BMW 540i(FR/8AT)
これまでとは一味違う 2017.01.11 試乗記 注目すべきは、シャシー性能と先進運転支援システムの大幅な進化。BMWの基幹モデル「5シリーズ」が7代目にフルモデルチェンジ。G30系と呼ばれる新型の実力を、3リッター直6ターボモデルで試した。最大で100kgの軽量化を実現
昨年フルモデルチェンジを受けた「メルセデス・ベンツEクラス」から1年を置くことなく発表された新型BMW 5シリーズ。これまでのF10系からG30系へと、形式名称も新世代のアーキテクチャーを物語るものへと改められ、中身の進化も大いに期待されるところだ。
その象徴的なエンジニアリングとして挙げられるのはシャシーの進化だ。2015年に導入されたG11系「7シリーズ」では、ピラーの芯材をカーボンに置き換えるなどして先代比で最大130kgの軽量化を達成していたが、新しい5シリーズではコストや生産効率の問題もあり、カーボンコアの採用は見送られた。それでもボンネットやトランクリッド、ドアなどのフタ物や、エンジンクロスメンバー、リアサイドメンバー、ルーフなどの構造材にはアルミを、インパネサポートにはマグネシウムを用いるなど、材料置換が隅々に行き渡っており、タイヤやホイールなどのバネ下部、内装ライナーなどの事細かな減量ともあいまって、従来型比で最大100kgの軽量化を達成したという。日本仕様の詳細は未発表ながら、F10系「523i」の車重から推するに同等のパワートレインを搭載するだろう新型の車重は1.7t前後、同様のライトウェイトデザインを採用する現行メルセデス・ベンツEクラスとほぼ同等に収まると思われる。
ちなみに新型5シリーズの車寸は全長4936mm、全幅1868mmと、従来型比で若干拡大。全車にグリルシャッターを備えるなどして稼ぎ出した0.22のCd値は、Eクラスをわずかにリードするものだ。
隔世の進化を遂げたシャシーと運転支援システム
サスペンションは先代に引き続きフロントがダブルウイッシュボーン、リアが5リンクだが、刷新された車台に合わせてジオメトリーは完全な新設計となり、アルミ部品の多用により軽量・高剛性化が図られている。またモーターを用いた電動式のアンチロールスタビライザーが電子制御可変ダンパーに組み合わされる「アダプティブ・ドライブ」については、その協調制御がコーナリング時の姿勢を安定させるだけでなく、直進時の微小なロールも低減させるなど、作動領域が通常走行にも広げられている。他にもオプションの「インテグレーテッド・アクティブステアリング」には正相・逆相の両方向に働く後輪操舵機能を備えるなど、シャシーまわりの先進化は著しい。
それと併せて一気にアップデートされたのが先進運転支援システム=ADAS系の装備だ。アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)はセンシング能力や制御アルゴリズムそのものが刷新されただけでなく、制限速度標識の情報と連動する機能を備えるなどリアルワールドでの有用性が高まっている。レーンキープ関連ではアクティブな介入機能が加わったことで、通常のライントレースや緊急回避の操舵アシスト、さらにはウインカーレバーの長押しと連動するレーンチェンジなど、さまざまなファンクションが新たに備わった。これまでBMWはドライバーの責任領域としてステアリングアシストにはあえて消極的な姿勢だったが、ここにきての積極採用は時代の要請でもあり、彼らなりの目途(めど)も立ててのことだろう。ともあれADASについては新型5シリーズ、最先端の領域に達したと言って差し支えない。
ランフラットタイヤを見事に履きこなす
ただし、これらの最新装備については現状、日本仕様においていずれもが選択できるかは定かではない。同様に、搭載されるパワートレインも、間もなくとされる日本導入までその設定は不明だ。仮に従来同等と想定すれば2リッターの直4直噴ターボが523iとしてエントリーグレードに設定されることになりそうだが、本国にはその選択肢はなく、252psとよりハイパワーな4気筒が「530i」として設定されている。これに加えて3リッター直6直噴ターボの「540i」と、ガソリンエンジンは2本立ての展開。そしてディーゼルも同様に2リッター直4の「520d」、3リッター直6の「530d」と2本立てで用意される。
本国では3月以降、520dをベースにさらなる低燃費化を図った「エフィシエントダイナミクスエディション」や、プラグインハイブリッド車の「530e iパフォーマンス」、そしてトップパフォーマンスグレードとして4.4リッターV8直噴ターボを積む「M550i xDrive」などが順次投入されるようだが、日本では当面530iと540i、そして520dあたりが販売されることになるのではないだろうか。トランスミッションはいずれも8段AT。欧州仕様においては530eを除く全車で四駆=xDriveが組み合わせられるようになったこともトピックのひとつだ。
日本への導入が確実視される540iを中心に行った試乗では、新しいアーキテクチャーの特性が十分にうかがえた。走りだしから何より強く感じられるのは軽さ、それも上屋よりむしろバネ下側がひょうひょうと路面を捉えていることだ。例に漏れず新型5シリーズもランフラットタイヤを履くわけだが、もはや彼らにとってそれは動的質感を追求する上で何の障害にもならない。それほどに知見を積み、タイヤメーカーとの連携もうまくとれているのだろう。低速域から乗り心地はしなやかな上、新型ではロードノイズのレベルも大幅に低減しており、静粛性も際立ったものとなっている。
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走って楽しい“だけ”ではない
ごく少ない操舵量から即座にヨーが立ち上がり、ビビッドに車体が反応する。そんなステレオタイプなBMWのイメージから、新しい5シリーズは一線を画そうとしているのかもしれない。そう思ったのは、アクセルにブレーキそしてステアリングと、標準的なドライブモード設定での操作ものの初期ゲインが、やや鈍(なま)されたものとなっていたからだ。そこからの操作量に対する応答感は十分にクイックながら、従来型と比べればその推移はやや線形的になっただろうか。アクティブステアを最初に採り入れたE60系時代は性急なドライブフィールに賛否が割れたものだが、そのスイッチライクな印象はもはや忘れられるほどに穏やかになっている。あるいは機械側に操作を委ねるADASとの協調を考えると、余りに急激なゲインの立ち上がりは乗員の不安要素につながる。その辺りも走りのタッチが和らいだ一因だろうか。
そのADAS系装備の出来栄えは、これまた今までのBMWとは一線を画する見事なものだった。ACCの追従時における減速や再加速の滑らかさやタイムラグの少なさ、レーンキープや車線変更での穏やかで無駄のない動きをみるに、それらは機能の正確な作動という域を超えて乗員に作動を感じさせないというステージで調律が施されているようにうかがえる。試乗では右に曲がりながら左に車線変更するなど、随分と意地悪なことも試してみたが、そのロバストネスも非常に高いところにあるようだ。
大胆な軽量化やライバルのベンチマークたる高効率エンジン……と、それらが目指すところは、「駆けぬける歓び」をいかにサスティナブルなものとするか、だ。BMWには恐らくそういうビジョンがあるのだろう。新しい5シリーズは単にコーナーを曲がって楽しいというだけのクルマではない。特にADAS系の長足の進歩をみるに、彼らがあらゆる手を尽くしてクルマのダイナミックレンジを多面的に広げていることを実感させられた。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW 540i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4936×1868×1479mm
ホイールベース:2975mm
車重:1595kg(DIN)
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:340ps(250kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5200rpm
タイヤ:(前)225/55R17 97Y/(後)225/55R17 97Y
燃費:6.5-6.9リッター/100km(約14.5-15.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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