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ジープ・ラングラー アンリミテッド スポーツ(4WD/8AT)

今日も 明日も 日曜日 2018.12.06 試乗記 下野 康史 実に11年ぶりとなるフルモデルチェンジを受けた「ジープ・ラングラー」。エンジンのダウンサイジング化やATの多段化などによって洗練されたのはいいものの、果たして人々が求める“ジープらしさ”は残っているのだろうか。4ドア・2リッターの「アンリミテッド スポーツ」に試乗した。

“革新のカウボーイ”現る

ジープ・ラングラーは第2次大戦で活躍した米軍ジープ直系の子孫である。ラングラーの名で登場したのは1987年。それまでは「CJ」を名乗っていた。オリジナルのMJ(ミリタリー・ジープ)に対するシビリアン(民生用)ジープの頭文字だ。ジーンズでおなじみのラングラーとは、カウボーイのことである。

その元祖ジープが11年ぶりにモデルチェンジした。日本仕様は主力モデルが後発4ドア版の「アンリミテッド」に代わり、2ドアモデルは受注生産になった。ファミリー層も取り込んで、日本のSUV市場に本格参戦しようという意図がみてとれる。

新しい4ドアラングラーのルックスは、これまでと大きく変わってはいない。ラダーフレーム、コイルで吊ったリジッドアクスルという基本構成も受け継がれた。しかし中身は一新されている。

ホイールベースも全長も少し大きくなったが、アルミやマグネシウムなどの軽量素材をボディーに多用したこともあり、車重は70kg軽くなった。3.6リッターV6に加えて、新開発の2リッター4気筒ターボをそろえ、変速機は8段ATにアップデートしている。軽量化とダウンサイジングターボ化。革新のカウボーイと呼びたい。試乗したのは、その“アンリミテッド スポーツ”(494万円)である。

日本では2018年11月23日に発売となった新型「ジープ・ラングラー」。見た目は従来型とほとんど変わっていないが、フロントまわりではウインドスクリーンとグリルを後傾させることで、空力性能が改善されている。
日本では2018年11月23日に発売となった新型「ジープ・ラングラー」。見た目は従来型とほとんど変わっていないが、フロントまわりではウインドスクリーンとグリルを後傾させることで、空力性能が改善されている。拡大
4ドアモデル「アンリミテッド」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4870×1895×1845mmで、ホイールベースは3010mm。従来型と比べると全長が165mm、全幅が15mm、ホイールベースが65mm、それぞれ拡大している(全高は同じ)。
4ドアモデル「アンリミテッド」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4870×1895×1845mmで、ホイールベースは3010mm。従来型と比べると全長が165mm、全幅が15mm、ホイールベースが65mm、それぞれ拡大している(全高は同じ)。拡大
新型ではドアパネルやフェンダー部分にはアルミを、リアゲートの骨格部分にはマグネシウムを採用するなどしてボディーの軽量化を徹底。「アンリミテッド スポーツ」同士で比較すると、70kg軽くなっている。
新型ではドアパネルやフェンダー部分にはアルミを、リアゲートの骨格部分にはマグネシウムを採用するなどしてボディーの軽量化を徹底。「アンリミテッド スポーツ」同士で比較すると、70kg軽くなっている。拡大
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新しさと懐かしさが同居

ラングラーに試乗するのは6年ぶりだ。以前乗ったのは2ドアの「スポーツ」だった。ステップに足をかけて、運転席に乗り込む。アイポイントの高さはSUV随一である。たっぷりしたロードクリアランスのラダーフレーム上にボディーが載っているのだから当然だ。

一見、クローズドボディーに見えるが、実はオープン構造で、4枚のドアとその後ろの上屋を工具で外せば、ロールバーを残した大きなバギーに変身する。外したものの置き場所に困る日本でやる人は少ないだろうが、前席頭上の屋根は簡単に外せる。2分割のハードトップは「ランボルギーニ・アヴェンタドール ロードスター」のカーボントップ(6kg)よりは重いが、旧型ラングラー時代よりは軽くなったし、開閉操作もラクになった。

新しいダッシュボードは機能的で質感も高い。始動/停止はプッシュボタンになった。アイドリングストップ機構も付いた。エンジンをかけると、真正面の液晶ディスプレイに高精細な四駆システムのグラフィックモニターが出る。いまのクルマみたいだ。

とはいえ、フロントガラスの近さとか、ダッシュボードの奥行きのなさとか、ステアリングのボスが短くて、ハンドルを握った指を伸ばせば計器盤に触れるとかいった“昔ながらのつくり”は健在だ。走りだすと思わず笑みがこぼれるような楽しさも相変わらずである。

前席頭上の着脱式ハードトップは、構造の見直しと軽量化により、従来型よりも簡単に取り外せるようになった。左右分割式のパネルは、それぞれ2カ所のレバーを操作するだけで外せる。
前席頭上の着脱式ハードトップは、構造の見直しと軽量化により、従来型よりも簡単に取り外せるようになった。左右分割式のパネルは、それぞれ2カ所のレバーを操作するだけで外せる。拡大
ドアやリア部分の上屋も外して、フルオープン化することも可能。それに備えて、室内にはあらかじめロールバーが組み込まれている。
ドアやリア部分の上屋も外して、フルオープン化することも可能。それに備えて、室内にはあらかじめロールバーが組み込まれている。拡大
ドアやリア部分の上屋を外すときには工具が必要となるのは、従来型と変わらない。そのやり方は、およそ500ページにもおよぶ取扱説明書にこと細かに記載されている。
ドアやリア部分の上屋を外すときには工具が必要となるのは、従来型と変わらない。そのやり方は、およそ500ページにもおよぶ取扱説明書にこと細かに記載されている。拡大
ドアなどの取り外しに必要な工具は、荷室の床下にすべて取りそろえられている。外したボルトなどは、種類ごとに分けて収納できる、専用スペースが用意されている。
ドアなどの取り外しに必要な工具は、荷室の床下にすべて取りそろえられている。外したボルトなどは、種類ごとに分けて収納できる、専用スペースが用意されている。拡大

パワートレインの出来栄えもすばらしい

こんどのモデルチェンジで4ドアラングラーを大きく変えたのは、新しいパワートレインである。4気筒の2リッターターボなんて、ラングラーらしくないと思われるかもしれないが、272psのパワーは3.6リッターV6(284ps)に迫り、400Nmの最大トルクはV6(347Nm)を軽くしのぐ。

軽くなったといっても、「祝! 2t切り」というレベルで、まだ1950kgある。だが、チカラに不満はない。回転フィールはいかにも4気筒らしくシャープだ。ハネウェル製ターボの音も含めて、高回転まで静粛性も高い。FCA(フィアット・クライスラー)のグローバルミディアムエンジンであるこの2リッターターボがラングラーを若返らせたことは間違いない。

メルセデスの5段ATに取って代わったZF製8段ATもいい。高速道路の100km/h時にエンジン回転数を1400rpmまで下げてくれるこのATは、その一方、町なかで無闇に高いギアにシフトアップしない。大まかにいうと、50km/hなら5速まで、60km/hなら6速までという感じだ。そのおかげで、重量級四駆車にありがちな空走感がない。停止間近までスピードが落ちず、結果的にもっと強力なフットブレーキがほしいと感じた旧型ラングラーの欠点が、新型ではすっかりなくなっている。

新しい“セレクトラックフルタイム4×4”も頼もしそうだ。トランスファーレバーのポジションは、通常オンロード用が“2H”と“4H AUTO”。レバーを右手前に引いて“4H”と“4L”があるパートタイム四駆側にすると、前述した四駆グラフィックモニターのトランスファー(副変速機)の上に鍵をかけたマークが出る。今回、オフロード走行は80mくらいしかできなかったが、4Hで舗装路の上を小さくクルッと回ったら、懐かしいタイトコーナーブレーキング現象が味わえた。ハガネの感触を伝えるトランスファーレバーは、かなり重い。プロの道具という感じだ。

インテリアでは、奥行きのないダッシュボードなどに昔ながらの面影を残しているが、各部の質感や視認性などは確実にレベルアップしている。
インテリアでは、奥行きのないダッシュボードなどに昔ながらの面影を残しているが、各部の質感や視認性などは確実にレベルアップしている。拡大
シートの表皮はファブリックが標準。しっかりとしたサイドサポートが頼もしい。
シートの表皮はファブリックが標準。しっかりとしたサイドサポートが頼もしい。拡大
ホイールベースの延長分はすべて後席空間の充実に充てられたとうたわれるとおり、従来型と比べて足元スペースが広々としている。垂直に近かった背もたれの角度も、新型では少し後ろに寝かされている。
ホイールベースの延長分はすべて後席空間の充実に充てられたとうたわれるとおり、従来型と比べて足元スペースが広々としている。垂直に近かった背もたれの角度も、新型では少し後ろに寝かされている。拡大
センターコンソールには、トランスファー(写真左)とシフトセレクターの、2本のレバーが備わる。従来5段だったATは一気に3段増しの8段となっている。
センターコンソールには、トランスファー(写真左)とシフトセレクターの、2本のレバーが備わる。従来5段だったATは一気に3段増しの8段となっている。拡大

2018年のモデルチェンジ大賞!(トップタイ)

2ドアよりホイールベースが50cm以上長いアンリミテッドは、もともと身のこなしが安定していた。新型はさらに路面からのショックの丸めかたがうまくなり、「乗り心地がいい」と言っても差し支えない。

とはいえ、ラダーフレーム+固定軸がもたらす重量感たっぷりの乗り味は、モノコックボディー+独立懸架のクロカン四駆とは違う。ひとことで言うと、古めかしい。でもそれが元祖ジープ、ラングラーの“味”だ。乗ったとたん日曜気分になれるのも、この味のおかげである。

後席の膝まわりはリムジン並みに広い。なのに、シートクッションにコシがないのが残念である。でも、視界はいいし、天井も高いし、内外装のキャラは立っているし、フロントガラスの隅っことかアルミホイールのリムとかヘッドライトの中とかにジープの図案がひょっこりはんみたいに出てくるし、子どもは喜びそうである。

約510kmを走って、燃費は8.8km/リッターだった。6年前に試乗した2ドアの3.6リッターラングラーは、これより車重が90kg軽くても、7km/リッター台だった。

新型パワートレインをはじめとするこんどの改良で、ラングラーはフツーの人が選ぶSUVとして、ますます魅力を高めた。それでいながら、元祖ジープとしての価値を毀損(きそん)していない。新型「ジムニー」と並ぶ2018年モデルチェンジ大賞だと思う。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

4ドアモデルで7.1m→6.2m、2ドアモデルで6.0m→5.3mと、従来型と比べて最小回転半径が大幅に縮小されている。
4ドアモデルで7.1m→6.2m、2ドアモデルで6.0m→5.3mと、従来型と比べて最小回転半径が大幅に縮小されている。拡大
ホイールリムに刻まれたオールドジープのアイコン。同様の図案がフロントウィンドウやヘッドランプユニットの内部にも登場する。
ホイールリムに刻まれたオールドジープのアイコン。同様の図案がフロントウィンドウやヘッドランプユニットの内部にも登場する。拡大
フロントフェンダーの後ろに貼られた「TRAIL RATED 4×4」のバッジ。ジープ車が開発テストを行う、アメリカ・ルビコントレイルを走破できたモデルにのみ与えられる。
フロントフェンダーの後ろに貼られた「TRAIL RATED 4×4」のバッジ。ジープ車が開発テストを行う、アメリカ・ルビコントレイルを走破できたモデルにのみ与えられる。拡大
“ジープらしさ”を失わずに、日常での使い勝手が大きく向上した新型「ラングラー」。「スズキ・ジムニー」とともに、2018年のモデルチェンジ大賞を贈りたい。
“ジープらしさ”を失わずに、日常での使い勝手が大きく向上した新型「ラングラー」。「スズキ・ジムニー」とともに、2018年のモデルチェンジ大賞を贈りたい。拡大

テスト車のデータ

ジープ・ラングラー アンリミテッド スポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1895×1845mm
ホイールベース:3010mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:272ps(200kW)/5250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)245/75R17 112T/(後)245/75R17 112T(ブリヂストン・デューラーA/T RH-S)
燃費:11.5km/リッター(JC08モード)
価格:494万円/テスト車=499万7456円
オプション装備:ETC車載器(1万4256円)/フロアマット(4万3200円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2079km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:513.9km
使用燃料:58.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)

ジープ・ラングラー アンリミテッド スポーツ
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下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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