アルファ・ロメオ・ステルヴィオ2.2ターボ ディーゼルTi(4WD/8AT)
名門の憂鬱 2022.08.12 試乗記 名門ゆえにアルファ・ロメオは偉大な名跡を多数抱えている。「ステルヴィオ」に新たにラインナップされた「Ti」もそのひとつだ。アルファらしい走りとアルファらしからぬユーザビリティーを兼ね備えた良作だが、それが売れ行きに結び付かないのが名門ゆえの苦悩である。昔の名前で出ています
アルファ・ロメオを取り上げるのは、今ちょっと気が重い。昭和生まれのオジサンにとってアルファ・ロメオはスターそのものだが、過去の栄光の話をまたぞろ繰り返すのも若い人にとっては退屈だろうし、オジサン世代にとってはもはや耳タコ、しかもどうしたって昔日の面影はない、という落ちになるからだ。
新しい後輪駆動プラットフォームを開発して、セダンの「ジュリア」とSUVのステルヴィオという新世代モデルを大々的に送り出したのもつかの間、電動化を想定していないミドルクラス2車種のみではやはり苦しく、一時上向いたセールスは思わしくない。もちろん供給が計画どおりにいかないという状況下ではあるものの、昨2021年の国内販売は約2300台、今年は上半期の売れ行きを見る限り再び2000台を割り込みそうだ。ステランティスグループの他のブランドに比べて不振は明らかである。期待はハイブリッドやプラグインハイブリッドもラインナップされる新型のコンパクトSUV「トナーレ」だが、そのデリバリーが軌道に乗るまでは現状のモデルでしのぐしかない、という苦労がうかがえるのがこのステルヴィオTiである。
かつてのヒット作の名前を安売りしがちな最近のアルファだが、今度は「Ti」の名前を倉庫から引っ張り出してきた。Ti(トゥリズモ・インテルナツィオナーレ)は、大戦後初のコンパクトクーペにして、ヒット作となった「ジュリエッタ スプリント」の4ドア版(1955年発売)に与えられた由緒正しい記号である。装備を簡略化した「スプリント」をステルヴィオのベーシックグレードとして導入したのは確か2年前の夏だったが、このTiはそれに代わるものらしい。ただし、スプリントの車両価格は当時589万円と600万円を切っていたが、装備の充実したTiはラインナップ中最も廉価とはいえ680万円に一気に上昇。さらについ先日のこの8月初頭に703万円への値上げされている。事情は分かるものの、これではなかなか、というものである。
中身は変わらない
「Ti」のエンブレムを付けた新型ながら、率直に言って基本的なメカニズムは従来と変わらない。Tiは2.2リッターディーゼルターボ+8段ATのAWDで、これまでのスプリントとはコスメティクスと装備品の違いがあるだけだ。無論、ADAS系システムやインフォテインメントは最新型にアップデートされているが(車載カーナビも標準装備)、伝統あるネーミングをトリムグレードの違いだけに使うのはいかがなものか、という気がする。
ステルヴィオ用2.2リッター(2142cc)4気筒直噴ターボディーゼルは、最高出力210PS/3500rpmと最大トルク470N・m/1750rpmを発生する。リッターあたり100PSに近いピークパワーもさることながら、低回転での強力なトルクが特長であり、1500rpmでも既に440N・m以上の大トルクを生みだすというから、たくましく加速するのも当然だ。ZF製8段ATのファイナルはジュリア用よりも低められており、ステルヴィオ2.2Dの0-100km/h加速は6.6秒というから、ディーゼルのSUVとしてはかなりの俊足である。
いっぽうで、最近のディーゼルユニットのなかでも回りたがるタイプではなく、普通に加速する場合は2500rpmぐらいでトントンと小気味よくシフトアップしていく。フルスロットルにしても4000rpm手前で自動シフトアップしてしまうが、回して痛快というわけではなく、健康的で実用的なエンジンだ。アイドリング時のノイズと振動は現代の標準からするとちょっと大きめだが、もちろん走りだせばまったく気にならなくなる。
アルファにしては広すぎる?
ステルヴィオのボディーサイズは「ポルシェ・マカン」や「BMW X3」とほぼ同等、全長はぎりぎり4.7m以内に収まっているが、全幅は1905mmもあり、そのせいかずいぶんと大きなずうたいに見える。ドライバーズシートに座っても幅広く感じるのは確かであり、1.8mどころか1.9mを超える全幅は、都市部の狭い道や駐車時には気にならないと言ったらうそになる。アルファの伝統に従って(?)最小回転半径も6mとやや大きい。そのぶん、室内は余裕たっぷりだ。ただし整理されたクリーンなインストゥルメントの仕立てはややビジネスライクで、運転席まわりが広々としていることも、なんだかかえって落ち着かない。
以前のアルファならば、たとえ外寸が大きくても、コックピットは体にぴったりフィットするようにタイトなのが当たり前だったが、ステルヴィオの場合はドライバーズシートを含め前席まわりのスペースは標準的な日本人の体格にはいささか大きすぎるほど。フットボックスまわりも広々としており、コーナリング中に右膝では体を支えることができない。アメリカ市場重視をうかがわせる点だ。ちなみにTiはグレーオークのウッドパネルとレザーのコンビネーションとなり、他のモデルよりもラグジュアリーな雰囲気だ。
リアシートもまずまず十分な広さで、クッションやバックレストの形状はやや平板ながらも居心地は悪くない。またボディーサイドも思ったよりも絞られておらず、乗員の肩から頭の周囲も窮屈さはない。大きく傾斜したリアウィンドウを通した視界は限られるものの、使い勝手の面で気になるのはそのぐらいで、ラゲッジスペースの容量も525リッターと十分だ。スタイリッシュに見せて実は実用性にきちんと配慮してあるのがステルヴィオである。
名門ゆえの苦悩
アルファといえば超クイックなステアリングが特徴と考えている人も最近は多いはず。ステルヴィオのロック・トゥ・ロックもほぼ2回転で、ステアリングレスポンスは敏感で初めて乗ると面食らうかもしれないほど。だがピーキーなヨーの立ち上がりがアルファの伝統かというとそうでもない。ひとことで言えばリニアなレスポンスとコントロール性がアルファの身上であり、しかもそれは後輪駆動の「SZ」(ES30)も前輪駆動の「アルファスッド」も同様で、それゆえ「FWDのBMW」などと言われた時代もあった。ステルヴィオも鋭い切れ味だけでなく、その先のコントロール性の高さと正確さが特長だ。ただし、ブレーキによるベクタリング効果が明瞭なようで、特にブレーキングしながらターンインすると、スパッと思った以上に内側に引き寄せられるような動きを見せる点がいささか人工的な匂いもする。
ちなみにパワーが限られていることもあり、オンロードでは4WD臭は事実上感じ取れない。これほどキレッキレのステアリングを持ちながら、少しも安定感を失わないのは高度なシャシー(アルミを多用したダブルウイッシュボーン/マルチリンクでプロップシャフトはカーボン製)ゆえだと思うが、問題はそれがどこまで現代の、しかもSUVのカスタマーにアピールするかということだ。
SUVとして普通に上出来のレベルでは古くからの(マニアックな)客を納得させられず、いっぽうで飛ばすことに興味がない若い世代には価値を理解してもらえないというはざまに陥っているのかもしれない。実用的であるがゆえにアルファらしくないと見られているとしたら、何とも皮肉なことである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ2.2ターボ ディーゼルQ4ヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1905×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1820kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:210PS(154kW)/3500rpm
最大トルク:470N・m(47.9kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)255/45R20 105V/(後)255/45R20 105V(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:16.0km/リッター(WLTCモード)
価格:680万円/テスト車=686万3250円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<アルファ・ロメオ>(4万4000円)/アルファ・ロメオオリジナルETC車載器(1万9250円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:345km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:385.7km
使用燃料:31.7リッター(軽油)
参考燃費:12.2km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】 2026.3.4 メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
NEW
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。















































