世界で最初の“バーチャルショー”に!
近未来の東京モーターショーのあり方を提案する
2017.09.27
デイリーコラム
入場者数は全盛期の半分以下に
2017年10月27日、東京ビッグサイトで東京モーターショーが開幕する。テーマは「世界を、ここから動かそう。BEYOND THE MOTOR」だそうだ。主催者が大規模なテーマ展示を行うのが今回の特徴。「TOKYO CONNECTED LAB 2017」と題し、西ホールに約300人を収容できる巨大ドーム型映像空間を設置し、自動運転、カーシェアリング、パーソナルモビリティーなど、2020年のメガシティー東京とさらにその先のモビリティー社会を俯瞰(ふかん)的に体験できるという。日本自動車工業会(自工会)の西川廣人会長は「これまでは規模を競ってきたが、これからは質を進化させ、世界一のハイテクショーとしたい」と語る。
ここのところ、東京モーターショーはかつての勢いを失ったと言われ続けている。数字を見るとそれは正しく、入場者数は2007年の142万5800人を最後に100万人を割り、その後一度も100万人には届いていない。2008年のリーマンショックによるリセッションの影響でGMが経営破綻するなどした直後の2009年は、海外メーカーが一気に不参加を決め、全体の出展会社数も半減、入場者数はいきなり61万4400人に減った。前回の2015年は81万2500人。ちなみに1991年は201万8500人だ。
ただし東京だけが勢いを失っているわけではない。9月に開かれたフランクフルトモーターショーにもこれまで出ていた日産や三菱、フィアットといったブランドが出展を取りやめた。フランクフルトの入場者数はここ20年以上ずっと90万~100万人の間で安定しているが、増えてはいない。もちろん、ふたつのショーの推移を見ただけでクルマが飽きられたと断じることはできないが、先進国のモーターショーが自動車メーカーにも一般人にも飽きられつつあるとは言えるのではないか。
これに対して、北京と上海で交互に開かれる中国のモーターショーは毎年規模を拡大しているし、タイやインドネシアなど、東南アジア各国のモーターショーも年々熱さを増しているというリポートをしばしば目にする。要するにモーターショーはその国の現在の市場規模ではなく、モータリゼーションへの期待値が入場者数や出展社数となって表れるのだろう。中国は年間販売台数約2800万台と市場規模はすでに世界一だが、人口を考えるとまだまだ増える余地がある。期待値も高いままなのだろう。
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先進国ではモーターショーが役目を終えつつある?
東京ショーに参加しないメーカーの人に話を聞くと、参加しない理由のひとつとして、東京は出展料が非常に高いことがあるそうだ。いくらなのかは教えてくれなかったが、北京や上海のモーターショーよりも高いと聞く。欧米のメーカーにとってみれば、年間販売台数が500万台で、国内メーカーが非常に強く、外国車のシェアが1割前後しかない日本のモーターショーが、年間2800万台クルマが売れ、さらに売れそうで、国内に合弁している相手が存在する中国よりも出展料が高いとなれば、日本へ出展するほうが不思議に思える。
ただし仮に「出展料を無料にするから来てください」と頼み込んだところで、一度不参加を決めたメーカーが戻ってくるとは考えにくい。前述の「出展料が高い」というのは数ある理由のうちのひとつであり、角が立ちにくいからそれを選んでいるわけだ。本当に何らかの効果が期待できると判断すれば、高くても出展するはず。
もうひとつ、インターネット時代となり、かつてに比べて情報伝達の手段が格段に増えたことも、メーカーがモーターショーに出展する理由を減らした。各国のモーターショーに出展し、メディアに取材してもらい、テレビ、新聞、雑誌に取り上げてもらわなくても、自らのウェブサイトを通じ、好きなタイミングで、画像や動画を一瞬にして世界中へ発信することができるようになった。昨今、モーターショーで一斉に新車を発表すると、ウェブサイトやページの一部でしか紹介してもらえないが、ショーの前に出せば大きく取り上げられるということを知ったメーカーが、ショーの前夜に新車を発表する機会が増えた。いち早く画像や動画を公開するパターンも増えた。こうして考えると、一堂に会して一斉にクルマや技術を見せるモーターショーというプラットフォームが、少なくとも先進国においてはじわじわと役目を終えつつあるのではないだろうか。
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世界で最初のウェブモーターショーに
こうなったらいっそ軽々と一線を越え、どこかに会場を設けるのではなく、世界で最初のウェブ上のみで開催されるショーにしてしまうというのはどうだろうか。東京電脳モーターショー、東京バーチャルモーターショーだ。こうなってくると頭に「東京」を付ける必要があるのかどうかわからないが。そこはひとつ“東京が始めた”という意味で残したい。
人々はひとつの会場へ集まるわけではなく、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を駆使して、世界中の好きな場所から、好きなタイミングで、スマホやPCを介してウェブ上のショー会場を“訪れる”のだ。よりリアルに感じたい人はVRゴーグルを用意すればよい。注目モデルのアンベールを大勢で盛り上がりながら見たいという人のために各地の4Dの映画館でプレスカンファレンスを上映してもよいだろう。
出展社にもメディアにも、はるか遠い極東の島国である日本までわざわざ来ていただく必要はなく、2年に1度、東京ショーのほうからあなたのデジタルガジェットまできらびやかなショーカーたちを届けにいくというわけだ。すぐには難しいかもしれないが、いずれは待ち時間なしで、登場したばかりのショーカーのドアを開け、走りだし、どこへでも好きな場所へ出掛け……ているかのような体験をしていただくことも可能になるかもしれない。出展各社にとって、こうした“リアルな虚像”を製作する費用が実際にショーカーをつくって東京へ運ぶよりも安上がりで済むかどうかはわからないが、まずどこかが始めて話題になれば必ず追従してくるはずだ。
ただしバーチャルショーは2つは必要ない。やるなら世界で最初でなければ意味がない。そのショーの主催者が日本の自動車メーカーの集まりである自工会だったらクールだなと思うが、いかが?
(文=塩見 智/編集=藤沢 勝)
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塩見 智
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