F1マシンをしのぐハイパーEVも登場
アメリカの伝統レース「パイクスピーク」に注目せよ!
2018.06.22
デイリーコラム
過酷なる伝統の一戦
アメリカ・コロラド州のロッキー山脈にある標高4301mのパイクスピーク。富士山よりも高い、このアメリカを代表する名峰に、世界各国から色鮮やかなレーシングマシンが集結する。2018年6月24日、世界で最も高低差のある過酷な山岳レース、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(PPIHC)が開催されるのだ。
日本ではあまり認知度が高いとはいえないが、PPIHCの初開催は1916年で、アメリカでは1911年のインディ500に次ぐ歴史を誇る。加えて前述のとおり、舞台となるパイクスピークは特殊なロケーションである。スタートは、富士山の7合目に相当する標高2862m地点。そこから4301mの山頂まで約20kmのコースを駆け上がるタイムトライアル形式のレースは、コーナー数156、高低差にして1439mの過酷な条件となっている。
山岳エリアだけに、当然、気温や気圧、天候の変化は激しく、ドライバーはもちろん、マシンのセッティング変更などチーム全体の対応能力が求められる。しかし、そんなチャレンジングなコースに魅了されたドライバーは多い。2009年に哀川 翔のコドライバーとして「フォード・フィエスタ」で参戦し、2012年にはドライバーとしてTMG(TOYOTA Motorsport GmbH)のEVレーシングカー「TMG EV P002」をドライブ。EVクラスを制した奴田原文雄も「WRC(世界ラリー選手権)でいろんなステージを走ってきたけれど、パイクスピークはほかにはないロケーションで面白い」とその魅力を語る。
PPIHCは独自のレギュレーションを採用している。大排気量エンジンを搭載したプロトタイプのレーシングカーから、ほぼノーマルの電気自動車まで、さまざまななマシンが出走するのだ。ドライバーに関しても、自動車メーカーのワークスドライバーからプライベーターチームのジェントルマンドライバーまで顔ぶれは多彩だ。
電動マシンの走りに注目
PPIHCでは、2006年から2011年にかけてスズキスポーツの田嶋伸博が大会6連覇を果たすなど日本勢が活躍してきたが、2013年にはプジョースポールが「208 T16パイクスピーク」を投入し、“WRCのレジェンド”セバスチャン・ローブが8分13秒878をマーク。コースレコードを塗り替えて優勝している。
近年はEVで参戦するチームも多く、前述のとおり、2012年にTMGがTMG EV P002を走らせた。また、2012年から2014年にかけては、三菱自動車が「MiEVエボリューション」を投入。2014年にグレッグ・トレーシーが電気自動車改造クラスで優勝し、パリ-ダカールラリー王者の増岡 浩が2位に入り、三菱勢が1-2フィニッシュを達成したことは記憶に新しい。
このように、特殊なロケーションであるにも関わらず、さまざまなマシンが集結するPPIHCだが、近年はレース運営の問題から四輪部門の台数が70台前後に制限されている。それでも96回目の開催となる2018年の大会には、数多くの有力チームが集う。
中でも注目されるのは、最高出力680psを発生し、F1マシンをしのぐ0-100km/h加速(2.25秒)を誇る、フォルクスワーゲンのEVレーシングカー「I.D. Rパイクスピーク」。ドライバーも、ポルシェのワークスドライバーとしてWEC(世界耐久選手権)で活躍し、パイクスピークで過去3度の優勝経験を持つロマン・デュマを起用するという力の入れようだ。
また、ベントレーがSUVの「ベンテイガ」で初参戦することも今大会のポイントである。エキシビジョンクラスながら、過去2度の優勝経験を持つリース・ミレンがステアリングを握るだけに好タイムが期待される。
日本勢は、前述の奴田原がプライベーターチームの「日産リーフ」で参戦。奴田原によれば「マシンはほぼノーマルの状態で、パワー全開にしてしまうと熱の問題で最後まで走りきれない」そうだが、「なんとか最適なペースを見つけてレースを楽しみたい」とのこと。そのチャレンジにも注目したい。
(文=廣本 泉/写真=フォルクスワーゲン、ベントレー モーターズ、三菱自動車/編集=関 顕也)

廣本 泉
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