第11回:長距離ドライブで実力を試す
磐石の仕上がり 2018.02.06 徹底検証! ボルボXC60 第2世代となった「ボルボXC60」で、往復1000kmを超えるロングドライブへ。市街地から高速道路、ワインディングロードまで、さまざまな道を走らせてみると、ボルボが総力をあげて開発した新型の価値が見えてきた。新しさが伝わってくる
ボルボにとって先代のXC60は屋台骨を支える一台だった。「販売台数がボルボ社全体の3分の1を占めるまでになった、世界で一番売れたボルボ」といえば、どれだけ大切かが分かるだろう。日本でも2009年から販売を開始。当時、完全停止できるまでの自動ブレーキを搭載していたクルマは存在しておらず、日本における自動ブレーキの認可を取得した第1号車だったという逸話を残している。そこには超すべきハードルがいろいろとあったと聞くが、少しでも早くユーザーに安全を届けようという姿勢が、認可の取得や販売の成功につながったのだろう。
そんなXC60がフルモデルチェンジを果たし、2代目となる新型が日本に導入された。新たなXC60は110億USドル(約1兆3000億円)を投資してSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)を開発し、Drive-Eパワートレインや将来の電動化を見据えたプラットフォームを採用。結果として前後重量配分の適正化や、ホイールベースの延長、そしてオーバーハングの短縮などを可能としながら、伸びやかで美しいプロポーションを実現することに成功した。ちなみにこのSPAは、すでに販売されている「XC90」にも採用されており、今回のXC60とデザイン上でもつながりがあることは一目瞭然だ。インテリアについてもXC90と同様のテイストが伝わってくるが、9インチの縦長ディスプレイと同等にした縦長ルーバーの存在もあり、よりモダンな仕立てを意図したことがうかがえる。
とはいえ、XC60は単なる小さいXC90を造ろうとしたわけではないという。デザイナーは「なにがなんでも“小さい90”にはしたくない」という思いがあったらしい。一見すればたしかにXC90に比べればワイド&ローなエクステリアで、スポーティーであることを感じさせられる。前後灯火類のワイドな感覚、そして下部に広がっていくボディーの構えがあるからこそそんな印象を受けるのだろう。
今回はそんなXC60で、東京都心から三重県の伊勢神宮までの往復1000kmに及ぶロングランに、編集者とカメラマン、そして僕の3人で旅立つ。新生XC60はその旅路で一体どんな味を見せてくれるのか楽しみだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
爽快にして軽快
パートナーとなるのはXC60シリーズの中でもベーシックなガソリンエンジン車の「T5 AWDインスクリプション」。2リッターの直噴ターボエンジンを搭載する一台だ。スペックは最高出力254ps/5500rpm、最大トルクは350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを誇っている。トランスミッションは8段ATとなっている。
唯一無二と思えるボルボならではの北欧デザインを感じさせてくれるコックピットに滑り込むと、適度なホールド感が得られる包み込むようなシートが心地いい。ポジションを細かく調整でき、腰部の張り出しを含めポジションを任意で変えられるのは、ロングドライブでの疲れを減らしてくれそうだ。電動パノラマガラスサンルーフを備え、白基調のシートやウッドを配することで、明るいリラックスできる空間としたインテリアもまた心地いい。XC90に比べれば室内は狭いはずだが、広がり感ある室内の印象からはそうは感じない。
走らせてみると、あらためてXC60のサイズ感は日本の道路で扱いやすい。都心の狭い路地を抜けていく時であっても、首都高速の合流シーンであっても、気を使わずに扱えるサイズ感である。
動力性能は必要十分以上だ。瞬間的に求めたとしても、即座に加速体制に移ることができ、高回転の伸び感もまた爽快感にあふれている。AWDでガラスサンルーフを備え、さらにはエアサスも装備することもあって、車重は1860kgと重いが、それを感じさせないくらい走りは軽快なのだ。SUVならではの高い視界で交通の流れを先読みしやすく、一方でスポーツカーのように瞬時に動きを変えられることがこのクルマの持ち味。都心のせわしない状況であったとしてもモタつくストレスは一切ない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
長距離で差が出る走り
けれども乗り心地はかなりマイルドだ。オプションのエアサスが良い仕事をしていることは明らかで、首都高速の継ぎ目をうまくいなしつつ、ボディーをいつまでもグラつかせないコントロールはお見事。SUVの場合、ロールオーバーさせることなく重量級でも運動性能を持たせようとすると、足まわりは引き締めるしか方法がなくなり、結果として乗り心地が悪化するのが常だが、XC60はしなやかな身のこなしを見せてくれるのだ。デザイン通りの優雅なイメージが走りにおいても実現されている。
東名高速に入り巡行状態を続けている時は全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)とパイロットアシスト(車線維持支援機能)が快適なクルーズを展開してくれる。前走車がいたとしても速度コントロールはギクシャクせず、すべてを託しておける安心感はかなり高い。ただし、パイロットアシストについてはやや車線の左側に寄る傾向があり、左側にクルマがいる場合、ドライバーが少し右を走らせようと修正が必要と感じることが多い。そこは改善してほしいと思えるが、90シリーズのそれよりは中央を走るようになったこともあるから、まだまだ改善の途中ということなのかもしれない。
とはいえ、高速巡行はなかなか快適だったこともあり、さほど休憩もせずに御在所サービスエリアまで運転できてしまうほどだった。途中、腰痛持ちならではの痛みが出てきたが、マッサージ機能を持つシートのランバーサポートを動かしたらそれも改善してしまった。もちろん安全を考えれば、一気に走らず適度に休憩すべきだが、それを必要だと感じないくらい疲れは少ないのだった。
御在所から伊勢神宮周辺までは後席に座ってみた。足元のスペースが十分確保されており、足を組めるほどだから窮屈な思いをすることもない。後席のシートのホールド感もシッカリとしており、無駄に体を揺さぶられないところもまた好感触。パノラマガラスサンルーフは後席のほうがより開放的に感じられ、なかなか快適なドライブが楽しめる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ドライバーも同乗者もうれしい
今回はカメラマンの機材とわれわれの旅行バッグなどを含めてかなりの荷物をラゲッジスペースに収納していたのだが、後席と荷室とを仕切るガードネットを標準装備していることもあって、いざという時の緊急ブレーキ時にも、荷物が前方に飛んでこないという安心感が得られる。ぶつからないこと、さらには緊急時のことを考えた安全第一のボルボらしさはこんなところにもあるのだと、感心するばかりである。
伊勢志摩スカイラインでも、XC60はのびのびと走ってくれた。エアサスのモードをダイナミックにセレクトし、車高を少し下げて走らせれば、コーナリングでもグラつきを抑え、快適に走ってくれるのだ。高い目線があるおかげで、遠くに広がる伊勢湾や大小の島々を眺めることができ、同時に、SUVであることを忘れさせてくれる身軽なコーナリングも披露する。ドライバーもパッセンジャーもこれなら文句のない走りだろう。ステアリングのフィードバックが若干弱いことなど、改善を求めたくなる部分もあるにはあるが、登場したばかりの状態でここまで仕上がっていれば、それらはやがてセッティングで改善されるようになるだろう。
翌日、伊勢神宮に参拝した際には、狭い路地でも車両感覚がつかみやすく、スイスイとくぐり抜けられることにあらためて感心した。カタログの数値からすれば全幅1900mmと決して小さくはないのだが、カメラやセンサーによって衝突の危険性を察知させてくれるから、ボディーサイズも気になることがなく操りやすかったのだ。ワインディングロードだけでもなく、高速巡行だけでもない、日常域での扱いやすさはありがたい。
今後はディーゼルエンジン搭載車の導入など、ラインナップのさらなる充実が約束されているXC60。この仕上がりなら、きっと新型もボルボの屋台骨を支える一台となることは間違いなさそうである。
(文=橋本洋平/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボXC60 T5 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1900×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V/(後)235/55R19 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:12.6km/リッター(JC08モード)
価格:679万円/テスト車=794万9000円
オプション装備:電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(30万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー、サブウーハー付き>(42万円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/メタリックペイント<ブライトシルバーメタリック>(8万3000円)/テイラードダッシュボード(15万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:9678km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:1085.2km
使用燃料:97.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)
