはほとんど風を巻き込まないから髪はなびいていない。とにかく、新宿の朝の風景にまるで溶け込まない白いオープンカーが、西口ロータリーの一角で待つサングラスの男の前で止まったと思ってもらいたい。
バス停に並ぶ会社員ふうの男たちの視線が刺さる。
「なんだよ、あのオヤジと運転交代かよ」
誰もそんなことは言わなかったと思う。彼らの視線の先にあるのはオープンで現れた白いロードスターなのだから。
出勤途中の雑然とした現実に身を置きバスを待つ男たち。彼らの目に映るロードスターが、存在そのもので、そこに非日常を感じさせる風景を瞬時に創りだす。オープンカーってすごいな、と思った。
衆人環視のこの場で、ギクッとやっちまったらカッコ悪い。ここはひとつ慎重に。
そう自分に言い聞かせ、心してのアルゴリズム体操的な身体移動でドライバーズシートにおさまったサングラスの男は、椎間板に大きな古傷を抱えるがゆえに常に腰痛がちの私である。
座った瞬間、私の傷ついた椎間板がこう言った。
「シートの具合がすこぶるいい」

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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