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日本の木材がクルマを変える!?
自然由来の自動車パーツ、ただいま開発中

2018.10.26 デイリーコラム 大音 安弘

花粉症も同時に解決?

光岡自動車は2018年10月23日、特別仕様の「ビュート」をお披露目した。“特別”な理由は、装着される部品にあり。なんと、自然由来の新素材を活用したものなのだ。

これは内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のプロジェクトのひとつで、国立研究開発法人である「産業技術総合研究所」、国立研究開発法人 森林研究・整備機構の「森林総合研究所」、「宮城化成」らの研究グループが推進する官民一体の取り組みだ。

その成果となる自動車部品を、光岡自動車の協力によりテスト車となるビュートに装着し、実証実験を行うという。早速、実車を確認してみたが、見た目は通常のビュートそのもの。特別仕立ての部品は、外装についてはボンネットのみで、内装では前後ドアのパネル、それに付随するアームレストとスピーカーボックスと、全部で4種類のパーツがある。ボンネットは塗装され、ドアパネルのほとんどはレザー調の生地で覆われているため、見た目には変わりはないのである。

重要なのは、これらの部品が、ある木材の成分から生まれた新材料「改質リグニン」を使用したGFRP(ガラス繊維強化複合材)であるということだ。その木材の正体は、なんと春先に多くの人を花粉で悩ませる杉の木だという。一体、新材料の改質リグニンとは何なのか?

まず、リグニンについて説明したい。木材は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つの成分で構成されている。木材から生まれる代表的な製品といえば紙があるが、その原材料となる紙パルプ製造の副産物として、リグニン系の素材を製造できるという。リグニン系の素材は、強固で耐熱性に優れるなど、素材として高いポテンシャルを持つ一方で、元となるリグニンは樹木の種類や生育環境などで性質が異なってしまうため、安定品質が求められる工業材料化は困難とされてきた。しかしながら、木材の全体の約3割がリグニンであるため、なんとか活用できないかと長年研究が進められてきたわけだ。

そこで注目されたのが杉の木。日本固有の針葉樹で、1種1族しか存在しないため、どの杉の木でもリグニン構造にばらつきがない。しかも日本で最も多い樹木である。花粉症の人が聞いたら、ちょっとナーバスになってしまうかもしれないが、国内樹木の21%を占めるほど。もちろん国内林業の主要樹種でもあるので生産体制も確立されており、安定供給が可能。そこで開発されたのが、改質リグリンというわけだ。

“自然由来のパーツ”を使用した特別な「ミツオカ・ビュート」を囲んでのフォトセッション。中央の女性は「ミス日本みどりの女神」。
“自然由来のパーツ”を使用した特別な「ミツオカ・ビュート」を囲んでのフォトセッション。中央の女性は「ミス日本みどりの女神」。拡大
これが今回の主役たる「改質リグニン」。杉の木から作られた素材で、自動車の樹脂パーツに添加して活用することが期待されている。
これが今回の主役たる「改質リグニン」。杉の木から作られた素材で、自動車の樹脂パーツに添加して活用することが期待されている。拡大
ミツオカ の中古車

ミツオカ車の耐久性がアップするかも

改質リグリンの製造時には、PEG(ポリエチレングリコール)を使った改質が行われるが、添加されるPEGも化粧品などに多用される毒性のない水溶性高分子のため安全性が高く、反応も常圧で行えるので、製造過程にも特殊な機器は必要ない。このため、製材所などのある山間でも製造工場が作りやすいのもメリットとされる。

その改質リグリンを添加したGFRPは、リグリン素材の特性をしっかりと示しており、3000時間・20年相当の加速劣化評価試験を実施し、通常のエポキシ樹脂を使用したGFRPと比較した結果、同等以上の強度と優れた耐久性が確認できたという。

ただ実用化には、実際の使用環境下でのテストが必要だ。そこで厳しい環境下で使用される自動車で試験を行うことになり、プロジェクトの一員である自動車樹脂部品を製造する「宮城化成」が、同社の樹脂部品を供給している光岡自動車に協力を仰いだというわけだ。ほかの樹脂と比較し製造過程の揮発性有機物の発生が少なく、製造物の収縮率もほぼゼロであるなど、素材としての高いポテンシャルを発揮しており、実用化に向けて期待が膨らむ。価格面でも、製造時に使用される化学物質のコストと見合うことを前提に開発が進められてきたため、高価となる心配は少ないようだ。もちろん、環境負荷も低減でき、物性も優れるなどメリットが多い。

今後1年間をめどに、このビュートを用いた実車搭載試験が行われる。その実用化についてだが、試験に協力する光岡自動車としては、改質リグリンを用いた樹脂製品の採用は「現時点では不明」であり、その判断には、ユーザーメリットに重点を置くとのこと。一方で、製造法の開発に関わる宮城化成は、今後、製造過程や製品についてより厳しい環境規制が求められることが懸念されるため、天然素材から生まれた改質リグリンの実用化は、前向きに考えていく必要があるという見解を示した。

現時点では、まだ実用化に向けて一歩を踏み出したばかりだが、同プロジェクトの目標では、2022年の商品化が掲げられている。資源の乏しい日本において、日本由来の天然素材をもとにした新たな材料の誕生は、大きな未来を感じさせる。自動車部品への活用は使用量も限られ、複合材料となっているため、特別にリサイクル性に優れるわけではない。それでも、試験結果通りに強度や耐久性に優れるのなら、壊れやすい樹脂部品の寿命向上につながる可能性はある。あるいは、「光岡のカスタマイズカーの樹脂部品は、他ブランドのパーツよりも丈夫で長持ち」というときがくるかもしれない。

(文と写真=大音安弘/編集=関 顕也)

改質リグニンを使った内装パネルについて説明を受ける。とはいえ、写真のように表皮を張られるパーツでは、その質感の違いはわからない。
改質リグニンを使った内装パネルについて説明を受ける。とはいえ、写真のように表皮を張られるパーツでは、その質感の違いはわからない。拡大
こちらは改質リグニンを添加した「ミツオカ・ビュート」のボンネット(写真は無塗装のもの)。今後、耐久テストが続けられる。
こちらは改質リグニンを添加した「ミツオカ・ビュート」のボンネット(写真は無塗装のもの)。今後、耐久テストが続けられる。拡大
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