プジョーもアルファもジープも電動化を推進 ステランティスのマイルドハイブリッド車を総括する
2025.08.14 デイリーコラム電動化とともにエンジンも進化
ステランティスはブランドをまたいでプラットフォームを共有しているので、どこかひとつのブランドで新しい技術を採用すると、またたく間に別のブランドにも波及する。最新のトレンドは48Vマイルドハイブリッド車(48V MHEV)だ。国内導入モデルでは「シトロエンC4」に続き、「フィアット600」「アルファ・ロメオ・ジュニア」、プジョーは「308」と「3008」、そして「408」にも設定された。ジープブランドに目を転ずれば、「レネゲード」に48V MHEVが設定されている。
C4、ジュニア、3008などのシステムとレネゲードのシステムは異なる。順に説明していこう。
前者は1.2リッター直3直噴ターボエンジンに6段DCTの組み合わせ。パワートレイン横置きレイアウトで前輪を駆動する(つまりFF)。DCTの内部、変速機構の上流側に最高出力22PS、最大トルク51N・mのモーターを搭載する。さらに、ベルトスタータージェネレーター(BSG)を備えており、DCT内蔵モーターとBSGを状況に応じて使い分ける仕組みだ。床下には、水冷式の冷却システムを備えるリチウムイオンバッテリーを搭載する。総電力量は約0.9kWhとストロングハイブリッド車(HEV)に匹敵する容量を備えている。
エンジンはプジョー、シトロエン系で採用実績のあるEB系で、10年選手だ。マイルドハイブリッドとの組み合わせにあたっては大がかりな手が加えられており、ミラーサイクルの適用がハイライトである。
ミラーサイクルを適用しない仕様に対して圧縮比を高く設定し、吸気バルブの閉じタイミングを制御(下死点より早く閉じる「早閉じ」だろう)することにより、実質的には高くする前と同程度の圧縮比で運用し、膨張比を大きくとって熱効率を高める(と燃費が向上する)燃焼サイクルだ。
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MHEVが欧州勢の定番に?
膨張比を大きくとると燃料が持つ化学エネルギーがより効率よく圧力に変換されるため、排気温度が下がる。この現象をこれ幸いと利用し、可変ベーンによってタービンの流路を狭くしたり広くしたりしてレスポンスと出力の両立を図る可変ジオメトリーターボ(VGT)を採用した。VGTは排気温度の低いディーゼルエンジンでは定番だが、排気温度の高いガソリンエンジンに適用しようとすると可変ベーンに高価な耐熱合金を使わなければならず、「ポルシェ911ターボ」などの高価格車でなければ採用に踏み切れなかった。
ミラーサイクルの適用によって排気温度が下がるため、高価な材料を使わなくても済むようになり、普及価格帯のガソリンエンジンにもVGTが適用できるようになった。先駆けは「フォルクスワーゲン・ゴルフ」などが搭載する1.5リッター直4直噴ターボ+マイルドハイブリッドで、直近では「アウディA5」のMHEV(3リッターV6直噴ターボ)もミラーサイクル&VGTを適用。「ボルボXC60」も6月の商品改良でMHEV(2リッター直4直噴ターボ)にミラーサイクル&VGTを適用した。マイルドハイブリッドにミラーサイクルとVGTの組み合わせは、昨今の欧州勢の定番と化した感がある。
「e-Hybrid(eハイブリッド)」と呼ぶレネゲードのマイルドハイブリッドは、1.5リッター直4直噴ターボと7段DCTの組み合わせ。パワートレインは横置きでFF。DCTに最高出力20PS、最大トルク55N・mを発生するモーターを内蔵し、BSGを併用するのは1.2リッター直3版MHEVと同じ。バッテリー容量は0.8kWhである。エンジンはミラーサイクルを適用しているもののVGTは採用していない。
レネゲードの1.5リッター直4版MHEVも、プジョー、シトロエン、アルファ・ロメオの1.2リッター直3版MHEVも、発進時はEV走行を基本とする点で共通している。ただしHEVほど高出力のモーターを搭載していないため、モーターはちょっとだけ顔を出して存在感を示し、あとはエンジン主体の走りとなる。最近のHEVはEVライクな走りを志向する流れだが、MHEVはあくまでエンジンが主役で、モーターはアシスト役だ。
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ユーザーにとっても賢い選択か
ミラーサイクルの適用でエンジンの効率が向上しているのに加えてモーター回生によるエネルギーを活用できるため、MHEVは確実に燃費面の恩恵にあずかれる。メーカーの立場に立ってみれば、HEVに比べて低コストで燃費向上効果を得られるのがメリットだ。
EUでは全販売台数の平均CO2排出量が上限値を超えた場合、超過1gごとに95ユーロ×販売台数で罰金が科せられる。平均CO2排出量を下げるためには、数が出ることが予測できる機種で少しでも燃費をよくしておきたい。平均値は台数で効いてくるからだ。
ステランティスがMHEVのラインナップを増やしているのは、こうした事情がありそう。BEVのセールスに頭打ち感が出てきているので(ドイツが2023年12月半ばにBEV補助金を打ち切った影響も大きい)、エンジン搭載車の燃費を向上させて、厳しいCO2排出量規制をクリアしようというわけだ。電動化したために車両価格が爆上がりしたのではユーザーにそっぽを向かれてしまう恐れがある。HEVではなくMHEVとしたのは、ユーザーメリットとメーカーにとってのメリットのいい落とし所なのだろう。
価格をどう感じるかは別にして、ステランティスのMHEVは発進時のEV走行により電動車であることをダイレクトに感じられるし、アイドルストップ後のBSGによるエンジン再始動はスターターモーター式に比べて静かでスムーズ。純エンジン車に比べると燃費は間違いなくいい。MHEVはメーカー側の都合もあって生まれた仕様かもしれないが、EUのCO2排出量規制とは直接関係のない日本のユーザーにとっても賢い選択であるように思う。いかがだろう。
(文=世良耕太/写真=ステランティス ジャパン/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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