フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/6AT)
ますます硬派に 2017.07.04 試乗記 デビューから3年半を経て、7代目「ゴルフGTI」にマイナーチェンジが施された。伝統のホットハッチは、モデルライフ半ばのテコ入れでどう変わったのか。ワインディングロードを含むさまざまな道でチェックした。パワーも装備も“増し増し”
ゴルフがマイナーチェンジして、GTIも新しくなった。ボディーに若干のフェイスリフトが施され、装備類もフォルクスワーゲン&アウディグループ車の最新モードにアップデートした。装備の充実にともなって、GTIに限らず、パッケージオプションの種類が一気に増えたのも新型シリーズの特徴だ。
1年前、GTI生誕40周年を記念して、パワーを265psに向上させた「GTIクラブスポーツ」が限定販売された。市販FF車最速を懸けたニュルブルクリンクレコードブレーカー「GTIクラブスポーツS」の流れをくむ史上最強GTIである。
あれには及ばないものの、新型の2リッター4気筒ターボは220psから230psにパワーアップしている。350Nm(35.7kgm)の最大トルクは変わらないから、“キモチ程度”だろうが、カタログには「最高出力を7kW(10ps)もアップすることに成功しました」と書いてある。
本体価格は、今回テストしたDSGで399万9000円。従来モデルからは9000円の値上げにとどまる、と言いたいところだが、デジタルメーター、LEDライト類、ダイナミックコーナリングライトなどから成るテクノロジーパッケージ、アダプティブシャシーコントロールと18インチタイヤを組み合わせたDCCパッケージ、カーナビ、インフォテインメント関係のDiscover Proパッケージなど、最新の装備類を搭載した試乗車は、約466万円のプライスタグを下げる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「クラブスポーツ」寄りに変化
以前より硬派なクルマになったなあ、というのが新型GTIの第一印象だった。4年前、7thゴルフのGTIに初めて乗ったときは、ホットハッチを水にしてしまったかの如き機械的洗練度の高さが印象的だった。もちろん大入力を与えれば、GTIが“出てくる”。しかしふだんはすっかり爪を隠している。そんなクールな高性能ぶりが7代目GTIの境地であり、魅力であると感じたが、今回はちょっと違った。
ドライブモードの硬軟にかかわらず、ステアリングはイニシャルの操舵力が少し重めにしつけられている。乗り心地もスポーティーカーらしくややゴツゴツする。標準タイヤは17インチの225ヨンゴーだが、試乗車はオプションの225/40R18(ブリヂストン・ポテンザS001)を履いていた。そのせいかと思って、webCGの記事をチェックすると、以前乗ったGTIとサイズも銘柄も同じだった。とすると、アダプティブシャシーコントロールを備える足まわり全体が以前より締め上げられたということだろう。フツーのGTIも多少クラブスポーツ寄りになったのである。
一方、プラス10psのパワーアップは、はっきりと体感できるほどではない。といっても、十分すぎるほど速い。スロットルを踏み込めば、これがゴルフか!? とたじろぐほどの猛ダッシュをみせる。その場合でもトルクステアのような破綻はみせない。コールドスタート直後にグワっと吠えたりしない常識人ぶりもこれまでどおりだ。
自慢の装備は気になるところも
コックピットでの最初のサプライズは、目の前のメーターだった。アナログ計器がなくなり、液晶のデジタルパネルになった。たまたま直前まで「アウディTTクーペ」に乗っていたので、ゴルフよ、おまえもか! と思った。
テクノロジーパッケージに含まれるアクティブインフォディスプレイは、ナビのマップが広げられるなど、よりインフォーマティブにはなる。だが、スイスの機械式腕時計みたいなシンプルビューティーさを持つGTIのアナログメーターも捨て難い。細かい話をすると、バーチャル式のタコメーターは、アナログ式に比べると、針の動きに鋭さがない。DSGの瞬速シフトを目で知る楽しみが薄れてしまうのは残念だ。
エコからスポーツまで、ドライブモードは4種類。スポーツだと俄然スロットルの“つき”がよくなってGTIドライブが楽しめる。だが、モードを切り替えるにはセンターパネルのボタンを押して、ディスプレイにセレクト画面を呼び出すという二度手間をしいられる。しかもそれは10秒ほどで消えてしまう。ステアリングの手元で切り替えができるアウディより不親切だ。
リバースに入れると、後ろのほうからゴソッという異音が聞こえる。テールゲートのVWエンブレムが開いて、リアカメラが出る音だ。今度のマイナーチェンジで改善されているかと思ったら、直っていなかった。暗い車庫でバックしたりすると、あの音はちょっとコワイ。
リアルな燃費は過去最高
350kmを走って、燃費は11.2km/リッターをマークした。高速道路ではアクティブクルーズコントロールやレーンキープアシストの恩恵にあずかる一方、下道では可能な限りGTIらしく走ってリッター11kmは立派だと思う。いままで試乗したGTIの現実燃費としては最良である。
国境をまたいで「メガーヌ ルノースポール」が仕掛けた“ニュルブルクリンクの戦い”にGTIが参戦しなくてもいいような気もするが、本土防衛のためにはやむを得ない。メガーヌR.S.、「シビック タイプR」による三つどもえの戦いをおもしろがるのも、これからのGTIの楽しみ方だろうか。
外誌の報道などによれば、ゴルフⅧが登場するのは東京オリンピックの年。次期GTIはガソリンエンジンに電動モーターの組み合わせになるという。すでにプラグインハイブリッドの「GTE」はある。GTEだって、体感的にはGTIをかすませるほど速い。どんな形のハイブリッドになるのか、楽しみだが、この情報が正しければ、ゴルフ7.5と呼ばれる新型ゴルフのGTIは、純粋内燃機関最後の“ゲーテーイー”になるわけである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm
ホイールベース:2635mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:230ps(169kW)/4700-6200rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4600rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:399万9000円/テスト車=466万3200円
オプション装備:Discover Proパッケージ<フォルクスワーゲン純正インフォテイメントシステム“Discover Pro”[SSDナビゲーションシステム、VICSワイド対応、DVD/CDプレイヤー、MP3/WMA再生、AM/FM、地デジTV受信、BlueToothオーディオ/ハンズフリーフォン、ジェスチャーコントロール、“Volkswagen Media Control”アプリケーション対応]+ETC2.0対応車載器+Volkswagen Car-Net[“App-Connect”、テレマティクス機能“Guide&Inform”]>(22万6800円)/テクノロジーパッケージ<デジタルメータークラスター“Active Info Display”+ダイナミックコーナリングライト+ダイナミックライトアシスト+ダークテールランプ+LEDテールランプ[ダイナミックターンインジケーター付き]>(17万2800円)/DCCパッケージ<アダプティブシャシーコントロール“DCC”+225/40R18タイヤ+7.5JX18インチアルミホイール[5スポーク]>(21万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<GTI>(4万8600円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2097km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:352.6km
使用燃料:31.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?