メルセデス・マイバッハS560 4MATIC(4WD/9AT)
リムジンもちょうどいいのが現代風 2017.10.18 試乗記 マイナーチェンジを受けた「メルセデス・マイバッハSクラス」に試乗。技術の粋を集めた最上のラグジュアリーサルーンの、進化の度合いを測るとともに、メルセデスが目指した方向性を探った。マイバッハ、にしては小さいか?
威風堂々、辺りを払う存在感と品格に包まれていることは疑いない。それでも「マイバッハ」と聞いて何となく釈然としないのは、どうしてもかつての巨大リムジンの印象が強く脳裏に刻まれているからだろう。第2次大戦前の高級車のことではもちろんない。2012年末まで生産された、21世紀のマイバッハのことだ。当時のダイムラー・クライスラーの意地と技術が詰め込まれた超ど級大型リムジンによってロールス・ロイスやベントレーの牙城に挑んだものの、ビジネスとしては成功とはいえなかった。メルセデス・ベンツのプレスリリースでも戦前のマイバッハについてのみ言及しているのは、“復活マイバッハ”があまり言いたくない苦い思い出と位置付けられているのだろうけれど、それでもAMG製6リッターV12ツインターボを搭載したかつての「Sモデル」の怒涛(どとう)の性能は今も忘れられない。
現在のマイバッハはメルセデス・ベンツのサブブランドたる「メルセデス・マイバッハ」として復活したものだ。かつて2002年に登場したマイバッハはおよそ5000万円から6500万円という価格帯だったから、それに比べれば2000万円台の新メルセデス・マイバッハはずいぶんと安い。というかそれだけでまったくの別物ということが分かるだろう。現在では率直にいって「Sクラス ロング」のさらにロング版である。ホイールベースが200mm延長された全長はおよそ5.5m(5465mm)だが、かつてのマイバッハは「57」および「62」というモデル名が示すとおりに、全長が短い仕様でも5.7mだったのだから、あれ? 意外に小さくないか、Sロングと見分けがつかないな、という印象を抱く人もいるだろう。昔話が好きなオジサンだけかもしれないが。
リアシートの足元が最大の違い
かつてのマイバッハや「ロールス・ロイス・ファントム」などに比べれば常識的な(?)長さとはいえ、ホイールベースは3365mmでSクラス ロングよりきっかり200mm長い。その分はすべて後席のスペースに充てられているから、足を投げ出してレッグレストとフットレストの上に乗せてほとんど寝そべることができる(バックレストは最大43.5度までリクライニングするという)。このリアシートが現在のマイバッハの最大の(そして唯一の)特徴である。まるでファーストクラス! といいたいところだが、今どきの飛行機のファーストクラスは完全にフラットなベッドになる。自動車ではそうはいかないのは安全面の心配があるからで、当然万一の場合に備えてプリセーフが備わり、エアバッグ内蔵シートベルトも用意されている。
自分でステアリングホイールを握るために購入するという方はまずいないだろうが、一体どんなものだろうという興味は誰もが抱くに違いない。とんでもなく豪華で快適で高性能なんじゃないだろうか、とワクワクしている方には申し訳ないが、Sクラス同様のマイナーチェンジを受けた現在のマイバッハは、正直にいって長いSクラスというレベルである。真っすぐ走っている限りはSクラスそのもの。インストゥルメントパネルやコントローラー類などドライバーが見て操作するものはすべてSクラスと同じ、後ろを振り向かなければ、あるいはコーナーに進入しなければ違いは分からない。
隔絶されているというほどでもない
肝心のリアシートは、もちろん圧倒的に静かであり、足を投げ出してほとんど寝そべって左右個別に備わるモニターでビデオや音楽を楽しみながらの移動が可能である。ただし、残念ながら外界と隔絶されているというほどではなかった。というのも、不整路面では意外に明確な突き上げを感じるのだ。寝ていたとしても目が覚めるぐらいのはっきりとしたショックを感じたこともあった。おそらくは20インチの巨大なランフラットタイヤも影響しているのだろうが、同様の傾向があるSクラス ロングと比べても特に優れているとはいえないレベルだった。
となるとやはり残念なのはダイナミックカーブ機構が新たに加わった「マジックボディーコントロール(MBC)」が備わらないことだ。MBCは導入が遅れる後輪駆動の「マイバッハS560」と「S650」のみに標準装備で、4MATIC仕様はエアマチックサスペンションとなる。Sクラスと中身が一緒だからこの設定は当然だが、路面の凸凹をなめるようにいなすMBC付きをなぜ最初に導入しなかったのかちょっと腑(ふ)に落ちないところだ。
ビジネスリムジンとしては最高峰
メルセデス・マイバッハSクラスには4リッターV8ツインターボを積むS560と「S560 4MATIC」、そして6リッターV12ツインターボを搭載するS650の3モデルが設定されているが、まず導入されたのはS560 4MATICのみ。価格はS560および同4MATICが2253万円、S650は2761万円である。S650のV12ツインターボエンジン(630ps/1000Nm)は「AMG S65ロング」とまったく同値、またS560用の4リッターV8ツインターボは469ps/5250-5500rpmと700Nm/2000-4000rpmを生み出すが、これも通常の“Sクラス560”のスペックと同一である。さほどにSクラスとメカニカル面での違いはないが、車重は2.3t余りもあるため0-100km/h加速は4.9秒という(欧州仕様値)。
いうまでもないが自分で運転して楽しいという種類の車ではない。Sクラス同様のインテリジェントドライブの助けを借りて高速道路を突進するだけなら爽快で快適といってもいいが、日本サイズのワインディングロード、あるいは人も自転車も混在する街中などでは気を遣わないほうがおかしい。これだけの長さと重さとなれば、ステアリングを切って向きが変わった後で、後方から重量がのしかかってくるような感覚があり、縦横無尽に走り回るというわけにはいかない。後席のVIPの指示があれば猛然と走ることもできるが、普段は静々と移動するのが役目なのである。
かつて、ダイムラー・クライスラー(当時)は世界で年間2000台程度のマイバッハの販売を計画していたらしいが、実際にはそれを大きく下回った。残念ながら、ウルトララグジュアリーの世界では高性能だけでは勝負にならない。その苦い経験を生かしてメルセデスは新たなメルセデス・マイバッハをビジネスユースの最高峰に位置づけることを狙ったと思われる。最新技術だけでは捉えどころがない“ラグジュアリー”で勝負するのではなく、メルセデスが得意とする機能的で合理的な機械としての性能で攻め込むつもりだろう。私もそれに賛成である。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
メルセデス・マイバッハS560 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5465×1915×1495mm
ホイールベース:3365mm
車重:2330kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:469ps(345kW)/5250-5500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y/(後)275/35R20 101Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック2)※ランフラットタイヤ
燃費:8.4km/リッター(JC08モード)
価格:2253万円/テスト車=2348万5200円
オプション装備:designoスタイルパッケージ<designoエクスクルーシブ セミアニリンレザーシート+リアセーフティーパッケージ[後席アクティブベルトバックル、後席SRSベルトバック]+インテリアトリム>(75万円) ※以下、販売店オプション フロアマットプレミアム<フロント左右&リア左右 4点セット>(17万2800円)/フロアマットプレミアム<リアセンター>(3万2400円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1727km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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高平 高輝
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