アウディA8 3.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)/A8 L 4.0 TFSIクワトロ(4WD/8AT)
引き算の美学 2014.04.14 試乗記 The Art of Progress(革新の美学)をコンセプトに掲げる「アウディA8」が、マイナーチェンジを受けて日本に上陸。知的でクールなフラッグシップセダンの走りを、エンジンもボディーも異なる2種のモデルで確かめた。最もアウディらしいモデル
「アウディはデカいほどいい」と思っている。いや、「A1」や「A3」もそれぞれ出来がいいから、「デカいほどいい」はちょっと違う。「アウディはデカいほど“らしさ”が出る」と言ったほうが正確か。
メルセデス・ベンツの「Aクラス」とアウディA3が10メートル離れているとしたら、「Sクラス」とA8は50メートルぐらいは離れている。だから最もアウディらしいモデルは何かと問われれば、A8だと答える。
2010年に登場した現行A8がマイナーチェンジを受けた。1994年に登場した初代A8は8年間のモデルライフで累計10万台、2002年デビューの2代目は累計15万台と、A8は最上級セグメントで確実に存在感を増している。
3代目(アウディV8から数えると4代目か)となる現行モデルは、2代目をはるかに上回る勢いで売れているという。
マイナーチェンジのポイントは、まずエクステリアデザインの変更だ。とはいっても、マイチェン前のモデルと2台並べて「間違いさがし」をしないとわからないくらい控え目なお化粧直しだ。
シングルフレームグリルによーく目を凝らすと、逆台形の上底の角が隈(くま)取られているのがわかるだろう。だからシングルフレームグリルは台形ではなく、六角形になった。ほかにボンネットに控え目に彫られたラインなどで、全体的に立体感が増している。
また、マトリクスLEDヘッドライトに合わせて、ヘッドライトはよりスクエアな造形となった。この斬新な仕組みのライトは日中の試乗では試すことができなかったため、その仕組みをキャプションに記した。
全体にちょっと控え目な、端正なフォルムだという印象はマイチェン前と変わらない。
で、エクステリアにしろインテリアにしろ、このアンダーステートメントなデザイン表現がアウディらしい。
高級モデルになればなるほど、メッキを光らせてエアロも付けて、とリッチに盛るのが、最近のプレミアムモデルの流れだ。だから高いクルマの顔はどんどんキヨハラっぽくなっていて、コワい。一方のアウディA8はそういった足し算的なデザインではない。基本的な造形美と素材の良さをベースに余分なものを削(そ)ぎ落とす、引き算で美しさを表現しようとしている。
だからA8のデザインは、他の最高級セグメントのモデルと明らかに異なる。知的でクールに見える。
そして洗練されているという印象は、走りだしても変わらない。
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控えめだけどデキる
今回試乗したのは2台。最初に乗ったのが売れセンの3リッターV6直噴+スーパーチャージャー(310ps)の「A8 3.0 TFSIクワトロ」(1008万円)。次に、4リッターV8直噴+ツインターボ(435ps)にノーマルのホイールベースを13cm延ばしたボディーを組み合わせたショーファードリブン仕様の「A8 L 4.0 TFSIクワトロ」(1409万円)を試した。
まずはV6モデルから。
エンジンをスタートしてアクセルペダルを踏み込むと、フワッと軽く加速することに驚く。ただし、みなぎるトルクや音で「オレがオレが」と主張するタイプではなく、あくまでクールに仕事をこなしている。
こう書くと、「退屈なエンジン」と思われるかもしれない。でもそんなことはなく、普段は静かに、振動を感じさせずに仕事をしているけれど、ポンとアクセルを踏み込むとすかさず反応してくれる。レスポンスがいいから、運転が楽しめる。
控え目だけど気が利く、デキるビジネスマンみたいなエンジンだ。4000rpmから上の回転域では、それほどボリュームは大きくないけれど、硬質なちょっといい音を聴かせる。
8段AT(ティプトロニック)も、気の利くデキるやつ。走りだしてゆっくり加速する場面、つまりそれほど深くアクセルペダルを踏み込まない時には、ドライバーが気付かないようにス、ス、スと早め早めにシフトアップする。そして加速が必要な時にアクセルペダルを踏み込むと、すかさずキックダウンして回転が上がり、望んだ加速が手に入る。
急勾配の下りなどでエンジンブレーキが必要な状況では、パドルシフトでシフトダウンすることもあるけれど、普段はオートマに“お任せ”で気持ちよく走れる。
滑るように走る
パワートレインだけでなく、身のこなしも上品だ。まず、速度感応式の電動パワーステアリングの手応えがいい。基本的には軽めのセッティングであるけれど、それでいながらどんな路面の上を走っているのか、タイヤがどこを向いているのかといった情報を繊細に伝える。
ビジネスマンの「報告・連絡・相談を大事にする、ほうれんそうのルール」と同じで、正確な情報がリアルタイムで上がってくるから、次にどうステアリング操作をするべきかを、早いタイミングで自信を持って決めることができる。
乗り心地は抜群にいい。滑るように走る、という表現がぴったり。湖を優雅に泳ぐ白鳥の足が実は水面下でぐるんぐるんガンバっているように、標準装備のエアサスペンションが仕事をしているのだろう。
同じく標準装備のアウディドライブセレクトで「スポーツ」を選ぶと、ステアリングホイールの手応えがグッとソリッドになり、コーナーでの横傾きも明らかに減る。とはいっても路面からの突き上げがドッシンバッタン伝わるわけではなく、凸凹を乗り越えた時のショックの角が少し鋭くなったかな、という程度。いい案配のセッティングだと思う。
乗り心地がいいのに、重厚感を感じさせないのがアウディA8の個性だ。コーナーでも直線でも、安定しているのに軽さを感じさせる。スッと加速してフワッと止まり、シュッとコーナーをクリアする、と長嶋茂雄さんの解説のようになってしまったけれど、羽織っただけでもちろん買ったことはない、カシミヤのコート的な乗り味だ。
やはりアルミ製の軽量ボディー骨格(アウディスペースフレーム)が、この独特の乗り味を決めているのだろう。ただしこのモデルの1950kgという車重自体は、例えば「BMW 740i」あたりと大差ない。
A8は四駆なのにこの重量だからエラい、ということは言えるだろう。最高級セグメントのライバルたちが後輪駆動をメインにするのに対してA8は四駆であることも、差別化に一役買っているはずだ。
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知的でクールで懐が深い
続いて、A8 L 4.0 TFSIクワトロに乗る。ホイールベースが13cm延びるとダックスフントみたいなフォルムになるのではないか、という心配は杞憂(きゆう)に終わった。むしろノーマルホイールベース版より伸びやかで、エレガントに感じる。こっちの方がカッコいいからロングを選ぶ、という人も出てくるかもしれない。
3リッターに乗って、「こっちで十分、4リッターのV8は不要」だと思っていたけれど、駐車場から道路に出た瞬間に、むむむと思う。0km/hからのはじめの一歩が濃いというか豊かというか、とにかくムッチリと身が詰まった加速を味わえる。
特に箱根のターンパイクの急勾配の登りでは、快音とともに気持ちよく吹け上がる。普段は知的でクールだけれどヤル時はヤル、というのが3リッターV6との違いだ。V8のほうが引き出しの数が多く、懐が深い。
せっかくのショーファードリブン仕様なので、後席にも座ってみる。滑るような乗り心地は3リッターモデルと同じで、そこに広くて静かさと豪華な装備が加わる。3リッターモデルには設定のない、スピーカーから逆位相の音を流してノイズを相殺するアクティブノイズキャンセレーションの効果か、一段と静かに感じる。
もしこのクルマのタクシーがあったら、ほかのタクシーを5台ぐらいやり過ごしても乗りたい。
限られた時間と道路状況での試乗だったためにハイテク安全・快適装備は試すことができなかったけれど、自動ブレーキ機能や自動ステアリング修正機能、停止まで追従するクルーズコントロールなど、最新の技術トレンドはすべておさえている。
「アウディ=おしゃれ」というイメージが定着するにつれ、「自分、不器用ですから武骨なほうが好きっす」と言いたくなっていた。でも、悔しいことに(なぜ?)A8にはヤられた。少なくとも最高級セグメントの中では、見ても乗っても一番好き。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
アウディA8 3.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5145×1950×1465mm
ホイールベース:2990mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:310ps(228kW)/5500-6500rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/2900-4500rpm
タイヤ:(前)255/45R19 104Y/(後)255/45R19 104Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:1008万円/テスト車=1400万円
オプション装備:マトリクスLEDヘッドライト(38万円)/コンフォートパッケージ(56万円)/アウディプレセンスパッケージ(40万円)/バング&オルフセン アドバンストサウンドシステム(86万円)/ナイトビジョン(35万円)/ヘッドアップディスプレイ(22万円)/レザーダッシュボード(上部)+アッパードアトリム+シートバックレストカバー(115万円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1565km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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アウディA8 L 4.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5275×1950×1465mm
ホイールベース:3120mm
車重:2130kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:435ps(320kW)/5100-6000rpm
最大トルク:61.2kgm(600Nm)/1500-5000rpm
タイヤ:(前)255/45R19 104Y/(後)255/45R19 104Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:9.9km/リッター(JC08モード)
価格:1409万円/テスト車=1726万円
オプション装備:アウディプレセンスパッケージ(40万円)/アウディデザインセレクション パラオブラウン(134万円)/バング&オルフセン アドバンストサウンドシステム(86万円)/ナイトビジョン(35万円)/ヘッドアップディスプレイ(22万円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:113km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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