ジープ・レネゲード オープニング エディション(FF/6AT)
見ても乗っても楽しいジープ 2015.10.12 試乗記 個性的なデザインをまとう、ジープブランド初のスモールSUV「レネゲード」。エントリーモデルに試乗してわかった、このクルマならではの“乗り味”を報告する。正体不明のSUV!?
ハンドル中央のエンブレムを隠した運転席に導かれ、そこで目隠しを外されて走りだしたら、果たしてどこまでこのクルマの正体がわかっただろう。新型ジープ、レネゲードの試乗を始めて程なく、そんな想像をした。
運転席のアイポイントは高めだ。タコメーターの盤面に、泥はねみたいなペイントが入っている。オフロード四駆か? 土の地面を見つけてゼロ発進を踏むと、しかし前輪しかかかない。乗り心地にもオフロード四駆の大仰さはない。
フロントピラーの形状は「ルノー・カングー」に似ている。内装のポップな感じは、日本車でもドイツ車でもない。ステアリングホイールの握り感とか、シートの素材感などは「フィアット500」っぽい。けれど、室内の幅は500や「パンダ」よりだいぶ広い。
エンジンはけっこう力がある。高回転まで回すとリリーフバルブの開く音がするから、ターボ付きだろう。でも、その空気音がボンネットのなかで共鳴して、高回転でアクセルを戻すとゲゲゲっというちょっと安っぽい音が出ることがある。隅々まできれいに包装するドイツ車や日本車ではやっぱりない。
仮にブラインドフォールド試乗ができたとして、筆者の出せる答えは「ラテンヨーロッパ産のSUV」である。それ以上はわからない。
と思ったら、ダッシュボードのパネルに有力な手掛かりを発見。“SINCE 1941”というエンボス文字が入っている。
ン? でも1941年ってことは、第2次大戦中ではないか。そんなキナ臭い時代に立ち上がった自動車メーカーやモデルがあったっけ? 自動車史IQの高い川上 完さんだったらすぐ、「あ、そりゃジープだね」とわかったはずだが、運転していてまさかジープとはこれっぽっちも思わなかった。
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このブランドには無かったタイプ
ジープ・レネゲードはフィアットベースのジープである。2014年秋のFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)設立に先立つ5年ほど前から、ジープブランドを擁するクライスラーはフィアットと協力関係にあったのだから、このクルマも出るべくして出た。
レネゲードは新しい「フィアット500X」とともに南イタリアのメルフィ工場で生産される。これまでもヨーロッパで分散生産されるジープ車はあったが、全量、米国外で作られるジープはこれが初めてである。
2.4リッターエンジン+スタンバイ四駆の上級グレードもあるが、試乗したのは1.4リッターのFFモデル「オープニング エディション」。ギリ200万円台の最廉価モデルにして、最廉価ジープでもある。ジープのFFモデルは初めてではないが、1.4リッターは史上最小排気量だ。
4WD対応の新しい幅広プラットフォームで作られるモノコックボディーは、全幅1805mmとワイドだが、全長は「フォルクスワーゲン・ゴルフ」と変わらない。ボンネットは低めで、上屋のグリーンハウスが大きい。FFモデルの最低地上高は4WDより3cm低い170mmで、乗車の時もよじ登る感じはない。7スロットのフロントグリルや台形ホイールオープニングはまぎれもないジープだが、走る要塞(ようさい)的なオラオラ感とは無縁である。
走りはどこかイタリア風
ジープだと思うと混乱するが、先入観を持たずに乗ると、レネゲードはなかなか新鮮な乗り味の好感SUVである。
おなじみフィアットの1.4リッター「マルチエア」は、ターボを付けて140ps。「アバルト500」と同じ出力チューンだ。車重は300kg近く重いが、最大トルクは18.4kgm/4500rpmから23.5kgm/1750rpmへと大幅に太らされ、力不足は感じさせない。見事に“SUVのエンジン”になりおおせている。
それ以上に感心したのは2ペダルのデュアルクラッチ式6段自動MTである。現行「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」で登場した変速機だが、変速マナーがかつてないほど洗練された。乾式クラッチだが、まったくメタリックなショックや音が出ない。てっきりトルコン式のATだと思っていた。「やればできるじゃん」という感慨は、フィアット系のクルマで往々にして覚えるものである。
試乗中、気になったのは、停車時のブレーキの食いつきがきつく、いまどき珍しいカックンブレーキになりがちなことである。先述したリリーフバルブ作動時の音と合わせて、ちゃんとやってもらいたい。
新設計のサスペンションには、前後ともKONIのストラットがインストールされる。たっぷりしたシートの快適さにも助けられて、乗り心地は悪くない。全幅1.8mだと、さすがにヒラヒラ感はないが、ワインディングロードでもけっこう楽しく走れるのは、やはり“イタ車”である。
そんなステージをこなしても、燃費はトータルでリッター10km近く走った。ジープとしては優秀だろう。
存在自体がめでたい
レネゲードのブレーキを踏むと、赤く光るリアランプの中にバッテン印が浮かび上がる。コミック漫画に出てくる“殴られた人の目”みたいでファニーだが、このバツ印も軍用ジープ時代のデザインアイコンなのだそうだ。
そんなふうに、レネゲードは「ジープをお題に楽しんで作りました」という感じが随所ににじむイタリアンSUVである。最もお気楽な、明るいジープだ。
ウチの近所にジープのディーラーがある。ダイムラー・クライスラー時代はクライスラー系以外にスマートを扱っていて、筆者は「スマート・カブリオ」をそこで買った。うちじゃ売りにくいんですよねえと言われながら下取ってもらったのは「アルファ145」。今やそのアルファだってジープの近い親戚なのだから、世の中わからない。
そのジープ販売店のショールームの片隅に、以前からまったく場違いという感じで「クライスラー・イプシロン」がポツンと置かれている。フィアットの2気筒ツインエアを積むコンパクトハッチ、「ランチア・イプシロン」のクライスラー版である。見るたびに、売れっこないよなあと思った。そのフィアットがついにジープを作ったのだから、人ごととはいえ、めでたい。
メイド・インUSAの「ジープ・ラングラー」は男らしくてカッコイイが、あのユサユサした乗り心地のハイト四駆をショッピングセンターの狭いらせんスロープなんかで転がすのは、けっこうタイヘンだ。
ジープが昔からグレード名に使ってきた“renegade”には、「反逆者」のほかに「改宗した人」という意味もある。「本物のジープというのはだよ……」と説教したがるのは、ぼくみたいなお年寄りだけなのである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/取材協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
ジープ・レネゲード オープニング エディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4255×1805×1695mm
ホイールベース:2570mm
車重:1400kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:140ps(103kW)/5000rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)215/65R16 98H/(後)215/65R16 98H(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:15.5km/リッター(JC08モード)
価格:297万円/テスト車=312万2020円
オプション装備:カーナビゲーションシステム<カロッツェリアAVIC-MRP600>(11万8800円)/ETC車載器(1万260円)/フロアマット(2万3760円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3252km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:332.0km
使用燃料:34.7リッター
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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