アウディA8 60 TFSIクワトロ(4WD/8AT)/アウディA7スポーツバック55 TFSIクワトロSライン ファーストエディション(4WD/7AT)
徹頭徹尾クール 2018.09.24 試乗記 くしくも(?)2台そろい踏みでの日本上陸となったアウディの「A8」と「A7スポーツバック」。日本上陸が同時なら、公道試乗会も同時開催。「技術による先進」を掲げるブランドの、“ツートップ”の出来栄えやいかに!?一分の隙もない
クルマのデザインには好き嫌いがあるから一概には評価できない、と巷間(こうかん)言われるものの、美しいか、精度が高い仕上がりかについては客観的に判断できると思ってきた。その好例が現代のアウディである。4世代目(「アウディV8」から数えると5代目)の新型A8には、派手でアクの強い造形はどこにも見当たらないものの、端正にして緻密なそのいでたちは誠にアウディのフラッグシップにふさわしい出来栄えである。いち早く巨大なグリルを取り入れたのに、いつの間にかクールで簡潔な路線に舵(かじ)を切ったアウディの最新作は内外装どこにも隙がない。こんなスーパーエリートな雰囲気が、日本では「A3」や「Q2」などのコンパクトモデルに比べて今ひとつ人気がない理由なのかもしれない。カッコよすぎて、映画『トランスポーター』のフランクのように常にパリッとしたスーツで乗らなければいけないようなプレッシャーを与えるかもしれない。
引き算の美学を地で行くような見た目の新型A8ながら、中身は足し算どころか、掛け算レベルの新技術満載である。時間が限られた試乗会では(しかもクーペのトップモデル新型A7スポーツバックと同時開催)すべての新機能を試すことはとてもできなかったことをお断りしておきたい。
1994年登場の初代A8は、量産市販車初というオールアルミボディー「ASF(アウディスペースフレーム)」を採用した画期的なセダンだったが、現在のA8のボディーはアルミだけでなく超高張力鋼板やマグネシウム、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を組み合わせたハイブリッド構造である。そこに搭載される日本向けのエンジンは4リッターV8ツインターボと3リッターV6ターボで(ともにツインスクロール式)、新しい呼称法によって前者は「60 TFSI」、後者は「55 TFSI」と呼ばれ、どちらもトルク配分可変のクワトロである。ボディーサイズは先代とほぼ変わらないが、全長5170mm、全幅1945mm、ホイールベース3000mmは「レクサスLS」ほどではないものの堂々とした体躯(たいく)である。ちなみにホイールベースがさらに130mm長い「A8L 60 TFSIクワトロ」もラインナップされている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スルリと動き出す
2基のターボをVバンクの間に押し込んだ4リッターV8ツインターボは、基本的にポルシェの「パナメーラ ターボ」や「カイエン ターボ」と同じフォルクスワーゲン・アウディグループの最新仕様。460ps/5500rpm、660Nm/1800-4500rpmを生み出す。それに加えて新型は48Vのいわゆるマイルドハイブリッドシステムを採用したことも特徴のひとつだ。
リチウムイオン電池とベルト駆動オルタネータースターターを備えたおかげで始動ボタンを押すと控えめにプンとスタートし、頻繁にアイドリングストップするが、そこからの再始動も非常に静かで滑らかだ。
6割近くをアルミ材が占めるというハイブリッドボディーながら、さすがに車重は素の状態でも2.1tを超えるから、怒涛(どとう)というほどパワフルな感じはないが、低速でもトルクは十分な上にレスポンスも鋭く、山道の急坂でもまったく痛痒(つうよう)を感じない。何より速度域を問わず、8段ATも含めて微妙なスロットルコントロールにリニアに応えてくれる滑らかさが上質だ。フラッグシップサルーンで最も大切なのは、低中速で静かにスムーズに走れることである。マイルドハイブリッドのおかげで、コースティングする際はアイドリングにスッと落ちた後にエンジンは完全停止するが、そこからの復帰もタコメーターの針を見ていない限り気がつかないほどスムーズだ。
とにかくフラット
極低速では路面の凸凹をコツコツと、革底の靴で大理石の床の上を歩くような硬質な感触で伝えてくることに、おやっ? と思うかもしれないが(55は19インチ、60は20インチタイヤが標準)、40km/hぐらいから上ではスッキリと消えてフラットになる。しかも、電子制御ダンパー付きエアサスペンションの面目躍如というべきか、スピードが増せば増すほどしなやかさとフラット感が強調されるタイプだ。メルセデスの「Sクラス」のようにまったり感はないが、硬いというより引き締まっている感覚で、姿勢変化は感じられるのに、“ど”を付けたいほどにフラットである。
試乗車には可変ステアリングレシオと後輪操舵を統合したオプションのダイナミックオールホイールステアリングが備わっていたが、これがまた驚くほど切れ味鋭いハンドリングとスタビリティーを両立させている上に人工的な違和感がないもので、巨体はフラットに保たれたままグイグイ加速していく。シャープなハンドリングとフラットで快適な乗り心地を併せ持つラグジュアリーサルーンとしては現時点ではA8が最右翼だろう。ちなみにダイナミックオールホイールステアリングの有無で最小回転半径は大きく異なるという(5.3mと5.8m)。
ついにレーザースキャナー搭載
最先端のADAS(先進安全運転支援システム)ももちろん新型A8およびA7スポーツバックの自慢のひとつだが、十分に試す時間がなかった。注目すべきは市販車初装備というレーザースキャナーである。従来のカメラとミリ波レーダーにこのレーザースキャナー(走査角度は145度というから120度といわれる人間の目よりワイドだ)を“フュージョン”することで、完全自動運転にさらに一歩近づくというのがA8の大きなトピックだったのだが、高速道路上60km/h以下でのレベル3自動運転を作動させる「アウディAIトラフィックジャムパイロット」の「AI」スイッチは設けられていない(本来はATセレクターの前中央にある)。日本はもちろん、実はドイツでも法整備がすべて解決したわけではなく、まだ市場投入されていないのだという。もっとも、現状でも隣のレーンから急に割り込まれるような場合に威力を発揮するはずである。
「A6セダン」のクーペ版たるA7スポーツバックはこれが2代目。従来型のイメージを残しながら、さらにシャープで流麗なスタイリングに変身した。48Vマイルドハイブリッドシステムやレーザースキャナーを備えたADAS、そしてMMIタッチレスポンス等、A8同様の最新技術が盛り込まれたことが特徴で、エンジンは340ps/5200-6400rpmと500Nm/1370-4500rpmを発生する3リッターV6ターボ(すなわち「55 TFSI」)、変速機は7段DCT、駆動方式はクワトロである。試乗車はダイナミックオールホイールステアリングなどを標準装備した限定車「Sライン ファーストエディション」だったこともあり、とにかく低く敏しょう。だが心配するほどハードな乗り心地ではなく、舗装の荒れた部分でも身構える必要はない。A8より200kgほど軽い車重と後輪操舵システム、切れ味鋭いDCTによるシャープな挙動が印象的である。
A8はもちろん、A7スポーツバックも一分一厘の狂いもない精密さが魅力だ。しかもそれはインテリアトリムやApple顔負けのタッチディスプレイにとどまらず、動的質感にも隙がないようだ(なるべく早くじっくり乗りたいと思う)。あらゆる面で、なるほどこれがプレミアムであるとうならされてしまうのである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディA8 60 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5170×1945×1470mm
ホイールベース:3000mm
車重:2190kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460ps(338kW)/5500rpm
最大トルク:660Nm(67.3kgm)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)265/40R20 104Y XL/(後)265/40R20 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:8.7km/リッター(JC08モード)
価格:1510万円/テスト車=1857万円
オプション装備:ダイナミックオールホイールステアリング(28万円)/スポーツパッケージ<スポーツエクステリア+コンフォートスポーツシート>(68万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+アダプティブウィンドウスクリーンワイパー+センターエアバッグ>(23万円)/コンフォートパッケージ<インディビジュアル電動リアシート+コンフォートヘッドレスト+リアシートヒーター+リアサイドシートランバーサポート+マトリクスLEDインテリアライト+リアシートリモート+リアシートUSB>(47万円)/HDマトリクスLEDヘッドライト アウディレーザーライトパッケージ<アウディレーザーライト+OLEDリアライト>(46万円)/マルチカラーアンビエントライティング(9万円)/パノラミックルーフ(25万円)/Bang & Olufsen 3Dアドバンストサウンドシステム<23スピーカー>(81万円)/20スポークデザインコントラストグレー パートリーポリッシュドホイール<9J×20 265/40R20>(20万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1422km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
アウディA7スポーツバック55 TFSIクワトロSライン ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4975×1910×1415mm
ホイールベース:2925mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:340ps(250kW)/5200-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101Y XL/(後)255/40R20 101Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:12.3km/リッター(JC08モード)
価格:1161万円/テスト車=1161万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1653km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
NEW
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
NEW
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。 -
NEW
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?―
2025.11.26カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する! -
NEW
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.26試乗記「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。 -
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。

























































