「メガーヌR.S.」復権なるか!?
ニュルの最速バトルに注目せよ
2018.09.07
デイリーコラム
戦う舞台は“緑の地獄”
2018年8月、第3世代となる新型「ルノー・メガーヌ ルノースポール(R.S.)」が国内で発売された。いまの段階ではまだ正式発表されていないが、このメガーヌR.S.にはあるミッションが与えられている。それはニュルブルクリンク北コースで“FF車最速タイム”をたたき出すことだ。
「ニュルブルクリンク」は、ドイツ北西部の田舎町ニュルブルクにあるリンク(=サーキット)の名称だ。そもそもは1927年に、第1次大戦に敗れたドイツが国策としてモータースポーツや自動車開発の促進、周辺地域の活性化のために建設したサーキットだった。1980年代にはマツダや日産など日本車メーカーも実験場として活用を開始。当時はクルマ好きのみぞ知る場だったが、近年ではトヨタが「クラウン」のCMに使うまでに知名度が上がった。
コースは一周約5.1kmの「グランプリコース(南コース)」と、一周約20.8km、コーナー数170以上、高低差は約300mという「ノルドシュライフェ(北コース)」の2つによって構成されている。ちなみにニュルブルクリンク24時間レースは、この2つを組み合わせた約25kmの特設コースで競われる。
南コースは道幅広く、フラットで路面状況もいい、いわゆる普通のサーキット。それに対し北コースは、道幅狭く、エスケープゾーンはほとんどなく、サーキット用ではない一般的なアスファルト路面で、一部コンクリート路面まで存在し、ほとんどがブラインドコーナーだ。天候も変わりやすく、コースの一部で霧や雨、時にひょうが降ることもある。その過酷さからついたあだ名は“グリーンヘル(緑の地獄)”だ。
FF車の進化に隔世の感
世界一難しいコースを攻略できるのならば、それはすなわちいいクルマであることの証しになる。ポルシェをはじめドイツメーカーによって始まったニュルブルクリンクでの自動車開発の過程において、ラップタイムを計測することは必然の流れだった。「日産GT-R」が、ここを舞台に「ポルシェ911」のタイムに追いつけ追い越せで進化してきたのは有名な話だ。そして、タイムアタックはスーパーカーやスポーツカーだけでなく、いわゆるCセグメントカーなどでも行われるようになる。
2008年、ルノースポールは初代メガーヌR.S.の「R26.R」で、初めてニュルでのタイムアタックを敢行。それまでのFF車の記録を10秒以上短縮する8分16秒90で駆け抜けた。その後、2011年には2代目の「メガーヌR.S.トロフィー」で8分7秒97を記録。このときのドライブを担当したのは、現在もルノースポールの開発ドライバーを務めるロラン・ウルゴン氏だ。これを機に、ルノースポールはニュル8分切りを目指す“アンダー8”プロジェクトを開始。そして2014年には「メガーヌR.S.トロフィーR」でFF市販車として初めて8分を切る、7分54秒36を達成してみせた。
このルノースポールの動向に反応したのが、ホンダだった。2015年、「シビック タイプR」の発売時に発表したニュルのタイムはメガーヌR.S.のそれをおよそ4秒縮めた7分50秒63。しかし、ここで新たなライバルが出現する。フォルクスワーゲンが「ゴルフGTI」生誕40周年を記念してつくった「GTIクラブスポーツS」で、シビックを約1秒上回る7分49秒21を記録した。これでホンダにも火がついた。2017年に新型シビック タイプRで出したタイムはゴルフGTIを5秒以上もしのぐ7分43秒80。初代メガーヌR.S.がタイムアタックを始めてからおよそ10年で、FF車は30秒以上も速くなったことになる。このシビック タイプRのタイムは初代「NSXタイプR」やR34型の日産GT-Rよりも速いのだから驚く。
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仁義なきタイムアタック
ただし、性能アップ以外にも、近年ラップタイムが速くなっている理由がある。ニュルの名物として、マシンが一瞬宙に浮く、いわゆるジャンピングスポットがあるが、2015年のニュルブルクリンク24時間レースの前哨戦VLNにて、そこでGT3マシンが観客席に飛び込む死亡事故が起きた。年々高性能化するGT3マシンの速さを危ぶむ声がある中での出来事だった。その年の24時間レースでは、該当区間では速度制限が設けられ、またレース後は自動車メーカーがタイムを公表することを禁じる措置が取られた。
こうしてニュルでのタイムアタック戦争に終止符が打たれた、かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。事故の翌年にはそのジャンピングスポットの路面をフラットにし、フェンスやガードレールを増設するなどコース改修を実施。それによってレースでの速度制限は解除され、再びラップタイムは公表されることになった。
よりアクセル全開走行区間が増えたニュルではさらにラップタイム競争が激化。「ランボルギーニ・ウラカン ペルフォルマンテ」が6分52秒01という市販車最速タイムをたたき出したかと思いきや、さすがのポルシェが黙っておらず、「911 GT2 RS」で、6分47秒3と記録を更新。さらにポルシェはえげつないことに、2018年6月、昨年までWEC(世界耐久選手権)を走っていたLMP1マシンに改良を施した「919ハイブリッドEvo」でタイムアタックを行い、北コースのコースレコードとなる5分19秒546をマークしている。ニュルでの覇権は誰にも渡さないという強烈な意思表示だろう。
そして現在、ルノースポールはシビック タイプRのタイムを破るべく、メガーヌR.S.の高性能版の開発を進めており、その記録は7分30秒台に突入するとも噂(うわさ)される。こんな至言がある。
「Records are made to be broken.(記録は破られるためにある)」
自動車メーカーの不断の努力とクルマの進化を、ただただ期待するばかりだ。
(文=藤野太一/写真=ルノー、ポルシェ、本田技研工業/編集=関 顕也)
