日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)
未来は“スーっと”やってくる 2025.10.08 試乗記 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。より効率的に、より先進的に
間もなく日本登場となる、新型日産リーフ。一充電走行距離は702kmと長大で、装備なども充実しているので、「これならちょっと欲しいかも」と思わせる。走りに関しても、「一度乗ったら戻れない、どんなクルマよりも気持ちよくドライブできることを目指した」のだという。キーワードは「スーっと滑らか」。なんだか抽象的な表現だが、加速や減速、乗り心地など動的質感を高めてきたということだろう。その走りを一足早く「日産グランドライブ」で体験。クローズドコースだが、一般道に近い路面もあるので、その「スーっと」を確かめてみた。
外寸を見ると、従来型の2代目と比べて、ホイールベースは同等ながらボディーの全長は120mm短縮された。おもにフロントオーバーハングが短くなっているのだが、ボンネット下に収まるパワートレインの体積が10%削減されたことと、従来はノーズにあった充電口がフロントフェンダーに移設されたことによって実現されたものだ。ボディーはコンパクトになっているのに乗り込んでみれば室内は広々としている。新たに「アリア」と同様の「CMF-EV」プラットフォームを採用したことによって、空調ユニットがボンネット下のモータールームに収まることになり、インストゥルメントパネルが薄くできたのだ。フラットフロアにもなっているから足元もスッキリとしている。Aピラーは従来に比べてわずかに細くなるとともに後方に引かれており、視界も開けた。上を見上げればオプションの調光パノラミックルーフが装備されていて、これも開放感につながっている。
従来型のインテリアは個性がまったくないうえに、あまりソフトパッドが使われていない安っぽいものだったが、大きく改善された。インストゥルメントパネルまわりは12.3インチと14.3インチのディスプレイを統合したモノリススタイルのデザインを採用していて、全体的にクリーン&シンプル。シフトセレクターは新たにボタン式となった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ドライブフィールに磨きがかかる
これまでも日産はモーターの制御に定評があり、加速/減速の滑らかさやパワートレインの静粛性は見事だったが、新型リーフで走り始めるとさらにブラッシュアップされていることがすぐさま実感できた。アクセル操作に対して動きが遅れることがないのはもちろんだが、加速や減速に唐突感がなくてスムーズ。モーターは駆動トルクが強力だから、どのメーカーのBEVも発進時の加速などはある程度鈍くしているのだが、やりすぎればレスポンスが悪くなってしまう。そのさじ加減が絶妙で走りやすいのだ。従来型に比べると発進時の加速は素早くなっているが、それでもスムーズさは失われていない。
回生ブレーキの強度が高まる「eペダル」でアクセルを一気に戻しても、減速Gの立ち上がりはスムーズだ。モーターの制御だけではなく、細かな振動なども抑えられていた。これはモーター、減速機、インバーターを一体化した“3 in 1”構造によるもの。従来はそれぞれを締結して組み合わせていたのだが、新型ではこれら3つをひとつのユニットに一体化させることで、剛性を高めているのだ。モーターも6分割スキューローターの採用によって、磁力の波による振動を抑制している。あらゆる面で振動が抑えられるとともに、制御のスムーズさにも磨きをかけた新型リーフの加速・減速は、確かに「スーっと滑らか」だった。
進化したドライブフィールと快適性
ボディーはねじり剛性が86%向上、ステアリング剛性も48%向上。マルチリンクのリアサスペンションも横剛性を66%高めているが、凹凸などでの衝撃を抑えるべく、前後剛性は28%下げている。新型リーフは快適な乗り心地と操縦安定性を高いレベルでバランスさせることを目指している。コース内には首都高速のジョイントを模した路面があるが、そこでの入力は丸い感覚にいなされ、各部のきしみなども感じずに快適だった。低速で走らせるとゴツゴツしたり、左右に揺さぶられて乗員の頭が振られたりする凹凸の多い路面でも、おおむね良好だ。18インチと19インチのタイヤ装着車を比べると、19インチのほうが少しだけ重さを感じる場面もある。だが想像よりもずっと差が小さいのは、19インチをメインに開発したからだろう。
速度を高めてコーナリングを試してみると操縦安定性が従来よりも大きく進化していることを実感した。リアが安定しているうえに、ステアリング操作に対する正確性が高まっているのだ。パワーステアリングがコラムアシスト式からラックアシスト式になったことで、フィーリングは抜群によくなった。しっかりとした手応えがありながらもフリクションが小さい操舵感なのだ。シャシーの乗り味も「スーっと滑らか」を実現していると言っていい。
BEVで肝心なのは静粛性で、エンジンがないだけにロードノイズや風切り音が気になるものだ。従来型もそれなりに静かだったが、新型はさらに音・振対策に力を入れている。確かに全体的に音量レベルが下がっているが、風切り音が少し目立ちやすい。とはいえ、プレミアムカーのように静音ガラスなどのぜいたくな装備を使えないことを思えば、程よいバランスに落ち着いたというところだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマ以外の懸念材料にも目を向けるころ合いか
このように試乗で試せた進化に加え、新型リーフはカーナビとの連動機能の採用により、実電費の“先読み”や充電性能も高まっている。これまでのリーフが積み重ねてきた累計280億km分の走行データや、Googleマップのプローブ情報などが活用され、目的地を設定すれば消費電力の予想がかなりの精度でできるようになったのだ。走るコースによるバッテリーの負荷も予想可能で、どれぐらいの温度が適切かをシステムが判断。バッテリーを適切な温度に調節する。効率よく走行用電力を使いつつ、バッテリーの温度管理の省電力化にも寄与しているという。寒冷地仕様を選択すれば、低温環境でバッテリーを事前に温めて急速充電の受け入れ能力を高めることができるのも、大きな進化だ。
カタログスペックには表れない日常域での使い勝手なども含め、BEVとしての魅力を全面的に高めた新型リーフ。どれほどの人に受け入れられるかはまだわからないが、クルマとしては文句がない仕上がりだ。懸念はリセールバリューだが、現状ではバッテリーの保証期間が切れてからの価値が予想できないのが根本的な課題だろう。2027年に欧州で始まるバッテリーパスポートが広まっていけば、すべてのバッテリーの価値が正確にわかるようになり、リセールバリューも適切になっていくはずだが、まだしばらくは時間がかかる。メーカー独自の取り組みにも期待したいところだ。
(文=石井昌道/写真=日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
日産リーフB7 X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1810×1565mm
ホイールベース:2690mm
車重:1880kg
駆動方式:FWD
モーター:交流誘導電動機
最高出力:218PS(160kW)
最大トルク:355N・m(36.2kgf・m)
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ダンロップeスポーツマックス)
一充電走行距離:687km(WLTCモード)
交流電力量消費率:133Wh/km(WLTCモード)
価格:518万8700円/テスト車=--円
オプション装備:プロパイロット2.0/プロパイロットリモートパーキング/ヘッドアップディスプレイ ※以下、販売店オプション フレキシブルラゲッジボード/フロアカーペット
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
日産リーフB7 G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1810×1565mm
ホイールベース:2690mm
車重:1920kg
駆動方式:FWD
モーター:交流誘導電動機
最高出力:218PS(160kW)
最大トルク:355N・m(36.2kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R19 95V/(後)235/45R19 95V(ダンロップeスポーツマックス)
一充電走行距離:670km(WLTCモード)
交流電力量消費率:137Wh/km(WLTCモード)
価格:599万9400円/テスト車=--円
オプション装備:調光パノラミックガラスルーフ<遮熱機能付き>+オーバーヘッドコンソール<サングラスホルダー付き>+ルーフレール/寒冷地仕様 ホットプラスパッケージ<後席ヒーター付きシート+リアヒーターダクト+リチウムイオンバッテリーヒーター>/寒冷地仕様 クリアビューパッケージ<リアLEDフォグランプ+ワイパーデアイサー>/プロパイロット2.0/プロパイロットリモートパーキング/100V AC電源<1500W、センターコンソールボックス1個、ラゲッジ1個> ※以下、販売店オプション フレキシブルラゲッジボード/フロアカーペット
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【画像・写真】新型日産リーフB7 G(79枚)
◆【画像・写真】新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車(47枚)
◆【ニュース】日産が電気自動車の新型「リーフ」の受注を10月17日にスタート 航続距離は702kmを実現
◆【ニュース】日産が新型EVの3代目「リーフ」を発表 600kmを超える航続距離を実現

石井 昌道
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
NEW
思考するドライバー 山野哲也の“目”――フォルクスワーゲンID. Buzzプロ編
2025.11.21webCG Moviesフォルクスワーゲンが提案する、ミニバンタイプの電気自動車「ID. Buzz」。“現代のワーゲンバス”たる同モデルを、フォルクスワーゲンをよく知るレーシングドライバー山野哲也はどう評価する? -
NEW
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記
2025.11.21エディターから一言アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!? -
NEW
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る
2025.11.21デイリーコラムモビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。 -
「アルファ・ロメオ・ジュニア」は名門ブランド再興の立役者になれるのか?
2025.11.20デイリーコラム2025年6月24日に日本導入が発表されたアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「ジュニア」。同ブランド初のBセグメントSUVとして期待されたニューモデルは、現在、日本市場でどのような評価を得ているのか。あらためて確認してみたい。 -
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(前編)
2025.11.20あの多田哲哉の自動車放談タフなクルマの代名詞的存在である「ジープ・ラングラー」。世界中に多くのファンを持つ同車には、トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんも注目している点があるという。それは一体、何なのか? -
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現
2025.11.20マッキナ あらモーダ!イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。


























































