ハスクバーナ・ヴィットピレン401(6MT)/KTM 390デューク(6MT)/ハスクバーナ・スヴァルトピレン250(6MT)/トライアンフ・スピード400(6MT)
アンダー400ccの幸せ 2024.05.12 JAIA輸入二輪車試乗会2024 魅惑のインポートバイクに普通二輪免許で乗れる! JAIA合同試乗会のなかから、アンダー400ccの注目マシン「ハスクバーナ・ヴィットピレン401/スヴァルトピレン250」「KTM デューク390」「トライアンフ・スピード400」の走りをリポートする。一回りしてこそわかる扱いやすさ
ハスクバーナ・ヴィットピレン401
毎年、JAIA二輪輸入車試乗会の取材を軽快に仕切るwebCGのホッタ青年によると、今回の車種選択コンセプトは「だいたいニューモデルかフルモデルチェンジした車両!」なんだそうな。さらに彼には細かい分類があり、「中型でもGOGO!」編で僕にあてがってくれた最初のモデルが、排気量398.6ccでまさしくギリ中型のハスクバーナ・ヴィットピレン401だった。
なにはともあれ初代の、シュモクザメのような張り出しを持たせたフューエルタンクをはじめとするデザインマインドは、蔦屋家電がセレクトしそうな家電製品やデジタルガジェットを想起させるくらい斬新だった。そのイメージは、フルモデルチェンジを行ったという新型にもすんなり重なった。容量アップしたフューエルタンクのシュモクザメ感も保たれていたし。だが、エンジンやフレームに至ってはまったくの別物。セパレートタイプだったハンドルも、自然なフォームに誘導するバータイプに変わった。おそらくデザイン重視だった先代に扱いやすさを加味したのだろう。
試乗した印象も「扱いやすい」とくくっていい。細身の体形を裏切らない車重約154.5kgの軽さと、適度な鼓動感を発してくれる単気筒エンジンの相性は素晴らしく、見た目を自慢したい都会からヒラヒラ走りたい山道まで楽しめる期待感を抱かせてくれた。
総じて評価したいのは、デザインに特徴があり、電子デバイスがふんだんに盛り込まれ、なおかつすっと乗り出せる気軽さを持ち合わせている点で、大型免許を有していてもこれで十分と思えるところだ。大小さまざまなオートバイを所有してきた人が一回りして出会ったときにこそ、ヴィットピレンの扱いやすさが染みるような気がする。
さておき、エンジンに関して適度な鼓動感と表現したのは、それこそデジタルガジェットのようなTFTフルカラーディスプレイの表示に従ったせいもある。目盛り的に余裕がある6500rpmあたりに達すると画面全体が真っ黄色になったので、「今なのね」とシフトアップしたのだが、その回転数設定も変更可能であることを後に知った。
後に知ることで驚くことは多い。次の試乗車が届いたところでホッタ青年が絶叫した。「ヴィットピレンってまさか!?」
彼が泡を食った理由は、KTM 390デュークで報告します。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
荒くて速い
KTM 390デューク
「ヴィットピレンってまさか!?」
これは、ハスクバーナ・ヴィットピレン401の試乗記事の最後に記した、ホッタ青年の絶叫。KTM 390デュークとヴィットピレンの実車を見くらべた瞬間、彼は芝居じみた声を上げた。そして、稽古のたまものと思わせるほど饒舌(じょうぜつ)に驚きの言葉を続けたのだった。「そうか、ハスクバーナは2013年にKTMの傘下に入ったから、こんなことが起き得るのか……」
こんなこととは、この2台がエンジンやフレーム等を共有するブランド違いのモデルという事情。それを知識豊富なホッタ青年が知らないはずはなかった。にもかかわらず失念したのは、「今回はニューモデルかフルモデルチェンジした車両!」という車種選択コンセプトへのこだわりが強かったせいだろう。
それがホッタ青年には失態だったとしても、390デュークの試乗後で彼の叫びを耳にした僕にすれば、兄弟モデルの同時試乗はかなり興味深い機会となった。メモを読み返すと、390デュークのページには「エンジン荒め。かつ速い」と書いてあった。一方のヴィットピレン401は、総じて扱いやすいと伝えた。実は同じエンジンとフレームなのに、異なる印象を持ったポンコツテスターの言い訳を聞いてほしい。
まず、うんと前に初めてKTMのストリートモデルに乗ったとき、エンジンの荒さ(粗さにあらず)に感銘を受けた記憶が先入観として残っていたこと。加えて、先に乗ったヴィットピレンとよく似た(本当は同じだった)TFTフルカラーディスプレイが画面の色変更でギアチェンジを促す回転数が8000rpmあたりだったこと。そこまで回したから、僕は「速い」と殴り書きした。その回転数設定が変更できる仕組みを先に知っていたら、あるいはヴィットピレンにも「見た目のわりに」というような感想を抱いたかもしれない。
さらに、両車の乗車姿勢が違った点も大きい。390デュークは、フューエルタンクの短さによってハンドルと自分の距離が近くなり、いかにもKTMらしいオフロードモデル上がりのポジションに感じられた。
言い訳の果てでなにを訴えたいかというと、たとえ兄弟ないしは双子だったとしても、390デュークとヴィットピレン401は別物ということだ。それぞれのユニークな外観だけでなく、ブランドが与えた生い立ちともいえる根深いところに差異があるような気がする。だが、ポンコツテスターにそれを突き止める術(すべ)はなく、ただ楽観的に「最近の中免系は個性的で楽しい」と浮かれるだけだった。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
こう見えてほっこり系
ハスクバーナ・スヴァルトピレン250
今までに見たことのない車体のフォルム、シンプルモダンな細部のデザイン。これが世にいうスウェディッシュデザイン? 大くくりのカテゴリー名称をしてわかったようなそぶりをするつもりはまったくないけれど、それでもこのスヴァルトピレン250のボディーには、強烈に北欧っぽさを感じてしまう。知的で優しくて、それでいてスポーティーなのだから“外車感”もたっぷりだ。
そんな新鮮なインパクトからはや4年。スヴァルトピレンがスッとフルモデルチェンジして新型になった。2代目“黒い矢”(という意味らしい)のルックスはあまり変わった感じがしないものの、他に似たものがないのだからそのままでだって問題なし。変えるために変えてきた多くの市販車の古い考え方をヒョイと超えてきていてすがすがしい。
でもよーく見ると、車体構成や装備パーツがたくさんの箇所で変更されていることに気がつく。タンク形状、フロントブレーキ、リアサス、マフラー……みんな全然違うじゃん。スチール製トレリスフレームにアルミ製サブフレームを足した2ピース構成も目新しい。ベースである「KTM 250デューク」が刷新されたのだから当然かもしれないけれど、いっぽうで、どことなくスヴァルトピレン自身は「僕は別に変えてもらわなくてよかったんだけどね」と言っているように思うのは気のせいか。
ライディングポジションはだいぶ穏当だ。ハンドルは近くて幅広で楽チン。ニーグリップはしやすいし足つきも良好だ。初見では大げさかつ目立ちすぎに見えたシート後端のタンデムグリップも、目が慣れてくるとだんだん許せるように。第一、絶対につかみやすいし、スヴァルトピレンらしい割り切りなのかもしれない。軽量な154kgボディーの取り回しもグッドだった。
水冷単気筒SOHCエンジンは低回転域から扱いやすく中回転域ではスムーズ、さらに高回転域までよどみなく伸びてスポーティーな感触だ。総じて持ち味は高回転寄りにあると直感したが、それでもせかされるような性急なフィーリングではないので、自分のペースをきちんと守ることができる。バランサー内蔵ゆえ振動も少ないし、ここ一番でスロットルを煽(あお)ってのシフトダウンがスパッと決まる瞬間が気持ちよかった。
懐の深い、自由度の高いセッティングがスヴァルトピレンの真骨頂と感じた試乗。見た目がエキセントリックゆえ超然としたクールなヤツかと類推していたけれど、乗れば中身はむしろ正反対な印象のマシンだった。あったかいというか、ほっこり系というか、全然都会派じゃないストックホルムのカントリーマン。この不思議ちゃんキャラ、この先も絶対に引っ込めないでほしい。それこそがスヴァルトピレン。
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
シンプルが勝つ
トライアンフ・スピード400
このオートバイを一言で表すなら、シンプル&スムーズ。あ、二言だった。どちらか一言だけを取るなら、シンプルが勝つだろうか。
トライアンフのホームページによると、スピード400は「モダンクラシックロードスターのデザインDNAを受け継ぐ由緒正しいマシン」なのだそうだ。直系や後継ではなく、DNAや由緒といった文言を使ったのは、少なくともこのモデルが属するモダンクラシックシリーズでは唯一かつ初の、国内では中免(普通二輪免許)で乗れるトライアンフになるからだろう。ただし、DNAや由緒を語るにふさわしい新型なのは間違いないようだ。
排気量398ccの単気筒DOHC 4バルブエンジンやフレームを含め、すべてがオールニュー。それでいて丸型ヘッドライトや面長の鉄製フューエルタンクなど、古典的な二輪スタイルを踏襲したのは、「伝統的なバーチカルツインエンジンでなくてもトライアンフ」と主張するための、ある意味ではシンプルな態度にも思える。
それにしても全域にわたってスムーズだ。無駄に鼓動感を押し出してこないエンジンしかり。長く乗っても疲れにくそうなアップライトな乗車姿勢からも、破綻の雰囲気がみじんも感じられない。
しかしそれでいいのかと、かつて“大免”の壁に泣かされた古いオートバイ乗りは疑問を抱いたりする。壁の向こうにいたのは、大排気量の魅力的な外国製モデルたち。トライアンフもその仲間だった。それがいまや、特にここ最近、名だたるブランドが中型クラスを続々発売するようになった。
聞いたところによると、成長著しい中国、インドないしはアジア方面で、従来の小型から中型に乗り換える層が増えているらしい。その市場活況に合わせた各ブランドの方策が、ある意味では結果的に日本の中免二輪マーケットに福音をもたらしているという。
それでいいのか? たぶん、古い思い出も捨ててシンプルに考えれば、いいことずくめなのだろう。なにより取り回しがいいスピード400は、エントリーユーザーだけでなく、実は軽いほうが実質的に助かるオールドファンにもフレンドリーな存在になるはずだ。このデザインなら、ちょっとだけ気合を入れて革ジャンを羽織って乗りたい気持ちにも応えてくれるだろう。長く付き合える友人というのは、存外に質素なたたずまいで現れるのかもしれない。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ハスクバーナ・ヴィットピレン401
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1368mm
シート高:820mm
重量:154.5kg(燃料を除く)
エンジン:398.6cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:45PS(33kW)/8500rpm
最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.4リッター/100km(約29.4km/リッター)
価格:79万9000円
KTM 390デューク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1357mm
シート高:800mm/820mm
重量:165kg
エンジン:398.7cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:45PS(33kW)
最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:78万9000円
ハスクバーナ・スヴァルトピレン250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1368mm
シート高:820mm
重量:154kg(燃料を除く)
エンジン:249.1cc 水冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ
最高出力:31PS(23kW)/9500rpm
最大トルク:25N・m(2.5kgf・m)/7500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:2.7リッター/100km(約37.0km/リッター)
価格:71万円
トライアンフ・スピード400
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×814×1084mm
ホイールベース:1377mm
シート高:790mm
重量:170kg
エンジン:398.15cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:40PS(29.4kW)/8000rpm
最大トルク:37.5N・m(3.8kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:69万9000円

田村 十七男

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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