ラインナップも販売台数も右肩上がり!
125ccクラスの隆盛がニッポンの二輪事情を変える
2018.10.08
デイリーコラム
地味で中途半端な存在だった125ccクラス
バイクの中でも、50ccのように手軽ではなく、250ccほど本格的ではない125ccという排気量は、長い間ツウというかマニアックというか地味というか、ちょっとハンパなカテゴリーとして存在していた。
だからというわけではないものの、125ccはバイクを取り巻く法規の中でもどっちつかずの存在で、道路交通法的には「小さい普通自動二輪」だが、道路運送車両法の中では「大きい原動機付自転車」となっている。(下記参照)
とても不思議である。不思議ついでに書いておくと、表中にある「軽二輪」は「二輪の軽自動車」、「小型二輪」は「二輪の小型自動車」をそれぞれ意味し、これもちょっとややこしい。1.8リッターの「ホンダ・ゴールドウイング」は誰がどう見ても「大きなバイク」なのに、道路運送車両法の下では「タイヤが2つの小さなクルマ」に区分されるからだ。
……ということを根掘り葉掘り書いていくとキリがないので話題を戻すと、これまであまり目立たない排気量だった「125ccクラス」が、ここにきてがぜん盛り上がりつつあるのだ。
ここで言う「125ccクラス」とは、黄色ナンバー(50cc超~90cc以下)とピンクナンバー(90cc超~125cc以下)をひっくるめた、50cc超~125cc以下の「原付第二種(=小型限定普通自動二輪免許)」のことを指す。黄色とピンクの違いはそれほどややこしくはない。両者の間にあるのは単に軽自動車税の金額の差で、前者が2000円、後者が2400円となる。適用される法律は同じだ。
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他のクラスとの比較に見るメリット
盛り上がりの根拠に挙げられるのが、まずラインナップされているモデル数だ。2017年春の時点で、このクラスに国内4メーカーが用意していた新車は20機種弱だった。ところが2018年9月現在、それは派生モデルも含めて29機種に拡大(逆輸入モデルや競技車両を除く)。加えて、ランブレッタやプジョー、アプリリア、SWMといった海外ブランドのモデルも新たに導入されるなど、その幅はかなり広くなっている。
ラインナップが増えても売れなければ意味はないが、それについても125ccクラスの保有台数はこの10年間ジワジワ増え続け、2008年の142万9738台に対し、2017年は173万7911台となっている。一方、50ccクラスは790万2051台(2008年)から561万5360台(2017年)へと30%近くも減少しているのが現状である。(参照データ:日本自動車工業会)
125ccクラスが増えている理由はいくつかあるのだが、まずはそのメリットをおさらいしたい。50ccの原付に対する利点はおおむね下記の通りだ。
- 法定最高速度が60km/h(50ccは30km/h)
- 2段階右折が不要
- 2人乗りが可能(ただし免許取得後1年が経過してから)
要するに、道路交通法に対する“しばり”の少なさが挙げられる。一方、125ccを超える普通自動二輪車に対しては、
- 税金の安さや燃費のよさ
- クルマの任意保険に加入していれば、その補償がファミリーバイク特約として適用される(一部制限あり)
このように、維持費の面で有利なことが多いというわけだ。とはいえ、これらは今に始まったことではなく、ガソリン代高騰などの影響があったとしても、ブームの直接的な要因とは言えない。では、他になにがあるのか? それを探ると、このクラスを後押ししようと外堀を埋める、関係各所の思惑が見えてくるのである。
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125ccに傾注する国内メーカー
そもそも国内メーカーは、50ccではなく125ccクラスを二輪免許の入り口にしたいと考えている。なぜなら50ccというのは基本的に日本独自の排気量区分で、世界規模では125cc~150ccがスタンダードだからだ。いわば50ccはガラパゴス化したクラスなのだ。しかも販売台数は最盛期の10分の1程度にまで減少している。落ち込む一方のマーケットのために、わざわざ専用のモデルを作りたくないというのがメーカーの本音だ。そこでホンダとヤマハは、2016年10月にスクーター生産の協業を検討し始め、実際ヤマハは、2018年3月から一部機種のOEM供給を受けている。
それと前後するように始まったホンダの攻勢は分かりやすい。排ガス規制をクリアできない50ccはそのまま生産を終了し、代わりに125ccクラスのニューモデルを積極的に投入。長年愛されてきた50ccの「モンキー」を「モンキー125」に刷新したのは顕著な例だが、それ以外にも「スーパーカブC125」「CB125R」「PCXハイブリッド」など、現在このクラスに13機種も新車を用意している。
一方、ヤマハは3輪の「トリシティ」を改良して安全性と独自性を訴求し、カワサキは「Z125プロ」でレジャー性を追求。スズキはホンダに次ぐ豊富なラインナップを持ち、本格的なスポーツ性を持つ「GSX-R125 ABS」や、そのネイキッド版である「GSX-S125 ABS」、街乗りでの機動力に特化した「スウィッシュ」など、8機種をリリースしている。
さて、こうしてネタをズラリとそろえたなら、並行してやるべきは障壁となる免許制度の改革だ。その手始めとして、2018年7月に道路交通法が改正され、普通免許(四輪)を持っていればオートマ(AT)小型限定の普通自動二輪免許が取得しやすくなった。これまでは1日当たりに受けられる技能教習に制限があり、最短でも取得に3日かかっていた。今回の法改正では、その課程が緩和され、最短2日で免許を取れるようになったのである。
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125ccクラスを取り巻くポジティブな流れ
もちろん、教習に必要なシミュレーターや教官の数にも左右されるため、現段階では必ずしも思惑通りに機能しているわけではないが、ハードルが少し下がったことは間違いない。もっと言えば、この免許が原付免許に取って代わる形で普通免許に付帯することになれば、いよいよ125ccクラスが爆発的にヒットする可能性が高い。
現にスズキの鈴木 修会長は、2017年の決算会見の際、「125ccや150ccが小さなバイクの限界ではないか」と述べ、将来的に50ccはなくなる可能性を示唆した。そうした事実からも、メーカーサイドの「このクラスをスタンダードにしたい」という意向がうかがえる。
加えてもうひとつ。警察庁は2018年4月に「自動二輪車等に係る駐車環境の整備の推進について」という通達を出し、二輪用駐車場の増加と駐車違反の規制見直しを検討し始めた。要するに、「二輪の駐車場が整ってないのに杓子(しゃくし)定規に違反を取り締まるのはいかがなものか。迷惑がないのであれば場所や時間に応じて臨機応変に対応しましょう」と、緩和方向に舵が切られたのである。
法改正、規制緩和、グローバルスタンダードへの追従、メーカーや関係団体の思惑……などなど、さまざまな要因が重なって二輪の価値が見直され、その中でもコストパフォーマンスに優れる125ccクラスに注目が集まって需要が高まる。需要が高まれば、メーカーもさらに魅力的なニューモデルを投入する。今、125ccクラスはそんなポジティブな渦の真っただ中にある。日本でもこのクラスが、二輪のスタンダードとなる日は近いのかもしれない。
(文=伊丹孝裕/写真=川崎重工業、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機、webCG/編集=堀田剛資)
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伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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