スバルの水平対向エンジンの燃費性能について

2023.08.15 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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webCGの試乗リポートを見ていても、「86/GR86」を含めスバルの水平対向エンジンは同排気量の他社エンジンに対して燃費性能が劣るような印象があります。この認識は正しいですか? もしそうであれば、それは水平対向というエンジン形式にかかわる特徴なのでしょうか。あるいはスバルの技術力の問題ですか?

水平対向エンジンは低重心化を実現できるなどメリットのあるパワーユニットですが、常に燃費の問題がついてまわります。

なぜ水平対向エンジンは燃費に厳しいのか? ひとつは、(シリンダーが左右に向かって配列されるため)エンジン全体の幅が広くなるので、ピストンのストロークを長く取れない=ロングストローク化ができないということが挙げられます。

今の省燃費エンジンのトレンドは「ロングストロークでしっかり燃やす」ですが、物理的にそれができない。86に関して言えば、パワーと燃費のベストバランスを目指して燃焼室をスクエア(ボア×ストローク=86×86mm)にしました。86mmという数値に落ち着いたのはたまたまで、「これは神の啓示だ!」なんて当時は盛り上がりましたね。

もうひとつの要因は、エンジンオイルの抵抗です。ごく一般的なウエットサンプ(エンジン下部の油槽にオイルをためておき、エンジン全体を潤滑する方式)で設計した場合、水平対向エンジンは主要部の多くがオイルに浸かった状態になってしまい、稼働時に大きな抵抗を受けることになります。そのため水平対向エンジンは、オイルパンの設計が大変難しい。オイルに浸からないつくりにすると、走行状態によっては油膜が切れてエンジンが焼き付く恐れが出てきます。

ちなみに、86と「BRZ」のワンメイクレースでは、その「エンジンが焼き付く一歩手前までオイル量を減らし、低負荷で走らせる」というのが勝利への常とう手段になっています。もちろん、ポルシェのように水平対向エンジンをドライサンプ(別体のタンクからオイルを供給しエンジンを潤滑する方式)でつくるのはひとつの解決法ですが、クルマそのものが高価になってしまうのが難点です。

水平対向エンジンの燃費の問題は、スバルの技術が劣っているからではありません。長年かかわってきた経験から、スバルはこのエンジンについて、大変なノウハウを持っていますよ。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。