徹底したキープコンセプトは何のため?
新型「Gクラス」の開発キーマンに話を聞いた
2018.06.13
デイリーコラム
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いよいよ日本でも発表された新型「メルセデス・ベンツGクラス」。“孤高のオフローダー”が、40年ぶりのフルモデルチェンジによって手にしたもの、そして失ったものとは!? 本国ドイツで開発を主導したミヒャエル・ベルンハルト氏に話を聞いた。
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新型開発でデザイナーは盛り上がったが……
新型の発売にあたり、記者が最も気になっていたのは、インポーターであるメルセデス・ベンツ日本のプレスリリースに「フルモデルチェンジ」というフレーズが一度も出てこないことだ。サスペンション形式やステアリング形式までもが変更されているというのに、「機能をアップデート」とか「Gクラスの歴史の中で最も大幅な改良」とか、フルモデルチェンジであることを巧妙に避けた言い回しが用いられている。
――フルモデルチェンジではないんですか?
実は、ドイツでもフルモデルチェンジという言葉は使っていないんだ。型式名が「463」のままだということを示したかったし、急に「Gクラスの新型が出ました!」と言ったときに、人々に受け入れられるか、正直怖かったというのもある。中身は新型なんだけどね。
――見た目を変えていないのもそのためですか?
角張った形を捨ててしまうと、他のSUVと同じになってしまうからね。新型を開発すると決まったときに、デザイナーは「古くさいクルマをようやく新しくできるぞ」と盛り上がっていたんだけど、ボクは言ったんだ。「でも、最後は前のと同じに見えるようにしてね」って。
同じように見せるっていうのは、結構難しいんだ。例えばAピラーから始まるルーフのトリムは、空力的にはまったく意味がないもの。でも、あれをなくしてしまうとGクラスに見えなくなってしまう。ボディーサイドのモールも同じで、ドアのところなどは傷の予防に役立つけど、ホイールのところはフェンダーよりも内側に付いているんだから、実用性はない。でも、あれがないとやっぱり“らしく”見えない。Gクラスというのは、そういうところがいっぱいあるクルマなんだ。リアのスペアタイヤカバーも同じだね。
効率面でできることは全部やった
――古いままにするか、新しくするかで議論があったと思うのですが……?
議論がありすぎたよ(笑)。例えばスクリーンを2つ並べたダッシュボードなんかは、Gクラスにふさわしくないのでは? という意見があった。でも、新型はモダンかつラグジュアリーにすることが決まっていたから、議論の末に採用した。とはいえ、本国仕様ではアナログメーターも選べるようにしてあるよ。あとはフロントフードのターンシグナル。エンジニアには、外付けは(歩行者保護の観点から)危険だと指摘されたんだけど、これはGクラスの顔みたいなものだからね。その意見ははねのけた。その代わり、衝撃を受けるとへこむようにしてあるよ。でも実験はしないでね(笑)。
――モダンになったことで失われたものはありますか?
われわれの顧客はローマ法皇やドバイの王さま、サッカー選手、それにハンターなど、とても幅広いのが特徴だけど、よりハイクラスになったことで、ハンターの皆さんには寂しがられるかもしれない。実用性は抜群だけど、値段がね。でも、新しくなって得たものの方がずっと多い。乗り心地や快適性がグッと良くなっているから、免許を取ったばかりのような人にもオススメできるよ。
――Gクラスといえども、昨今は環境への対応が求められると思うのですが?
効率面でできることは全部やったよ。例えばボディーがワイドになったけどCd値はキープしているし、「G550」には気筒休止機構を付けた。ドアやフロントフードをアルミに、燃料タンクはプラスチックにして、全体で160kg以上の軽量化もした。まあ、それでもエコの面でトップのクルマではないよね(笑)。
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ライバルが絶対に追いつけないポイント
――最後に、新型Gクラスはどんなクルマですか?
世の中にはオフロード性能に特化したSUVも、ラグジュアリー性能に特化したSUVもあるけど、新型Gクラスはそのどちらでも一番といえるクルマです!
――ベルンハルト氏のフレンドリーな性格もあり、インタビューは終始和やかなムードのまま終了した。ざっくりと全体をまとめると、新しくしたけど古いのと同じように見せることに腐心した、というところだろうか。
よく言われることだが、歴史や伝統をお金で買うことはできない。メルセデス・ベンツ(ダイムラー)も、「これは新型です」と声高に叫んで40年にもおよぶストーリーを断絶させてしまうよりも、「ストーリーは続いていてこれはその最新バージョンです」とした方が得策と考えたのではなかろうか。40年の歴史に加えて、そもそもNATO軍の……という出自は、間違いなくオンリーワンだ。クルマとしての性能はそのうちライバル車が追い抜くと思われるが、こうしたストーリーの上を歩いている以上、Gクラスはどこまで行っても“孤高”である。
(インタビューとまとめ=webCG 藤沢/写真=webCG)
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藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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