ルノー・メガーヌ ルノースポール(FF/6AT)
底が知れない 2018.09.08 試乗記 “FF最速”の称号を賭け、日独のライバルとしのぎを削るフランスの高性能ホットハッチ「ルノー・メガーヌ ルノースポール」。その新型がいよいよ日本に導入された。よりマニア度を増した足まわりと、新開発の直噴ターボエンジンが織り成す走りを報告する。新エンジンは日仏合作
メガーヌR.S.は、“市販FF車世界最速リーグ”の一角を占めてきた超高性能ホットハッチだ。今回の新型はメガーヌR.S.としては3世代目にあたり、これまで2世代はともに聖地ニュルブルクリンクでFF最速記録(当時)をたたいてきた。
新型メガーヌR.S.はプラットフォームから新しく、ベースが5ドア(今回のメガーヌに3ドアは存在しない)になったが、それ以外にも多くの技術要素が完全刷新された。
まずはエンジンだ。これまで2世代で使われてきた2リッターポート噴射ターボの「F4Rt」はさすがにお役御免となり、新開発の1.8リッター直噴ターボ「M5P」となった。ちなみに、このM5Pは「アルピーヌA110」のそれと基本的に共通だが、メガーヌR.S.への搭載にあたって、パワーとトルクともにさらなるハイチューン化が施されている。
このエンジンはまさにルノーと日産の合作といった様相を呈する。そもそもは弟分の「ルーテシアR.S.」と同じく、日産設計の「MR」の系列で、大まかな排気量は、日本では「ティーダ」や「ウイングロード」が使っていた「MR18DE」と同様である。ただ、厳密にはそれをロングストローク化した「MRA8DE」に、ルノー側で開発した直噴ヘッドとツインスクロールターボを組み合わせている。さらにいうと、バルブリフター部分のフリクション低減技術“DLCコーティング”や、シリンダー内壁の“ミラーボアコーティング”などもM5Pのハイライトなのだが、これらも日産由来の技術である。
ニュルで先代メガーヌR.S.を上回った「フォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツS」や「ホンダ・シビック タイプR」などから想像されるように、昨今のFFはリアに凝った構造のサスペンションを使って、リアを絶対的に安定させる……のがハヤリである。
対して、メガーヌR.S.のそれは相も変わらず(!)半独立トーションビーム方式なのだが、代わりに四輪操舵システム「4コントロール」を使う。弟分の「メガーヌGT」と同じく、R.S.のそれも低速で逆位相、高速で同位相に後輪をステアする。逆位相は安定性より回頭性・俊敏性に効くが、高速側の同位相は、後輪のグリップや安定性の改善に絶大な効果を発揮するのは間違いない。
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まずは間口の広いモデルから
本国では2種類の変速機と2種類のシャシーチューン=都合4つの選択肢がある新型メガーヌR.S.だが、わが日本仕様に用意される選択肢はひとまず1種類だ。具体的には、本国では6段MTもある変速機は日本では6段ツインクラッチの2ペダル(ルノーでの呼称は「EDC」)のみ。そして、本国では柔らかめの「スポールシャシー」と硬めの「カップシャシー」が存在するシャシーチューンは、前者のスポールシャシーが選ばれている。
こうした今回の日本仕様の設定には、先代での反省も少し含まれている。ご記憶の向きも多いように、先代では、カップシャシーに(本国ではオプションあつかいの)本格バケット風スポーツシートを追加した仕様が日本のカタログモデルだった。しかも、車体形式は3ドアクーペ、変速機は6段MTのみ(この点は、本国にもそれしかなかった)。
こうした商品内容が日本の筋金入りのマニア筋に「メガーヌR.S.だけはホンモノ」と評価された理由でもあるのだが、いっぽうで、それゆえに軽めのクルマ好きに敬遠されたことも事実。途中で比較的ライトな内容の限定車を用意したこともあったが、残念ながら日本市場の反応は薄かった。ルノー・ジャポンはそれを、メガーヌR.S.の硬派なイメージをみずから固定化してしまったから……と分析した。
といった理由もあって、今回は先代とは正反対に、もっともライトで間口の広い組み合わせが選ばれた。もちろん、より過激な選択肢や限定車が遠からず展開されるのだろうし、すでに「MTがほしい」や「カップシャシーはよ」の声が出はじめていると聞く。しかし、「通常モデルは間口を広く、ピーキーな商品は台数もピーキーに」という新型の販売姿勢のほうがビジネスとしては王道である。
端々に見える従来モデルからの進化
もっとも、日本仕様はスポールシャシーそのままでもなく、そこに本来はオプションとなっている19インチの「ブリヂストン・ポテンザS001」を履かせた日本独自の内容になっている(本来の標準は18インチのコンチネンタル)。その19インチのポテンザは、今回のメガーヌR.S.専用に開発された自信作とか。というわけで、その日本仕様は、高性能19インチもあって「先代のカップシャシー比で、飛躍的に快適・実用的になりながら、速さは同等以上」と主張されるものになった。
実際の乗り心地も、なるほど先代カップシャシーと比較すると別世界だ。低速域では弟分のGTもかくや……の滑らかなストローク感でありつつも、すべての動きから“遊び”を一掃した正確さと剛性感がただよう。
新しい直噴ターボは先代より明確にパワフルでトルキー。先代比60kg増のウェイトをものともしない柔軟性ももつ。だが、存在感という意味では、ルノーの歴代スポーツエンジンでも指折りの快感発生装置だった先代F4R系におよばないのは正直なところだ。
ただ、変速機のEDCのふるまいには素直に感心した。最過激な「レース」モードでの電光石火の変速も十二分に刺激的なのだが、それ以上に、対極の「コンフォート」モードにおける変速の瞬間を気づかせないほどの滑らかさに、個人的には感銘を受けた。このあたりは、R.S.専用の大容量変速機(サプライヤーはいつもどおりの「ゲトラグ」)の基本性能の高さを示す事実だろう。
R.S.ならではの凝った足まわり
新型メガーヌR.S.の外観上の大きな特徴は、先代同様に前後ともにワイド化されたサイドフェンダーと、そのスピード性能の割に控えめな空力付加物だろう。
フロントのワイドトレッドは、これまでの2世代同様に、メガーヌR.S.専用のキングピン独立型ストラットを採用しているからである。ハイパワーFFの宿命であるトルクステアの回避に有効な同種のサスペンションは、今ではシビック タイプRも使っているが、商品化はルノーのほうが先だった。
そして、リアはワイドトレッド型トーションビームに後輪操舵機構を内蔵する。リア周辺に派手な空力付加物がつかないのは「後輪操舵によって空力に頼らずともリアの安定性が確保できたから」でもあるとか。
その後輪操舵の作動にはいくつかのモードがあり、エンジンや変速機、パワステ、横滑り防止装置(ESC)、そしてエアコンまでも統合制御するドライブモードセレクターによって選べるようになっている。メガーヌR.S.のドライブモードは、先行したGT同様の「コンフォート」「ニュートラル」「スポーツ」「ペルソ(=パーソナル)」の4種に、専用の「レース」を追加した計5種。GTの後輪操舵は基本的に60km/hで逆位相と同位相が切り替わり、スポーツモードでのみその境目が80km/h(すべて低速側が逆位相、高速側で同位相)になっているが、R.S.ではそれがスポーツ以下で60km/h、レースで100km/h……という専用セッティングとなる。
もっとも、その後輪操舵も車速だけで単純に切り替わるわけではなく、ヨーレートや操舵スピードなどのパラメーターも駆使しながら、モードや走行状況に応じて複雑に制御される。だから、たとえば同じ速度の同じ逆位相領域でも、ニュートラルモードよりスポーツモードのほうが、パワステが重いだけでなく、身のこなしもわずかに安定感が高かったりもする。
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とにかく曲がり、強烈に速い
クローズドサーキットのみならず、今回のような箱根の山坂道でも、少なくともドライコンディションであれば、やはりレースモードでこそメガーヌR.S.の本領が発揮される。
このモードにすると前記の四輪操舵の制御が変わる以外にも、エンジンはいよいよ鋭く吹けるようになり、変速制御は“ガッキーン”というショック上等の最速プログラムとなる。しかも、アフターファイア音やウェイストゲート音がバリバリ響くようになったかと思えば、スピーカーで増音される車内サウンドはエコーかかりまくりーのコブシも回りまくりーの……と、まさにお祭り騒ぎである。
また、同モードでは強制的にESCも解除となるのだが、その場合も「ルーテシアR.S.」に続いて採用されたブレーキLSD「R.S.デフ」の機能だけは残る。ブレーキLSDはESC機能を拡大応用した技術だから、ESCをキャンセルすると抱き合せで死んでしまうのがルーテシアR.S.を含めた通例だが、そこにきっちり対処するとは、さすが“生きた道”を知るR.S.らしい見識である。
ドライブモードを問わず、箱根(を含めた日本全国すべての一般道)では必然的に後輪操舵がずっと逆位相で走ることとなる。逆位相は「回頭性は上がるが、後輪のグリップ限界は下がる」というのが理屈であり、それは同社テストパイロットのロラン・ウルゴン氏も認めるところである。だから、ESCが解除となるレースモードではなお不安だったが、それはまったく不要の気づかいだった。
レースモードのメガーヌR.S.は、目前に次々と現れるコーナーを最小舵角で料理していく。なるほど、そこには「リアタイヤが輪をかけて回り込んでいく」という独特の尻軽感はあるものの、不安な兆候はまるでない。ESCの有無などほとんど気にならず、とにかく曲がる、そして速い。
これは逆位相どうこうというよりも、この程度のエンジンパワー(!)と私程度が到達できる走行ペースは、このクルマの基本フィジカル能力にとっては、鼻歌モノにしてお笑い草レベル……ということなのだろう。「逆位相は滑ったときのコントロール性も、じつは高いんだ」という前出ウルゴン氏の言葉を体感する領域は、まだまだ、はるか上にあるということだ。
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疲労軽減にも寄与する4コントロール
ありがたいことに、別の機会にサーキットでのチョイ乗り体験もできて、そこでは100km/h近い速度域での逆位相や、それ以上の同位相も体験できたが、そこで感じた高速逆位相での安定感、そしてそこから同位相への自然でシームレスな移行、そして同位相領域での「これってフルタイム4WDですか!?」と錯覚しそうなほどの超絶安定性には素直に感銘を受けた。
新型メガーヌR.S.のように、100km/hをはるかに超える超高速コーナーで「もっと踏め! もっと踏め!!」とクルマから訴えかけてくるFFは、世界に数えるほどしか存在しない。もちろん、スポーツモード以下であれば、日本の公道でも同位相の走りが味わえるが、それは速さやスポーツ性より、とにかく長距離移動の疲労軽減に役立つ。直進性は見えないレールにハマったかのようで、レーンチェンジに必要な操作も極小だからだ。
今回は全国屈指の高速ワインディングで路面もきれいなターンパイクのほかに、それに隣接する椿ラインも走ることができた。椿ラインはターンパイクとは好対照に、ときおり1速も使うタイトなコースで路面も荒れている。そこで、普通なら身構えるほどの路面補修痕に乗り上げた新型メガーヌR.S.が、まるでウソみたいにシレッとそれをクリアしていったのは、ルーテシアR.S.に続いてダンパーに仕込まれた「HCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)」の効果だという。
HCCはフルバンプ付近で作動するセカンダリーダンパーのことだが、新型メガーヌR.S.では初めて、フロントだけでなくリアも含めた4本のダンパーすべてに内蔵されている。
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圧倒的にシャシーファスター
新型メガーヌR.S.は、可変ダンパーを使わずに、この種のクルマとしては柔らかで快適な乗り心地と、ムチを入れたときの望外に高い旋回性能と姿勢変化の少なさを両立している点が特徴である。横方向のロールだけでなく、加減速時の前後方向の動きもとても抑制が効いており、またFFとは思えないほど折り目正しいブレーキング姿勢は、今回にかぎらずR.S.の伝統でもある。
こうした仕上がりの背景には、ロールスピードが抑制できる四輪操舵の恩恵もあるだろうが、HCCが最後のトリデとして控えているのが大きい。その最後の踏ん張りがあるからこそ、手前の領域を柔らかに調律できるということだ。
……と、個人的にルノーを何台か乗り継いでいる私としては、新型メガーヌR.S.が登場したというだけで勝手にテンションが上がって、こうしてダラダラと長文を垂れ流してしまったのだが、「スポーツFFに四輪操舵は本当に有効なのか?」や「早いハナシ、2リッターと連続可変ダンパーをもつGTIやタイプRにこれで勝てるのか!?」という大命題については、とても1日2日の試乗では分からなかった。四輪操舵という今までにないキラーアイテムを打ち出す新型メガーヌR.S.の神髄を知るには、常識的な運転スタイルを問い直すところまで突き詰める必要がありそうだ。
いずれにしても、新型メガーヌR.S.は現時点で「取りあえず世に出ました」という初期段階であり、すでに次なる一手である、ニュルアタックの本命「トロフィー」の存在も明らかになりつつある。
個人的には、日常からサーキット走行まで見事に対応するスポールシャシーで上陸したことになんら異存はないが、エンジンのありがたみだけは、先代F4Rtにはハッキリとおよんでいない。まあ、あのようにヒリヒリと絞り出す本物の“泣き”は望めないにしても、パワーやトルクは絶対的に物足りない。まだまだシャシーのほうが完全に勝ってしまっている。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ ルノースポール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:279ps(205kW)/6000rpm
最大トルク:390Nm(39.8kgm)/2400rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y/(後)245/35R19 93Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:13.3km/リッター(JC08モード)
価格:440万円/テスト車=463万3280円
オプション装備:ボディーカラー<オランジュトニックメタリック>(15万6600円) ※以下、販売店オプション フロアマット(3万2400円)/ETC車載器(1万2960円)/エマージェンシーキット(3万1320円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1077km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(0)/山岳路(10)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。