四輪の世界も変えていく!?
活気あふれるヤマハの動きに注目せよ
2018.10.12
デイリーコラム
バイクの価値観を変える製品
ヤマハからフロント2輪、リア1輪のバイク「ナイケン」が登場し、その試乗会がクローズドコースで開催された。当日は近づく台風の影響で雨に見舞われ、走行には最悪のコンディションになったものの、結果的にそれがナイケンの実力をあらわにした。
というのも、路面はフルウエット状態だったにもかかわらず、ナイケンはまったく恐怖感を与えるなくフルバンクに到達し、ヒザのバンクセンサーも余裕で接地。そこには“グリップ革命”と呼べるほどの圧倒的なスタビリティーがあったからだ。
かといって、四輪的なコーナリングかといえばまったく違う。ちゃんと体を前後左右上下に動かしながらGをコントロールする醍醐味(だいごみ)は二輪車のそれのままで、つまり四輪の安定感と二輪の運動性がすさまじく高いレベルでバランスしていたのである。
本当はもっと書きたい、もっと知ってほしいのだが今回はここまで。確かなのは、バイクの価値観が変わる瞬間に立ち会えたということである。
ヤマハには「RZ250」「V-MAX」「YZF-R1」といったエポックメイキングなモデルがいくつもあり、その度にバイク界の風向きを大きく変えてきた。ナイケンもそこに名を連ねるのは間違いなく、今後のモビリティーのありようにも大きな影響を与えるはずだ。
ヤマハはどこを目指している?
LMW(Leaning Multi Wheel)と呼ばれるフロント2輪を筆頭に、新しい機構に対するヤマハの挑戦はここ数年活発だ。2017年10月に開催された第45回東京モーターショーは象徴的な場となり、最新のスーパースポーツやレーシングマシンがそろえられたことはもちろん、単に「二輪」にカテゴライズできないモデルも一堂に展示。しかも絵に描いた餅ではなく、そのいずれもがリアルな未来を予感させた。
そこでは「MWC-4」や「CROSS HUB CONCEPT(クロスハブコンセプト)」も披露され、ヤマハの四輪進出の可能性が以前にも増して具体的になった。また、しつけられたペットのようにライダーに寄り添うパーソナルモビリティー「MOTOROiD」やバレンティーノ・ロッシを抜くことを本気で目指し、目覚ましい進化を遂げているヒト型ライディングロボット「MOTOBOT」の開発過程も紹介。他メーカーのことなど気にもかけず、完全に違うステージを目指している孤高感が漂っていた。
その一方で、変える必要がないものはそのまま継続する懐の深さも見せている。「SR400」や「セロー250」といった空冷モデルがそれにあたる。これらは排ガス規制を前に2017年秋に一度生産を終了したが、メーカーとしては極めて異例なことに、早々に再販を予告。実際、1年ほど設けられた充電期間の間に各種規制をクリアし、先ごろ再びラインナップに加えてくれたのだ。
縦横無尽というか、自由奔放というか、ずいぶんと手広いヤマハの展開が気になり、関係者に幾度か「一体、あなたたちはどこへ向かっているんですか?」と尋ねてみたことがある。聞き出したのは企業としての野望や展望だが、いつも返ってくるのは「たぶんそんなものはないと思いますよ。やりたいことも考え方もみんなバラバラで、だけどそれを肯定してくれる社風がウチのいいところです」というような言葉だった。
「思いつき」がどんどんカタチに
普通の企業ならテキトーにあしらわれているような気持ちになるが、ヤマハの場合は本当にそうかもしれない。会社の成り立ちや経緯がそれを物語っているからだ。
創業者の山葉寅楠(やまはとらくす)は時計や医療機器の修理技師として働くかたわら、なぜかオルガンの修理、製作、輸入を経て本格的に楽器産業へ進出。そこで培った木工のノウハウで飛行機のプロペラを作り、戦後はその機械加工設備を二輪車の生産へと転用。バイク用エンジン技術をボートの船外機に生かしつつ、ついでとばかりに船体そのものも作るようになった。
その時、船体に採用されていたのが軽くて水を通さない当時の新素材FRP(強化繊維プラスチック)だ。水が侵入しないのなら閉じ込めておくことも可能なため、今度はそれをプール事業に活用して……と次々にひらめいたアイデアをなんらかのカタチに変え、やがてPCや風力発電、バイオ事業などにも進出していったのである。
後に撤退した分野も多いが、要するにヤマハという会社は極めてピュアなのだと思う。「こんなことができたらおもしろい!」という思いつきを肯定し、ゴーサインを出す土壌があり、それが今も残されているのだ。
現在、ひと口にヤマハといっても楽器や音楽事業を展開する「ヤマハ」とバイクやマリン事業を中心に手がける「ヤマハ発動機」の大きく分けて2社がある。いずれにしてもそこから送り出される製品の多くは生活必需品ではなく、発展途上国における浄水装置や辺境地で求められる特殊車両などを除けば、趣味をサポートするモノが大半だ。しかしながら、それがあるからこそ、人々の暮らしにはゆとりやうるおいがもたらされるのである。
SUVやオープンカーは実現可能
そういう意味で、二輪も三輪も四輪も全方位的に網羅しようとしているヤマハのモビリティーには要注目だ。ファンライドとイージードライブを両立してしまったナイケンのような三輪車が二輪車のシェアに食い込んでくることは間違いなく、今後電子デバイスの充実が図られ、排気量や車体サイズにバリエーションが加われば大きなマーケットを築いていくことになるはずだ。
そうやって二輪にはない快適性や積載性、走破性のレベルが引き上げられていくと、その延長線上には当然四輪の展開が控えているが、ヤマハにとってそれがまったく未知のものかといえばそんなこともない。
前述のMWC-4は“ナイケンの四輪版”とも呼べる機構を持つ新しい試みながら、すでに北米で大きなシェアを持つスポーツビークル「YXZ1000R」は構造的には四輪であり、ダカールラリーのクアッド部門では連覇を達成するなど、実績は十分。そのノウハウをストリートに落とし込むことができたならSUVにもオープンカーにもシティーコミューターにも成り得る可能性を秘めているはずだ。
では、二輪はどうなっていくのか?
三輪と四輪の台頭によってその肩身が狭くなりそうだが、やはり軽量コンパクトさを突き詰めた際のスポーツ性においては、それらを圧倒。車体をバンクさせ、スロットル開度を探りながらトラクションを引き出す爽快さは二輪ならではの世界だ。そもそも不安定な成り立ちの車体をいかに乗り手が安定させるか。その“手なずけ感”は三輪や四輪では得難く、ある種のスリリングさにこそ醍醐味がある。
いずれにしても、タイヤの数や搭載されるパワーユニットにかかわらず、ヤマハは常に「人機一体」のフィーリングを追求してきた。それが今後も忘れられない限り、われわれのように趣味としてスロットルを握り、アクセルを踏む人種の心を満たしてくれるに違いない。
(文=伊丹孝裕/写真=ヤマハ発動機/編集=関 顕也)
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伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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