スズキ・スイフト ハイブリッドRS(FF/CVT)/スイフトRSt(FF/6AT)/スイフトRS(FF/5MT)/スイフトXL(FF/CVT)
つい語りたくなる 2017.02.07 試乗記 累計販売台数は530万台というスズキの世界戦略車「スイフト」が、新型にフルモデルチェンジ。欧州の道で開発されたというスズキのグローバルコンパクトは、思わずいろいろと語りたくなるようなクルマとなっていた。まさにグローバルカー
スズキ・スイフトの世界累計販売に関する資料を見て、あらためてビックリした。世界累計販売台数は昨年11月末時点で530万台。昨年4月には500万台に到達したが、11年5カ月での達成はスズキ史上最短とか。
ここでいうスイフトとは、普通のクルマ好きの皆さんがスイフトと聞いてイメージする先々代(2004年に国内発売)を“初代”と定義した数字である。
だが、上級マニアならご承知のように、スイフトという車名の歴史は長い。
スイフトはもともと1983年に発売された「カルタス」の海外名がはじまりで、80年代から90年代にかけて3世代で同様に使われた。日本における厳密な意味での初代スイフトは2000年に発売された車種で、当時の軽自動車「Kei」を拡幅したコンパクトクロスオーバーだった。ちなみに、その海外名が「イグニス」だったりするから、日本人にはややこしい。
そうして良くも悪くもテキトーに都合よく使われてきたスイフト名を、きっちりと世界統一名称にしたのが、累計500万台のスタート地点とされる先々代である。
この資料によると、スイフトの地域別販売比率も興味深い。なんと全体の55%がインドだ! インドが“スズキの生命線”というのは本当に本当なのだ。
その圧倒的シェアのインドの次に、欧州が17%、日本が10%と続く。日本一国と欧州全土を横ならび比較するのもなんだが、スイフトは日本より欧州のほうが売れているわけだ。スイフトが“和製欧州車”ともいうべき骨太グルマである理由がここに……と思ったら、日本に中国その他のアジア諸国を足すと合計21%となり、欧州を逆転する。
さらに、ひと桁パーセンテージながら大洋州や中南米、アフリカ、中近東にもスイフトは販売されている。ぬけ落ちているのは、数年前にスズキが四輪販売から撤退した北米だけ。スイフトは日本人が考える以上のワールドカーということだ。
“長者三代”とならないために
前記の累計販売資料を見ると、スイフトの世界販売は、先々代から先代に切り替わってから、さらに加速したこともわかる。先代は、中身はすべて新しくしたくせに、スタイリングはパッと見で「どっか変わったっけ?」と錯覚するほどの超キープコンセプトだったが、先々代に輪をかけて成功したわけだ。
新型スイフトの開発責任者は「3代目が一番むずかしいんですよ」としみじみ語っていた。シロートながら私も同感だ。いかに酷似した2世代が結果を残したとしても、3代目までもが代わり映えしなければ、成功確率がガタ落ちなのは他社の例からも明らかである。
軽自動車では巨人のスズキも、日本の白ナンバー登録車業界ではニッチである。そのぶんアツい支持者の比率も高く、新型スイフトのスタイリングはすでに賛否両論っぽい。
ただ、スズキを擁護するわけではないが、前記のもろもろの事情を考えれば、今回のスタイリングデザインもうまいものだと思う。
スズキがこれまで2世代の“スイフトの記号性”と定義したのは、ブラックアウトされたAピラーによる「ラップアラウンドウィンドウ」と大径タイヤを強調するショルダーライン、釣り目のヘッドライトに縦型テールランプだそうだが、それらを網羅した新型スイフトも、なるほどスイフトである。
フロントウィンドウを寝かせすぎず、ピョコンと切り立ったキャビン形状も、キュートなビジュアルと視界性能の両立において、なかなか巧妙な手法である。
「パーソナルユースに特化」とはいうものの
スイフトの主戦場のひとつである欧州ではBセグメントの大型化が顕著なのに、新型スイフトは車体サイズを大きくしなかった……というより、わずかに小さくした。
先代デビュー時点ではスズキのコンパクトカー世界戦略を実質スイフト1台でまかなっていたのに対して、現在はその下にイグニス、上に「バレーノ」がある。ファミリーカー的なニーズはバレーノが担当することで、スイフトはパーソナルカーとして割り切ったという。
ホイールベースを20mm伸ばしただけでなく、新プラットフォームによって空間効率もより向上している新型スイフトだが、その恩恵は後席にはほとんど充当されず、もっぱら不評だった荷室空間の拡大に使っている。
リアの隠しドアノブも、お世辞にも使い勝手がいいとはいえないが、少なくともインドや欧州では「後席重視の向きはバレーノをどうぞ」という明確な戦略を採る。それでも、後席レッグルームは先代より10mm拡大しており、 後席も意外と使えるというのが実感だけど。
そんな後席に対して、運転席環境に対するマジメさは、新型でも変わらぬスイフトの美点だ。先代で定評のあったステアリングやシートの調整幅の広さと細かさはそのままに、フットスペース周辺を徹底して削り取って、ステアリングホイールも フラットボトム形状となった。
聞くところでは、先代では小柄なドライバーから「ダッシュボードやステアリングにアシが当たる」という声があったんだとか。小柄なドライバーほどシートスライドを前に、座面を高くするからだ。どちらかというと大柄(身長178cm)な部類に入る筆者は先代でもなにも問題なかったが、そういわれてみると、このサイズのクルマとしては足もとがやけに広々している。
というわけで、D字型ステアリングも「スポーツカーな気分」といった表面的なウケをねらったわけではないそうだ。
「RS」もいいけれど
3種類となったパワートレインは、すべておなじみのもので、主力となる1.2リッターおよび同マイルドハイブリッドは、単体性能もごく平均的なものである。
しかし、新型スイフトはとにかく軽い。同等性能のパワートレインをもつ同クラス平均より、おおざっぱに約100kgも軽い。
最近のスズキはどれも軽いが、新型スイフトはひとまわり小さいイグニスより同じパワートレインでも20~30kg重いだけ。イグニスよりひとつ上級(=高強度)のBプラットフォームを土台とすること考えると、スイフトの軽さはさらにインパクトが大きい。
今回はマイルドハイブリッドの「ハイブリッドRS」と、最上級1リッターターボの「RSt」が中心の試乗となったが、ハイブリッドでもちょっとしたスポーツ車ばりの活発さで、RStにいたっては完全にホットハッチの領域の速さである。
今回から主力モデルに昇格となった「RS」の“欧州仕込み”という宣伝文句はダテではないようで、シャシーの味つけやパワートレインの信頼性にまつわる開発は、基本的に欧州で実施。グローバルではRSのシャシーが基準となる。開発手順としても、世界基準(≒RS)を確定させてから、それベースに日本専用セット(=非RS)をつくっていったという。
よって、RSといってもゴリゴリのスポーツサスではない。日本特有の目地段差などで多少のコツコツはあっても、車速60~80km/hに達するとスーッと落ち着く。ステアリングもことさら俊敏に利くわけではないが、とにかく車重が軽いので小気味いい。
ただ、参考車として用意されていた「ハイブリッドML」や1.2リッターの「XL」もチョイ乗りしたら、これがまたよかった。RSより明らかに柔らかで自然なロール感なのに、その奥にきっちりコシがある。考えてみれば、これらも大径16インチホイール前提で、このクラスとしてはぜいたくな仕様なのだ。
少なくとも千葉・幕張周辺の市街地および滑らかな高速道を転がしただけでは、個人的には総じてRSより好印象だった。
小さいようで大きい60kgの差
開発陣によると、日本で販売される新型スイフトのシャシーチューンはRS系と非RS系の2種類。バネ、ダンパー、タイヤがそれぞれ専用品だが、パワートレインによるちがいはないという。
……だからなのか、新型スイフトでは、RSと非RSの乗り心地の差だけでなく、パワートレインによって、操縦性にけっこう明確なちがいがある。しかも、その差幅はRS系の3グレードでとくに大きかった。
RS系でもっとも軽快で動きが正確だったのは、あくまでチョイ乗りの印象になるが、1.2リッターのMT。乗り心地もバランスよく、個人的にもっとも好印象だった。それに比べると少し動きが重いのが気になるが、ステアリングにリアルな接地感が伝わるのはターボである。その中間のハイブリッドRSは他の2グレードより、オタク目線で見ると、ステアリングの手応えが心もとない傾向が少しある。
新型スイフトでは最軽量の1.2リッターRSと最重量級のRStで最大60kgの重量差があり(FF車の場合)、その重量差はすべて前輪軸荷重に集中している。なるほど、クルマの最低限の安全性や強度設計では60kgは許容範囲だろう。だからこそ、スズキもチューンを統一しているわけだ。
しかし、新型スイフトは全身で900kg前後しかない軽いクルマである。相対的に考えると、60kgの重量差がクルマ全体におよぼす影響は小さくないはずで、乗り味に明確なちがいが出てしまうのは当然といえば当然だ。
オタク心をくすぐるクルマ
また、新型スイフトはいつものスズキからすると、リアサスペンションが少し柔らかく、ロールも大きめだ。パーソナルカーとして割り切りつつも、おそらく後席の乗り心地に少し配慮した結果だと思われる。
たしかに低速域での乗り心地にそれは効いているようだが、オタクが期待するスズキ伝統の走りにとってはいいことばかりではないかな……と思ったのも正直なところだ。
新型スイフトでは全体的に、ステアリングフィールに走りオタクにはちょっと物足りない感じがあるのは否定できない。さらに、前記のようにグレードによってステアリングの手応えに少なからぬ温度差が出てしまっているのも、こうしたシャシーバランスが無関係ではないかもしれない。だとすれば、個人的には、ドライバーズカーとしてもう少しリアをバシッと固めてほしい。
……などと、本来は安価で実用的なゲタグルマに、思わずオタクなツッコミをしてしまうのも、これがスイフトだからである。ほかでもないスズキ自身が、スイフトのスイフトたるゆえんを「洗練されたデザインと優れたハンドリング」と定義している。
いずれにしても、スイフトの“欧州仕込み”を味わうには、今回はどうにも物足りない、ごく限定されたパターンでの試乗しかできなかった。だから、思いっきりアクセルペダルやブレーキを踏むことができたら、グレードごとのちがいや、新型スイフトの印象もガラリと変わってしまう可能性はある。
新型スイフトは相変わらずオタク心をくすぐるクルマである。自動ブレーキやレーダークルーズコントロール関係もクラストップ級の充実機能だし、いまどき5MT(しかも変速機そのものも新開発)を3グレードも用意する。どうしたって「ああでもない、こうでもない」といいたくなる。だから、この原稿もこんなに長くなってしまった。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・スイフト ハイブリッドRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
モーター最高出力:3.1ps(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:5.1kgm(50Nm)/100rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:27.4km/リッター(JC08モード)
価格:169万1280円/テスト車=199万3518円
オプション装備:ボディーカラー<バーニングレッドパールメタリック>(2万1600円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション<ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー+ステアリングハンズフリースイッチ>(14万2560円)/セーフティパッケージ<デュアルセンサーブレーキサポート+誤発進抑制機能+車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能+先行車発進お知らせ機能+ハイビームアシスト機能+SRSカーテンエアバッグ+フロントシートSRSサイドエアバッグ+アダプティブクルーズコントロール+リアシートベルトフォースリミッター&プリテンショナー[左右2名分]+運転席センターアームレスト>(9万6120円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/フロアマット(2万0142円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:507km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・スイフトRSt
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:930kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:102ps(75kW)/5500rpm
最大トルク:15.3kgm(150Nm)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:170万4240円/テスト車=198万4878円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション<ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー+ステアリングハンズフリースイッチ>(14万2560円)/セーフティパッケージ<デュアルセンサーブレーキサポート+誤発進抑制機能+車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能+先行車発進お知らせ機能+ハイビームアシスト機能+SRSカーテンエアバッグ+フロントシートSRSサイドエアバッグ+アダプティブクルーズコントロール+リアシートベルトフォースリミッター&プリテンショナー[左右2名分]+運転席センターアームレスト>(9万6120円) ※以下、販売店オプション ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/フロアマット(2万0142円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:489km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・スイフトRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5MT
最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.6km/リッター(JC08モード)
価格:159万4080円/テスト車=184万8582円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション<ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー+ステアリングハンズフリースイッチ>(14万2560円)/セーフティパッケージ<デュアルセンサーブレーキサポート+車線逸脱警報機能+ふらつき警報機能+先行車発進お知らせ機能+ハイビームアシスト機能+SRSカーテンエアバッグ+フロントシートSRSサイドエアバッグ+アダプティブクルーズコントロール+リアシートベルトフォースリミッター&プリテンショナー(左右2名分)>(9万1800円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万0142円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:403km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・スイフトXL
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:890kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:22.6km/リッター(JC08モード)
価格:146万3400円/テスト車=172万2222円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション<ハンズフリーマイク+外部端子+全方位モニター+フロント2ツイーター&リア2スピーカー+ステアリングハンズフリースイッチ>(14万2560円)/セーフティパッケージ<デュアルセンサーブレーキサポート+誤発進抑制機能+車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能+先行車発進お知らせ機能+ハイビームアシスト機能+SRSカーテンエアバッグ+フロントシートSRSサイドエアバッグ+アダプティブクルーズコントロール+リアシートベルトフォースリミッター&プリテンショナー[左右2名分]+運転席センターアームレスト>(9万6120円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万0142円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:385km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。