KTM RC390(MR/6MT)/390デューク(MR/6MT)/1290スーパーデュークR(MR/6MT)
欧州最大勢力の本気 2018.05.16 試乗記 スポーツバイクのメーカーとしてはヨーロッパ最大の規模を誇り、モータースポーツの場でも華々しい活躍を見せているKTM。サーキットで試乗した「RC390」「390デューク」「1290スーパーデュークR」の3モデルに、欧州の雄の地力を感じた。“競走”が好きすぎる
KTMがラインナップする大中小のモデルのうち、“中”に属するRC390と390デューク、そして“大”のなかでも最大にして最速の1290スーパーデュークRの試乗記をお届けしたい。
とその前に。二輪好きの間でも意外と知られていないのがKTMというメーカーの実態だ。マニアックなバイクフリークが行き着くブランド。そんなイメージが日本では根強いものの、2017年の世界総販売台数は23万9000台を突破。小型スクーターで数を稼ぐピアッジオなどを除くと、今やヨーロッパNo.1のスポーツバイクメーカーとして君臨している。小排気量の競技車両も含むとはいえ、この数字はあのドゥカティの5万6000台やBMWの14万5000台を圧倒しており、かつ今も躍進を続けているのだ。
しかも、1991年に一度倒産しながら程なく復活を果たし、現在はスウェーデン生まれのハスクバーナを傘下に収めるほか、レース部門、スポーツカー部門、ラジエーター部門、サスペンションブランドのWP、インダストリアルデザインを手がけるキスカ・・・・・・といった幾多ものグループから成る巨大企業へ成長。なかなかの底知れなさを持つ。
そんなKTMは修理工場としてオーストリアで設立され、1953年から二輪の製造を開始している。主にモトクロスやエンデューロ、ラリーといったオフロード界で名をはせ、直近でも2017年の世界モトクロス選手権(MXGPクラス/MX2クラス)とエンデューロ世界選手権(Enduro2クラス)、そして2018年のダカールラリー(17連勝中)を制するなど、圧倒的な強さを披露。その一方でロードレースの世界にも進出し、今ではMotoGP世界選手権において、MotoGPクラス、Moto2クラス、Moto3クラスのすべてにファクトリーチームを送り込む唯一のメーカーとして一大勢力を築いている。
社是に「レース上等!(=READY TO RACE)」という標語を掲げるほどに競技色が強いメーカーながら、近年はストリートモデルも積極的に手がけている。その代表格が、今回紹介する「RC」と「デューク」なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
重量増をネガにしないバランスの妙
簡単に区分けすると、RCシリーズはセパレートハンドルのフルカウルモデルで、対するデュークシリーズはアップハンドルのネイキッドモデルだ。現在、RCシリーズには「RC125」「RC250」「RC390」の3モデルを、デュークシリーズには「125デューク」「250デューク」「390デューク」「690デューク」(2018年モデルは日本未導入)、「790デューク」「1290スーパーデュークR」「1290スーパーデュークGT」の計7モデルをラインナップし、本拠地であるヨーロッパはもとより、北米、インド、東南アジア、そして日本でのシェア拡大に大きく貢献している。
それではまずRC390とデューク390から見ていこう。車名の数字から連想できるように、いずれも400ccを下回っていることから、普通二輪免許(いわゆる中免)での乗車が可能だ。エンジンは水冷4ストローク単気筒で、排気量は373.2cc。ややチューニングは異なるものの、最高出力44psというスペックを含め、基本的には“同じエンジン”といえる。
ただし、車体は異なる。新旧で言えばRC390の車体は一世代前のものであり、デューク390には2017年のフルモデルチェンジによって新設計のフレームが与えられている。ならばデュークのポテンシャルが優勢かといえば、実はそうでもない。充実した装備が車重に影響し、旧390デュークと比較すると10kgも増量されただけでなく、フルカウルのRC390より2kg重くなっているからだ。
KTMにストイックさやシャープさを求めているライダーにとってはガッカリなポイントながら、ここで再び「実はそうでもない」と書いておかなければならない。というのも390デュークのハンドリングには重さゆえのネガがないのだ。むしろそれが車体のスタビリティーやタイヤの接地感に貢献し、しなやかな乗り心地をもたらすなど、プラスに働いているところにバランスの妙を感じさせる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
RC390にみるKTM流の“おもてなし”
KTMがきめ細やかなのは、RC390もないがしろにすることなく、多岐にわたる改良を施しているところだ。例えば2017年モデル以降、フロントブレーキのディスク径を300mmから320mmに大型化し、それに伴ってサスペンションのセッティングとストローク量を見直して、制動力とコントロール性を最適化。他にもミラー形状を変更して後方視界を広めたり、ブレーキレバーにアジャスターを追加して操作性を高めたりと、“ライダーファースト”のおもてなしが随所に光る。
そこに軽量な車体を生かした俊敏なハンドリングと、スポーティーなライディングポジションが加わるのだから、コーナーでの一体感は極めて高い。ギア比のクロスしたトランスミッションを駆使し、高回転まで回し切りながら走らせた時の爽快感は格別だ。
では、どっちを選べばいいのか? そう聞かれると、総合的な商品力で390デュークに軍配が上がる。一気にモダンになったスタイリングもさることながら、上級クラスのモデルでもそうは採用していないフルカラーの液晶ディスプレイパネルを標準装備し、その凝ったグラフィックと高い視認性、良好な操作性は満足度が高い。シンプルを美徳としてきたKTMに所有欲や上質さがもたらされたという意味で、今後390デュークが果たす役割は大きい。
その点、デュークシリーズのフラッグシップたる1290スーパーデュークRに盛り込まれた魅力はストレートだ。デュークに「スーパー」と「R」が加えられるなど、車名からして勢いが違う。しかもキャッチコピーが“The BEAST”、つまり“野獣”である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
おっかなびっくり乗る必要はない
最も野獣らしさにあふれているのは、クロモリのトレリスフレームに懸架されるV型2気筒エンジンだ。1301ccという排気量はスポーツネイキッドとしては最大級であり、チタンバルブやF1由来のピストンが盛り込まれた結果、最高出力は177psに到達している。
ただし、この野獣は完璧にしつけられているところがポイントだ。先代モデルのそれは自由奔放で、ちょっと気を抜くと勝手に前へ前へと突き進もうとする先走り感があった。そのため、たびたび「どうどう」となだめる必要があったのだが、この最新モデルは従順そのもの。スロットルレスポンスが変化するライディングモードにはトラック/スポーツ/ストリート/レインの4モードがあるが、どれを選んでも、どこを走ってもスイスイとスムーズに走れ、いきなり豹変(ひょうへん)するようなことはない。
また、車体姿勢や加減速Gを検知するIMU(慣性測定装置)によって制御されるトラクションコントロールや、ウイリーコントロール、コーナリングABSがそのスムーズさをサポート。すべてを作動させていれば、ちょっとやそっとのことでは車体のスタビリティーが崩れることはない。堂々としていながらハンドリングもいい。まるでミドルクラスのバイクのように軽やかに旋回してくれるため、常に高い一体感が得られるはずだ。
199万9000円という車体価格を気軽に「安い」とは言わないが、コストパフォーマンスという意味では間違いなく「お得」。1290スーパーデュークRはそういうバイクである。
技術力があり、デザイン性に優れ、排気量もカテゴリーも幅広く網羅するKTMが、ここ日本でどのような展開を見せるか。現在、輸入車メーカーの中ではハーレーダビッドソン、BMW、トライアンフ、ドゥカティに次ぐ5番目の勢力ながらワールドワイドの数字に倣う大逆転劇が起こっても不思議ではない。競技用モデルでは子どもから大人まで、ストリートモデルではビギナーからベテランまでフォローするKTMの商品群は、それを可能にするだけのポテンシャルがある。
(文=伊丹孝裕/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
KTM RC390
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1340mm
シート高:820mm
重量:147kg(乾燥重量)
エンジン:373.2cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:44ps(32kW)/9500rpm
最大トルク: 35Nm(3.6kgm)/7250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.52リッター/100km(約28.4km/リッター、WMTCモード)
価格:65万9000円
KTM390デューク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1357mm
シート高:830mm
重量:149kg(乾燥重量)
エンジン:373.2cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:44ps(32kW)/9000rpm
最大トルク: 37Nm(3.8kgm)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.46リッター/100km(約28.9km/リッター、WMTCモード)
価格:62万円
KTM1290スーパーデュークR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1482mm
シート高:835mm
重量:195kg(乾燥重量)
エンジン:1301cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:177ps(141kW)/9750rpm
最大トルク:141Nm(14.4kgm)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.57リッター/100km(約18.0km/リッター、WMTCモード)
価格:199万9000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。






















