世界で一番売れてるスバル車なのに!?
どこかパッとしない新型「フォレスター」
2018.08.29
デイリーコラム
実用重視がアダとなった
2018年7月19日に、新型「スバル・フォレスター」が発売された。今のスバルでは、フォレスターを世界の最量販車種に位置付ける。フォレスターはSUVだから人気のカテゴリーに属しており、スバルの水平対向エンジンや4WDとの相性もいい。時代の流れに沿ったスバル車として、フォレスターに向けた期待は大きい。
しかし、新型フォレスターに対する、『webCG』読者の反響(閲覧者の数など)はいまひとつだという。その理由を考えてみたい。
まずはフォレスターの外観が挙げられる。先代型に比べて変化が乏しく、話題にはなりにくい。
外観が代わり映えせずに地味な理由は、安全性の観点から視界にこだわり、先代と同じくサイドウィンドウの下端を低めに抑えた水平基調のデザインにしているからだ。安全運転の第一歩は、車両の周囲に潜む危険の早期発見だから、視界は特に重要な機能になる。
それなのに最近は、日本車、輸入車を問わず、サイドウィンドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げる車種が増えた。外観を躍動的に演出するねらいだが、側方と斜め後方、真後ろの視界が犠牲になる。つまり危険なデザインだ。
同じスバルの「インプレッサ」は、先代型に比べて視界を悪化させたが、それでもほかの車種に比べると周囲が見やすい。フォレスターは視界が先代型とさほど変わらず、変化には乏しいが、安全を優先させた結果だから仕方がない。
グレード構成はいま一歩だ。ノーマルエンジンを水平対向4気筒の2リッターから2.5リッターの直噴式に変更して、2リッター直噴のマイルドハイブリッドも加えたが、2リッターの直噴ターボは省かれた。スバル車のユーザーはスポーティーな走りを好むから、ターボの廃止は物足りないだろう。「レヴォーグ」のように1.6リッター&2リッターターボの方が話題性は高い。
見方を変えると、2.5リッター自然吸気エンジンの採用は、話題性よりも運転感覚や実用燃費を重視した結果だ。これもスバルらしさに含まれる。
以上のように新型フォレスターは、スバルの定番的なクルマづくりをしている。さまざまな機能や内外装のデザインは、先代型を踏襲しながら、少しずつ上質になった。そのために先代型のユーザーが新型に乗り換えた時、良くなったと感じこそすれ、違和感を覚えることはまずないだろう。
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情報の小出しでインパクトが薄れた
スバルは1989年に発売された初代「レガシィ」以降、このようなクルマづくりを30年近くにわたり繰り返してきた。クルマ好きなら、新型フォレスターがどのようなクルマになったのか、おおよそ見当がつく。あわてて情報を仕入れることはないが、車検期間の満了など必要な時期になると、新型フォレスターに着実に乗り換える。従って相応の台数が間違いなく売れる。
この商品開発と売れ方は、軽自動車の「スズキ・ワゴンR」や「ダイハツ・ムーヴ」に似ている。定番車種で、フルモデルチェンジをしても車両の性格があまり変わらないから、話題にはならない。フルモデルチェンジの直後に売れ行きが急増することもないが、長期間にわたって安定して売れる。
このほか新型フォレスターは、デビューのさせ方が悪かった。初公開は2018年3月29日で、5月18日に国内の先行受注を開始した。発表されたのは6月20日だが、生産と納車を伴う「発売」は2.5リッターモデルが7月19日、マイルドハイブリッドの「アドバンス」は9月14日だ。
このように段階的に内外装を見せたり、情報を明らかにしたりという、いわばフェードインのようなやり方だと、「新型フォレスターが登場した!」という強いインパクトが生じない。
そして先行受注を始めた5月18日の時点では、販売店に展示車や試乗車はないから、顧客とセールスマンは実車のない状態で商談を行った。
先代型から新型への乗り換えを検討するユーザーは、エンジンやプラットフォームの変更に伴う運転感覚の向上をチェックして、新型フォレスターを買うか見送るかを判断したい。肝心のクルマを見る必要が生じるが、注文を入れないと納期が長引いてしまう。そこでリスクを伴う買い方を強いられた。スバルはいつも「走りが大切だから、ぜひ試乗して体感してください」などと言っているが、先行受注をしたのでは矛盾が生じる。
最近はスバルに限らず、どのメーカーでも先行受注をすることが増えた。早い段階で売れ筋グレードなどが分かると、部品の調達も含めて生産計画を立てやすいからだ。
今のメーカーは海外ばかり見ていて、国内市場の洞察力が鈍っている。以前と違って新型車がどういう売れ方をするか読めないから、受注を早々に開始して注文を募り、安心を得ようとする。こういった国内市場に向けた熱意と分析力の衰えも、新型フォレスターへの関心度に悪影響を与えた。
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“同期”に恵まれすぎた
このほか新型フォレスターが発表された6月20日頃に、他メーカーの新型車が集中したこともマイナスになっている。「トヨタ・センチュリー」(6月22日)、「ダイハツ・ミラ トコット」(6月25日)、「トヨタ・クラウン/カローラ スポーツ」(6月26日)、「スズキ・ジムニー」(7月5日)、「ホンダN-VAN」(7月13日)という具合だ。
特にセンチュリーとジムニーは20~21年ぶりのフルモデルチェンジで、販売台数は少ないものの「どのようなクルマになったのか」と話題になりやすい。N-VANも商用車ながら、左側のドアがワイドに開いたり助手席を畳めたりと、新しい機能が備わる。フォレスターがいわゆる正常進化で、想定の範囲内に収まるのに比べると、ジムニーやN-VAN、センチュリーの方が興味をそそられる。クラウンも人気だ。
偶然とはいえ、このように新型車のデビューが集中したことにも、国内市場に対する各メーカーの甘さが表れている。商品開発が海外中心になった今では、一年間に発売される新型国産車は、せいぜい10車種程度だ。数年間で1車種というメーカーもあるのだから、新型車の発売を偏らせず、定期的に投入しないと世間でクルマの話題を維持できない。新型車の発売時期を談合で決めることがあってはならないが、互いに察するべきだ。こうした発売時期だけを見ても、各メーカーの国内市場に対する関心の低さがよく分かる。
(文=渡辺陽一郎/写真=スバル、スズキ、webCG/編集=藤沢 勝)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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