フェラーリGTC4ルッソ(4WD/7AT)
しみじみと沁みる12気筒 2017.05.08 試乗記 ユニークなシューティングブレークボディーをまとう「フェラーリGTC4ルッソ」。6.3リッターの自然吸気V12エンジンが発する、しみじみと心に沁(し)みる咆哮(ほうこう)に浴すれば、この異形のフェラーリが、正統派の跳ね馬の系譜にあることがすぐに理解できるだろう。都内から一路西へ、伊豆のワインディングロードを目指した。フェラーリにとっての「クロスオーバー」
異形のフェラーリである。「FF」の後継モデルで、それを進化させた4シーター4WDのGTモデルだが、全長4.9m×全幅2m、ホイールベース2990mmもの巨大なシューティングブレークのようなプロファイルは、ユニークというか奇抜というか、近頃子供たちに人気の深海に棲(す)む“ブサカワ”なサメを思い起こさせる。あのフェラーリがこの種のモデルを出す必要があるのかと不思議に思う人も多いはずだが、昔から世界中の富裕層を相手にしてきたことを忘れてはいけない。すなわち経済力も考え方も“普通”ではない人たちである。近場のお出かけやたまのサーキット走行には「488」があるけれど、遠出する場合も「レンジローバー」や「カイエン」ではなくフェラーリで、たとえばグシュタードやサンモリッツなどの山岳リゾートへ行きたいという顧客のためのグランドツアラーなのである。ポルシェはもちろんランボルギーニもSUVマーケットに参入しようとしている中、かたくなにSUVに手を染めることを潔しとしないフェラーリが、それでも多少の実用性を求める顧客に向けての提案ということだろう。
実用性では無論現代の標準的SUVとは比較にならないが、世間一般の感覚からすればフェラーリが実用性を口にするなんて、まるでサラブレッドに重い橇(そり)を引かせるようなものかもしれない。だが工業製品の一般化とはそういうものである。そもそもを言えば、かつてのフェラーリの市販モデルはすべて、それなりの快適性と実用性を考えた贅沢(ぜいたく)で高性能なグランドツアラーだった。そのままルマンに出場できるようなスポーツモデルのほうが例外だったのである。ついでに言えば、フェラーリのエンジンは12気筒と決まっていた。クルマ好きには釈迦(しゃか)に説法ながら、「125」や「250」「275」といった過去の車名の数字はシリンダー当たりの排気量を示しているが、それで済むのはエンジンがすべて12気筒だったからである。その点を除けば、GTC4ルッソ(これも伝統的な名前だが)は正統派フェラーリの最新作と言える。
神々しいV12
完全にフロントアクスルの後方低く収められた6.3リッター直噴V12は、あの「エンツォ」用6リッターを先祖とするエンジンである。従来型比+30psの690ps(507kW)/8000rpmと697Nm/5750rpmを生み出すが、どの回転域でも恐ろしくパワフルで滑らかであることはもちろん、シャープなレスポンスと爆発的な吹け上がりを併せ持ち、さらに硬質な密度感も備わっている。6リッターを超えるエンジンが8000rpmに至っても、おおらかに晴れ晴れとパワーを噴出させるのは、小排気量やターボエンジンをフルに回すのとはまったく別世界のカタルシスがある。しかも“演出”されたものではない、実に華やかなサウンドが伴う。パワフルなテナーサックスがハイトーンを自由自在に吹きまくるような、第九の合唱のクライマックスのような恍惚(こうこつ)感に包まれるのだ。だからその辺の山道で試す時は十分に注意しなければいけない。かつてのスーパーカーは、恍惚感と別の世界への暗い扉がちょっと開く不安感が隣り合っていたものだが、GTC4ルッソにも、どこかへ連れていかれるのではないか、というあの本能的な恐怖感が隠されているように思う。
700ps近い強大なパワーゆえに最高速335km/h、0-100km/h加速は3.4秒というハイパフォーマンスカーだが、それでいながら渋滞の中でもまるで神経質なところを見せない。7段DCTはEデフと一緒にリアに配置されたトランスアクスル式だが、入念に調律されているように素晴らしく従順で扱うのに気づかいは要らない。それとは別に前輪用のPTU(パワートランスファーユニット)をV12エンジンの前側にも設け、多板クラッチを介して左右各前輪を駆動するという前代未聞の4WDシステムをFFから受け継いでいるが、さらにGTC4ルッソには四輪操舵システムも備わり統合的にコントロールするという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
真っすぐでも曲がっていてもうれしい
その4WSシステムと4WDそしてEデフの統合制御の効果だろうが、直進時はビシリ安定しているいっぽう、舵角で60度ぐらい切ったあたりからのレスポンスには最初は面食らうかもしれない。「レクサスLS600h」よりも長いホイールベースを持つ巨大な車が、スパッと回り込むそのターンインの鋭さと、どこまでもラインを維持しようとする旋回力のレベルには驚くばかりである。ただし、それゆえガバッと大きく切ってまた戻すというような操作をすると違和感を覚えるかもしれないが、車速が上がれば気にならなくなるし、ESCオフモードだと各種制御の介入が抑えられるようだが、普段はお勧めしない。何しろ一般道でその能力をすべて解き放つには日本の山道は狭すぎるのだ。
ちなみに車重は1920kgとカタログにはあるが、車検証記載の車重は2tに及ぶ。ついでに言うといまだにカタログには1790kgという乾燥重量が掲載され、それをもとにパワーウェイトレシオを載せているのは何だか昔のイタリア車のようだ。
リアシートは意外に実用的で、大人2人がまあ無理せず座れるだけのスペースがあるから4シーターを名乗る資格はあるだろう。3m近いホイールベースを持ちながら、このぐらいかという向きもあるだろうが、ホイールベースのうちの3分の1ぐらいはV12をフロントアクスル後方に搭載するために使われているのだから仕方ない。かつてインドをフェラーリで1週間ほど走った時、男3人で交互にリアシートに乗って旅したが、あの時の車が「612スカリエッティ」ではなく、このGTC4だったならはるかに快適に旅することができたはずだ。ラゲッジスペースの容量も450リッターと十分に役に立つ大きさだ。
その形も好きになる
最初はどう見ても奇妙だと思っていたスタイルも、半日乗ったら何だかいいんじゃないか、いやこれがいいと思い直した。豪快で華やかで気高いV12を積むなら、これぐらい特徴的な姿かたちがふさわしい。
ただし、最近のフェラーリでどうしても馴染(なじ)めないのがインストゥルメントだ。F1をイメージさせることを狙っているのだろうが、ステアリングホイール上の“マネッティーノ”をはじめとしたスイッチ類は、どうしてもそこにある必然性もないし、タッチやデザインも玩具のゲーム機を想起させる。メーターグラフィックも見やすいわけではないし、特別のメリットもないと私は思う。V8搭載のスーパースポーツならまだしも、このGTC4ルッソのようなラグジュアリーGTには、まったく新しいアイデアを試してほしいと思う。
そんな時に懐かしく思い出すのはかつての、80年代の「テスタロッサ」以前のインテリアである。GTC4ルッソのようなGTカーの場合は、ほんのわずかのシフトタイムを削り取ることに大きな意味があるわけではない。ならば最新のしみじみと美しく回る12気筒を、もう一度自分の手足をフルに使って、ゲートが刻まれたマニュアルギアボックスで操ってみたいと妄想するのである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
フェラーリGTC4ルッソ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4922×1980×1383mm
ホイールベース:2990mm
車重:1790kg(乾燥重量)/1920kg(空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.3リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:690ps(507kW)/8000rpm
最大トルク:697Nm(71.1kgm)/5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)295/35ZR20 105Y(ピレリPゼロ)
燃費:15.0リッター/100km(約6.7km/リッター HELEシステム搭載による欧州複合サイクル)
価格:3470万円/テスト車=4438万9000円
オプション装備:トリプルレイヤー・スペシャルカラー<Bianco Italia>(242万円)/Apple CarPlay(37万8000円)/トロリーセット(98万3000円)/カラード・ブレーキ・キャリパー<ブルー>(13万7000円)/パノラミック・ガラス・ルーフ(181万5000円)/フロント&リアサスペンションリフター(45万4000円)/スポーツ・エグゾースト・パイプ(7万6000円)/ゴルフバッグ(98万3000円)/スクーデリア・フェラーリ フェンダー・エンブレム(16万7000円)/パッセンジャー・ディスプレイ(53万円)/カラー・レブカウンター<イエロー>(8万8000円)/20インチ・ダイヤモンドカット鍛造ホイール(72万6000円)/ブラック・パノラマルーフ・エンドセレクション(30万3000円)/Hi-Fiオーディオ(56万円)/カラードステッチ<Grigio Scuro>(6万9000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3423km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:309.4km
使用燃料:74.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.1km/リッター(満タン法)

高平 高輝
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。

































