カワサキ渾身の新型「Z」
その価値はどこにある?
2018.02.02
デイリーコラム
ライダーの期待に応えるバイク
「Z900RS」が発売されて2カ月になろうとしている。市場での人気は相変わらず。バックオーダーを抱えていてしばらくは入手できないほどだ。デビュー前の人気の時は誰も乗っていなかったわけだから、単に「カワサキから『Z1』をオマージュした4気筒が登場する」というブランドに対しての憧れ的な意味合いが強かった。
けれど今は違う。人々はZ900RSの情報に耳を澄まし、試乗した人たちの声を聞いたり、実際に試乗して購入を決めたりしているのである。つまり「やっぱり期待していた通りだった」もしくは「予想以上に良さそうだ」と考えた人たちがバックオーダーの列に加わったのだ。何がそんなに魅力的なのだろうか?
カワサキの4気筒Zに対して、ライダーのイメージは出来上がっている。スロットルを開けた瞬間の迫力ある吹け上がりや、低回転からの力強いトルクによる加速だ。最近の旧車ばやりを見ていても分かるように絶対的なパワーやハンドリングよりも普段の乗りやすさ(整備されたZや「ホンダCB」、「スズキGS」は非常に乗りやすいのだ)やエンジンのテイストを重視しているのだ。
「楽しいバイクに乗りたい」「現行車はどうも味がない」「でも外車はちょっと抵抗がある」というライダーは少なくなかったはずだ。そしてそういう人たちを、Z900RSは根こそぎ持っていってしまったのである。
Z900RSのうわさを聞いて、なんとなく興味を引かれていた人たちを一気に購入に走らせたものはカワサキが初めて実施したサウンドチューニングだと考えている。初めてZ900RSにまたがったライダーがワクワクしながらエンジンを始動した瞬間、往年の4気筒エンジンをほうふつさせる排気音に包まれる。スロットルを開ければ周囲の空気をビリビリ震わせるような迫力の吹け上がり。この感動というものはすごい。「このバイクを買おう!」と決意させるには十分なものがある。実際僕も過去そういう感じでバイクを購入することが多かった。
市場の分析ができている
なぜZ900RSだけが一人勝ち状態になっているのかといえば、ひとつはZが持つ固有のイメージがあること。そしてそのイメージから期待してバイクにまたがった人たちの期待を裏切らない要素を持っていたからだ。懐古主義なのではない。皆が昔のバイクに求めていたものを冷静に分析し、その要素を取り入れているだけなのである。
ほかのマシンがここまでにならなかったひとつの理由は、Zほどの歴史がないからだろう。けれどそれだけではない。Z900RSほどテイストや排気音を追求していなかったからだと思う。最大にして永遠のライバル「ホンダCB1100」はとても良いフィーリングで個人的には大好きだし、Z900RSと同じくらい売れてもおかしくないと思っているのだけれど、残念なことに2017年3月の変更でメインのモデルとなる「EX」と「RS」がやや高価になりすぎた。初代モデルが安かっただけに、猛烈に高くなってしまったようなイメージになってしまった(ベーシックなモデルが値段据え置き的なポジションで併売されているのだが)。
僕は今、Z1に乗っている。そしてZ900RSに乗ってみて、開発にあたったカワサキのがんばりが感じられた。乗っていても楽しい。でも、今の僕を含め、Zに乗っている人たちがZ900RSに乗り換えることはないだろう(買い足し、増車はあると思う)。
良いバイクだけれどそこまでではない。けれどもしも自分のバイクが突然失われることがあったら、今の金額でZ1をもう一度購入し、自分なりのセットアップをして育てていける気はしない。旧車を完調にしてセットアップしていくのは大変な労力と時間が必要だ。ならばZ900RSを購入してもいいなと思う。
だからZに乗ってみたいとずっと考えていたライダーがいたら僕は無条件にZ900RSを薦めようと思っている。
(文=後藤 武/編集=関 顕也)
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。