トヨタ86 GT(FR/6MT)/86 GT“リミテッド”(FR/6AT)/86 GT“リミテッド”(FR/6MT)
納得の進化 2016.09.28 試乗記 「トヨタ86」が、デビュー4年目にしてエンジンやドライブトレインに手の加わる大幅なマイナーチェンジを受けた。さまざまなグレードの比較試乗を通し、従来モデルからの進化の度合いや、仕様の違いによる差などを確かめた。4年目にして初のマイナーチェンジ
早い車種ではフルモデルチェンジのタイミングでもある4年目の86に、トヨタが行ったのは、シリーズ初となるマイナーチェンジだった。詳細はすでに発表時にニュースとしてリポートされているのでご覧になった方も多いと思うが、その内容は、やはりマイナーチェンジとうたうだけあって、実に多岐にわたる。ご存じのように86は、欧州のスポーツカーではもはや常識と化している年次改良(小変更)で車両を進化させてきた、ある意味ユーザーに真摯(しんし)に向き合ってきたモデルでもある。
ここであらためてその内容をざっと紹介すれば、リアピラーを中心としたスポット溶接の打点打ち増しでボディー剛性の向上を図り、ドイツのザックス製となるショックアブソーバーをオプション設定しスポーツカーに最も求められるアジリティーを強化。6段MT車のエンジンを排気量などはそのままに、最高出力を200psから207psに、最大トルクを20.9kgm(205Nm)から21.6kgm(212Nm)に向上させた。
さらに空力改善のため、フロントスポイラーやリアスポイラーの形状を見直し、ヘッドライトにはハイ/ロービームともLED化した「Bi-Beam LEDヘッドランプ」を標準装備。同時にリアコンビネーションランプも視認性の高いLED採用の新デザインに改め、前後でLEDライトを用いて機能性と実用性をアップグレードした。インテリアの基本デザインは踏襲しつつも、素材の変更でクオリティーを向上させ、メーターはアナログ主体のデザインからGモニターを搭載するアナログ/デジタルのコンビネーションメーターに変更。上級グレードの「GT“リミテッド”」と「GT」の2グレードで標準装備とした。
と、ざっと眺めて見ただけでも、スポーツカーとしての魅力ともいうべき商品力は確かに大きく向上している。世間ではこの変更と進化を物足りないと見る向きもあるようだが、リアコンビネーションランプの上下を入れ替えました的な、商品の陳腐化を防ぐ変更ありきの単なるマイナーチェンジなどではなく、ユーザーが何を求めているのか、そして作り手が一歩ずつ理想の86に進化させていきたいという思いが見て取れるのは好ましい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
数値以上のパワフルさを実感
トヨタ自身が後期型と呼ぶ86の6段MTモデルに搭載されるエンジンのパワーアップは、わずか7psにとどまるが、アクセルの反応が向上し、トルクが増した印象を受ける。アクセルのリニアリティーが改善されたことと、より低回転でドライバーのイメージするトルクが出て、それがピークトルクの回転数までよどみなく続くので、数値以上にパワフルになったと感じられるのだろう。アクセルの踏みしろに対して、素直に押し出される感覚が明確化されたとでも言おうか。これには少々大きめなエキゾーストサウンドも、スポーツカーらしい演出として効果を上げていると思える。
今回の初乗りの前に、たまたまマイナーチェンジ前のモデルにじっくり乗る期間があったので、エンジンやエキゾーストノートの変化は体感することができたが、同じマイナーチェンジ後のモデル同士でも、「6 Super ECT」と呼ばれる6段AT車と、207psエンジンが搭載される6段MT車とを乗り比べれば、たとえATのレスポンスの悪さを差し引いたとしても、両パワーユニットの違いを理解できるはずだ。AT限定免許であることや、86の雰囲気とデザインさえあればいいという人でもない限り、ATモデルを積極的にオススメしないのは、残念ながらマイナーチェンジ前のモデルと同じである。
足まわりに合わせVSCの印象も変化
エンジンに加え、もうひとつ変化を感じることができたのがシャシーの出来だった。全車に5万4000円でオプション装着が可能となるSACHS(ザックス)製ショックアブソーバーはもちろん話題だが、標準サスペンションは動きが穏やかで路面への追従性も高い。ひとことで言えばしなやかさが増した印象である。前後のグリップバランスが取れており、コントロールしやすい。
試乗時はあいにくのヘビーウエットのコンディションだったが、フロントタイヤの接地性の高さがもたらす安心感はかなりのものだった。当然、タイヤへの依存度が高いスポーツカーだけにおろしたての新車での評価でシャシーすべてのダイナミック性能を語ることはできない。しかしコーナー手前でフロントに荷重をしっかり載せ、そのままステアリングを切り込み、アクセルをジワリと踏むというセオリー通りの運転をするだけで、FRモデルはハンドリングが素直で楽しいと思えてしまう。
もちろんウエット路面につき、VSCはノーマルを選択。シャシーが進化してそう感じるのか、それとも今回のマイナーチェンジで制御アルゴリズムが見直されたのか、おそらくその両方なのだろう、VSCの介入は比較的遅めになり、ドライバー側でできるコントロールの幅も増えた。すぐに“お仕置きモード”に入るような安定性だけを重要視するセッティングではなくなった。最終的には危険領域の一歩手前でドライバーをサポートしてくれるので安心感は健在だ。
「TRACK」モードではある程度リアスライドも許容するので、腕に自信がある方はサーキットでのスポーツ走行を楽しめそうだ。今回のようなウエットコンディションではアクセルワークだけで微妙なトラクションをコントロールできるので、ドライバーとクルマが一体となる緻密なスポーツカーらしい走りも(もちろんそれなりスキルがあれば、だが)味わえる。ボディーの強化やサスペンションの変更に合わせるように、VSCのプログラミングも大きく進化しているのだ。
“名車”の仲間入りなるか
期待のザックスは、予想したほどハードな乗り心地ではなかったが、それでもノーマルのショックアブソーバーに比べれば減衰感がボディーにダイレクトに伝わる。これをスポーティーと思えれば、オプションでの選択もアリだろう。実際、そこまでのスピードレンジで試せはしなかったが、粘りと表現してもいい踏ん張り感、すなわちコーナーでのグリップ感にはやはりアドバンテージがあり、86をよりスポーツカーらしく走らせることができそうだ。
しかし、いざ自分で86を購入する際にザックスを選ぶかと聞かれれば、街乗り中心となる今の自分の使い方であれば、おそらく「ノーマルサスで十分楽しい」と判断するような気がしている。あくまでも想像だが、よりグリップ力の高いタイヤを付けてたまの週末にはサーキットも走るという使い方にこそ、ザックスのショックアブソーバーはふさわしく、そのパフォーマンスを十二分に発揮するような気がするのだ。
いずれにせよ、86後期型のレベルは十分に高い。最もその出来を気にするであろう、前期型のオーナーは、乗れば必ずマイナーチェンジの意味がくみ取れる納得のクオリティーである。トヨタとしては、86で徐々に増えてきた若年層のユーザーを今まで以上に取り込みたいと思っているだろうが(しかもの7割近くがMTを選んでいるという)、現オーナーの乗り換えも多そうだ。「ロードスター」や「インプレッサ」などと同じように、オーナーの代替が定着してこそ、名車の階段を登れるというものである。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥)
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ86 GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:298万1880円/テスト車=319万9176円
オプション装備:T-Connectナビ ステアリングスイッチ付き車(15万7680円)/バックモニター(1万7280円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2616円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:303km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
トヨタ86 GT“リミテッド”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1260kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/7000rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/6400-6600rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:325万0800円/テスト車=346万8096円
オプション装備:T-Connectナビ ステアリングスイッチ付き車(15万7680円)/バックモニター(1万7280円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2616円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:287km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
トヨタ86 GT“リミテッド”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1260kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:318万3840円/テスト車=345万5136円
オプション装備:T-Connectナビ ステアリングスイッチ付き車(15万7680円)/バックモニター(1万7280円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ(3万2616円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/SACHSアブソーバー(5万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:320km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
NEW
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
NEW
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。 -
NEW
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?―
2025.11.26カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する! -
NEW
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.26試乗記「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。 -
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。






























