アルファ・ロメオ・ステルヴィオ ファーストエディション(4WD/8AT)
もっとハジけろ 2018.10.17 試乗記 名門復権に向けた第2の矢として、市場に投入された新型SUV「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ」。新生アルファならではのスポーティーなニューモデルは、果たして期待に応える出来栄えだったのか? “自慢の走り”を確かめた。マルキオンネが成した改革の産物
去る2018年7月に亡くなったセルジオ・マルキオンネCEOは、その手腕に賛否こそあれど、財務的にはフィアットグループ、言い換えればイタリアの自動車産業をものの見事に再建させた名経営者としてその名を残すことになるだろう。
その氏が、イタリアのエスタブリッシュメントに愛されてきたランチアを切り捨てても推し続けたブランドが、アルファ・ロメオだ。誕生から100年を超える歴史の土台には常にスポーティネスがあり、国際的にみても認知度が高い。そこをフックとすれば、再度の米国市場進出や、その先にある新興国市場への参入の足がかりにもなる。つかみどころがない印象の氏にあって、その考え方は手に取るようにわかりやすかった。
かくして史上幾度目かの再生に乗り出したアルファ・ロメオの目指すところは、ブランドイメージの上位シフトによる収益性の改善、そのためのコアテクノロジーとなるFR系アーキテクチャーの採用、それらを踏まえた仕向け地を問わず求められる車型の開発ということになる。そのプロセスに沿って登場したのが4ドアセダンの「ジュリア」であり、そこから間髪入れることなく投入されたSUVのステルヴィオだ。この流れもまた、セオリー通りといえるだろう。
現状、日本で販売されているステルヴィオのパワートレインは280psを発生する2リッター直4直噴ターボのみ。そしてドライブトレインはフルタイム四駆の「Q4」のみとなる。ニュルブルクリンク北コースでSUV最速となる7分51秒台をたたき出したという、2.9リッターV6直噴ツインターボを搭載する「クアドリフォリオ」は、年内に発売の予定だ。余談だが、最高出力650psを発生する「ランボルギーニ・ウルス」は、いまだニュルでのタイムアタックには至っていないようだ。
スポーティーな走りを武器にライバルに挑む
最近発表されたカタログモデルのグレード構成は「2.0ターボQ4」「2.0ターボQ4スポーツパッケージ」「2.0ターボQ4ラグジュアリーパッケージ」の3つとなる。スポーツパッケージはハイサポートのレザースポーツシートや19インチタイヤ&ホイールが、ラグジュアリーパッケージはレザーラップのインストゥルメントパネルやウッドパネル、18インチタイヤ&ホイールが標準装備で、価格は共に691万円。655万円のベースグレードは受注生産扱いだが、その価格差をみるにあえてそちらを選ぼうというユーザーは少ないだろう。今回、試乗に供されたのは日本デビュー時に限定400台で発売された689万円の「ファーストエディション」だが、走行性能にまつわるところでは20インチホイール&タイヤが固有の装備ということになる。
全長×全幅×全高=4690×1905×1680mm。ステルヴィオの車格はいわゆるプレミアムDセグメント系のど真ん中にあって、「メルセデス・ベンツGLC」や「BMW X3」を筆頭に、ライバルは群雄割拠と評しても足りないほどにひしめいている。
その中にあってステルヴィオはどのような個性を打ち出しているのか……といえば、それはズバリ、走りだ。230km/hの最高速はさておき、0-100km/h加速5.7秒というスペックは「ポルシェ・マカン」や「ジャガーFペース」などになぞらえれば、V6搭載グレードの側に近い。また、アルミやカーボンなどの材料置換によるライバル比で軽量な車体設計に加え、50:50の前後重量配分、そして「通常時はリア100%、最大で50%をフロント側に配分」という旋回性重視の四駆システムなど、運動性能を裏付けるディテールはいくらもある。
ただ、実際に試乗してみると、その走りは実用的にもしつけられていることがわかる。2250rpmで400Nmを発生……と、今日のエンジンとしてはやや高回転寄りのトルクバンドをZFの8段ATはうまく生かし、日常的な加速においてじれったさを感じる場面はない。ギアのつながり感もタイトで、パドルを用いればスポーツを唱えるに十分なダイレクト感をワインディングロードでも示してくれる。
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もっとターマック寄りであっていい
エンジンを回せばアルファ・ロメオらしい快音が……といかないのは昨今の直噴ターボが抱える共通の悩みだ。それでもサウンドチューニングは入念に施されたのだろう、低めのトーンながらもそれなりに高揚感のある音は、SUVというステルヴィオのキャラクターを鑑みれば程よいところなのかもしれない。
一方で、著しくSUV離れしているのがステアリングまわりの味付けだ。背丈の低い乗用車であってもクイックに感じられるだろうギアレシオと、それに比して容赦なく立ち上がる操舵ゲインは、拳ひとつで向きを変えるスポーツカーにでも乗っているような気にさせられるほど。それこそ毎日走る道がステルヴィオ峠のようなタイトターンの連続であれば整合性もあるだろうが、ロングツーリングやラフロードのドライブではさすがに神経をすり減らしそうなキャラクターではある。
でもこれは、ステルヴィオが自らの個性として確信犯で施したセットアップであることは明白だからして、文句をいうのは筋違いということになるだろう。こうなるとストロークで利かせる常識的なセットアップのブレーキももう少しタイトに締め上げてもいいかもしれないし、タイヤも大径低偏平の方が動きのつじつまが合うはずだ。
思えばジュリアでは「クアドリフォリオ」とそれ以外のモデルとで、ダイナミクスのキャラクターに大きな差があることが印象に残った。が、それは多様性のあるユーザーを囲うべきサルーンがゆえの苦悩でもあったのではないかとも察せられる。
対すれば、SUVはより嗜好(しこう)性が優先されるカテゴリーである上に、ライバルひしめく激戦区でもある。そうした場で一芸に秀でる必要のあったステルヴィオの場合、標準的なグレードであれ、「背の高いクルマで何してくれてんの?」といぶかしがられるくらいバキバキにターマック志向のシャシーが与えられてもいいのかもしれない。ベストグレードの答えはクアドリフォリオの上陸までおあずけだが、現状のラインナップではむしろ「吹っ切れなさ」が気にかかる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1905×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:280ps(206kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2250rpm
タイヤ:(前)255/45R20 105V/(後)255/45R20 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:689万円/テスト車=703万7744円
オプション装備:メタリックカラー(8万6400円)/ETC車載器(1万8144円)/フロアマット“AlfaRomeo”(4万3200円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2872km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:343.1km
使用燃料:40.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。