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マツダ・ロードスターNR-A(FR/6MT)

いちばんピュアなロードスター 2016.04.22 試乗記 生方 聡 ワンメイクレースやジムカーナなど、モータースポーツへの参加を想定して開発された「ロードスターNR-A」に試乗。アマチュアレーサー御用達のクルマかと思いきや、レースに出ない人にとっても、見逃せないモデルだった。

ロールバーが恨めしい

「ううっ、また痙(つ)った……」

朝から2度目である。最初は乗り込むときに右のふくらはぎがピリッときて、今度は降りるときに右脇腹から右腕にかけて痛みが走った。おかげで右腕を上げようとしても、主人の言うことを聞こうとしない。

もともと体が硬いうえに、日ごろの運動不足もたたってこのありさまだから、クルマに文句を言っても始まらないが、ロールバーのせいで乗り降りの前にはいちいち気合を入れないとならないし、乗り込んだら乗り込んだでヘッドルームも視界もロールバーに邪魔されて落ち着きやしない。

私をこんな目に遭わせているのは、マツダがサーキット走行を想定して開発したロードスターのモータースポーツ用ベースグレード、NR-Aだ。正確にはマツダ純正アクセサリー(マツダスピード)のロールバーが乗り降りを邪魔するのだ。もちろん、サーキットの安全を考えてのことで、これに加えて、指定のタイヤやブレーキパッドを装着し、さらに、けん引フックやフルハーネスのシートベルト、バケットシートを用意すれば「ロードスター・パーティレース」に参加できてしまう。

パーティレースはいわゆるナンバー付きレースなので、このクルマでレースが行われるサーキットを往復することもできるし、乗り降りの不便さを厭(いと)わなければ、ふだんのアシとして使えるというのもユニークなところだ。それだけに、ロードスターNR-Aはモータースポーツを身近に楽しむのに打ってつけの一台なのだ。

2015年10月15日に発売された「ロードスターNR-A」。試乗車にはパーティレース指定部品のマツダスピード製「ロールバー」が装備されていた。
2015年10月15日に発売された「ロードスターNR-A」。試乗車にはパーティレース指定部品のマツダスピード製「ロールバー」が装備されていた。 拡大
サイドバーが存在を主張する、ドア開口部の様子。頭上にもバーが張り出しているため、乗り降りはかなり大変だった。
サイドバーが存在を主張する、ドア開口部の様子。頭上にもバーが張り出しているため、乗り降りはかなり大変だった。 拡大
写真のボディーカラーは「アークティックホワイト」。「NR-A」ではハイマウントストップランプカバーがブラック塗装となる(他グレードはボディー同色)。
写真のボディーカラーは「アークティックホワイト」。「NR-A」ではハイマウントストップランプカバーがブラック塗装となる(他グレードはボディー同色)。 拡大
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レースには出ないという人にも

とはいうものの、このクルマを買ったからといって、必ずレース仕様に仕立て上げて、レースに参戦しなければならない……という制約はなく、ロールバーを付けずに乗り続けたところで誰からも文句は出ない。「だったら、レース用のベースグレードをわざわざ買う必要はないじゃないか?」というご意見はごもっともだが、そこをあえて選ぶ理由がどうやらありそうなのだ。

ロードスターにはベーシックグレードの「S」、安全性や燃費にも配慮した「Sスペシャルパッケージ」、「Sレザーパッケージ」、そして、走りの楽しさを高めた「RS」がある。これに対しNR-Aは、快適装備や安全装備はベーシックグレード並みとする一方、走りに関する部分はRS同等、あるいはそれ以上。おかげで、価格はRSよりも約55万円低く、ラインナップのなかではSに次ぐ安さである。

それでも、パワーウィンドウやマニュアルエアコン、カップホルダー、USB端子/AUXミニジャック付きのラジオ、キーレスエントリーなど、普段使いに困らない程度のアイテムが標準で備わるし、インストゥルメントパネルやドアトリム、シートといった部分も手抜きはなく、十分満足のいく仕上がりだ。

一方、このNR-Aには、RS同様に大径ブレーキが装着されるのに加えて、ビルシュタインダンパーが車高調整機能付きになる。さらに、大容量ラジエーターがおごられるなど、手軽にスポーツ走行を楽しみたいという人には、実は見逃せない存在なのだ。

「NR-A」は、エントリーグレード「S」をベースにシャシーを強化。さらに、トルクセンシング式スーパーLSDやビルシュタイン製車高調整機能付きダンパーも装備される。
「NR-A」は、エントリーグレード「S」をベースにシャシーを強化。さらに、トルクセンシング式スーパーLSDやビルシュタイン製車高調整機能付きダンパーも装備される。 拡大
インテリアはベース車よりも簡素な仕立てとなる。シフトノブとパーキングブレーキレバーは本革製ではなく樹脂製に、またスイッチ類のないシンプルなステアリングホイールが装着される。
インテリアはベース車よりも簡素な仕立てとなる。シフトノブとパーキングブレーキレバーは本革製ではなく樹脂製に、またスイッチ類のないシンプルなステアリングホイールが装着される。 拡大
ホイールは「NR-A」のみシルバー塗装となる。「RS」と同様に前後とも大径ブレーキローターが装着されている。
ホイールは「NR-A」のみシルバー塗装となる。「RS」と同様に前後とも大径ブレーキローターが装着されている。 拡大

NAエンジンの魅力を堪能

ロールバーをくぐり抜け、ふたたびロードスターNR-Aの運転席へ。標準シートに座ると、身長167cmの筆者でもロールバーが頭上に迫るくらいで、長身のドライバーならさぞや苦痛に違いない。ただ、スポーツシートとそれ用のシートレールを装着すればヒップポイントは下がるので、ロールバーを組むならスポーツシートとの同時装着は必須だろう。

プッシュボタンを押してエンジンをスタートさせる。エンジンやエキゾースト系などはノーマルのままだが、ボンネットの遮音材が省かれているからか、心なしかエンジンルームから聞こえる音が大きいような気がする。

さっそく走りだすと、わずか1.5リッターの直4自然吸気エンジンながら、1010kgという軽量ボディーとの組み合わせでは力不足の印象はなく、1000rpmを上回ったくらいでも十分に実用的なトルクを発生させる。自然吸気ユニットらしく、アクセルペダルの動きにダイレクトに反応。回せば、乾いたサウンドを伴いながら7000rpm超まで気持ちよく吹け上がるのもいい。

それでも、最高出力は131psと、絶対的な数字は大きくないので、安心してアクセルペダルを踏み込めるのもこのクルマの魅力である。カチッとしたシフトフィールも爽快で、ヒール&トウのしやすいペダル配置とあいまって、シフトレバーを操るのは楽しいの一言だ。

「NR-A」のシートは「S」「Sスペシャルパッケージ」と同じもの。ロールバーを装備するのであれば、スポーツシートの装着は必須だ。
「NR-A」のシートは「S」「Sスペシャルパッケージ」と同じもの。ロールバーを装備するのであれば、スポーツシートの装着は必須だ。 拡大
最高出力131psを発生する1.5リッター直4エンジン。エンジンルームには、ボディー剛性を強化するフロントサスタワーバーが備わる。
最高出力131psを発生する1.5リッター直4エンジン。エンジンルームには、ボディー剛性を強化するフロントサスタワーバーが備わる。 拡大
箱根のワインディングロードを行く「ロードスターNR-A」。車両重量は「Sスペシャルパッケージ」と同じ1010kg。
箱根のワインディングロードを行く「ロードスターNR-A」。車両重量は「Sスペシャルパッケージ」と同じ1010kg。 拡大

意外に快適な乗り心地

そのままレースに出られるサスペンションということで、街乗りでは我慢を強いられるのではないかと覚悟していたが、実際はやや硬めの乗り心地とはいえ、ショックを乗員に直接伝えることはなく、目地段差を越えるときのハーシュネスも十分許容できるレベルに収まっている。

そのぶん、高速走行時のフラット感やスタビリティーは優秀。また、ワインディングロードではロールなどの無駄な動きがしっかり抑えられ、期待どおりの軽快なハンドリングが楽しめる。ボディーの剛性感も高く、車外から進入する音を除けば、クーペを運転しているような感覚である。

ソフトトップを開けて走ると、視界こそロールバーに邪魔されるが、オープンエアモータリングの楽しさは十二分に堪能できる。

もちろん、このロールバーは純正アクセサリーなので、レースに出場するつもりがなければ、装着する必要はない。それであれば、本来ロードスターが持つ開放感とロードスターきってのスポーティーな走りを楽しめるわけで、走りにこだわる人にとっては、実はRSよりも魅力的ではないかという思いが強くなってきた。そのうえ価格もお手ごろということで、モータースポーツのベースグレードという一面だけでなく、ドライビングプレジャーを最も感じられるグレードとして、見直さない手はないだろう。

ロールバーのおかげで第一印象は良くなかったが、いまはこのロードスターNR-Aが一番ほしいグレードである。

(文=生方 聡/写真=荒川正幸)

乗り心地は硬すぎることなく、街乗りでの仕様にも十分に対応可能。フラットな姿勢を保つシャシーのセッティングも絶妙だった。
乗り心地は硬すぎることなく、街乗りでの仕様にも十分に対応可能。フラットな姿勢を保つシャシーのセッティングも絶妙だった。 拡大
試乗車には195/50R16サイズの「ブリヂストン・ポテンザRE-11」が装着されていた。ちなみにパーティレースの指定タイヤは、同サイズの「ポテンザRE-71R」。
試乗車には195/50R16サイズの「ブリヂストン・ポテンザRE-11」が装着されていた。ちなみにパーティレースの指定タイヤは、同サイズの「ポテンザRE-71R」。 拡大
「NR-A」は、ドライビングプレジャーを強く感じられる、最も魅力的な「ロードスター」だった。
「NR-A」は、ドライビングプレジャーを強く感じられる、最も魅力的な「ロードスター」だった。 拡大

テスト車のデータ

マツダ・ロードスターNR-A

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1010kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:131ps(96kW)/7000rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84V/(後)195/50R16 84V(ブリヂストン・ポテンザRE-11)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:264万6000円/テスト車=288万1148円
オプション装備:ロールバーセット<ロールバー+ロールバープロテクター+ルームミラー>(21万3548円、取り付け費込み)/けん引フック<フロント用>(1万800円)/けん引フック<リア用>(1万800円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:5163km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:281.7km
使用燃料:19.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)
 

マツダ・ロードスターNR-A
マツダ・ロードスターNR-A 拡大
生方 聡

生方 聡

モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。

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