ジープ・ラングラー アンリミテッド スポーツ(4WD/8AT)
隠れたベストチョイス 2024.08.12 試乗記 アメリカ伝統のクロスカントリーモデル「ジープ・ラングラー」に、エントリーグレードの「スポーツ」が復活! 現行ラインナップで唯一800万円を切る価格はもちろんのこと、このクルマには“走り”の面でも、積極的に選ぶべき理由が隠されていた。久々に復活したエントリーモデル
2024年5月に上陸したラングラーのマイナーチェンジモデル(参照)では、新しくなったフロントグリルデザインが最大のキモとされるが、ある意味でもっと重要なトピックが、4ドアの「アンリミテッド スポーツ」が復活したことだ。
アンリミテッド スポーツ(以下、スポーツ)は、現行ラングラーが2018年秋に日本に導入された際にも用意されていた、4ドアのエントリーモデルだ。上級モデルの「アンリミテッド サハラ」(以下、サハラ)に対して装備が吟味されていたほか、3.6リッターV6エンジンが主力だった当時のラングラーのなかで、唯一の2リッター4気筒直噴ターボ搭載車だった。ただし、そんなスポーツは翌2019年秋にエンジンをV6に変更、そして2021年秋にカタログから落ちていたのだ。
というわけで、約2年半ぶりに復活したスポーツの新価格は799万円。その直前のラングラーはサハラの870万円が最安値だった。ここ数年の価格上昇に歯止めをかけて、あらためて若者層にアピールするのが、スポーツ復活のココロだという。
新しいスポーツも基本的な仕立て手法は以前と変わりない。走行メカにサハラと大きな差はないものの、外観ではフェンダーやハードトップが無塗装のブラックに、内装ではシート表皮がファブリックになっていることはすぐに気づく。タイヤは17インチのオールテレインである。いっぽうのサハラはフェンダーやトップが車体と同色となり、シートは合皮、そして18インチのオールシーズンタイヤを履く。
それにしても、新しいスポーツの価格は直前のサハラと比べれば親しみやすくなったとはいえ、現行ラングラーの発表当時は、同グレードは494万円だったのだ。つまり、ラングラーの価格は約5年半で300万円以上も上昇したことになる。昨今の円安がいかにすさまじい破壊力だったかを、あらためて思い知る。
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入門モデルでも機能・装備は充実
ラングラーの運転席におさまると、相変わらずの直立したダッシュボードと背筋を伸ばして座るドライビングポジションに、軍用車という出自をいまだに実感させられる。
今回のスポーツは記録的円安下であらためて企画開発されたこともあって、「どんだけ装備がハショられてんのよ……」との不安もあったが、それはまったく要らぬ心配だった。12.3インチの新インフォテイメントシステムも、サハラや「アンリミテッド ルビコン」(以下、ルビコン)と同じだし、5年半前は樹脂パネルだったダッシュボードには丁寧に布が張られる。さらにシートヒーターやステアリングヒーターも今回新たに追加されたのは、筆者のような中高年にはとくにありがたい。
まあ、サハラやルビコンのシートがマイナーチェンジで電動調整式になったのに、スポーツだけは手動式のままなので、モデル間の装備格差は逆に明確になったともいえる。もっとも、手動であってもハイトやランバーサポートも調整可能で、その調整幅にも不満はないし、今回のような夏場取材ではムレないファブリック表皮は逆に心地よい。つまり、スポーツの装備になんら不足はない。
外観に目をやると、なんとサイドステップが省略されていることに驚いた。あらためて“800万円切り”への涙ぐましい努力がうかがえる。ただ、カリスマ的トップモデルのルビコンも、「極限的オフロードでは邪魔」という理由でサイドステップは非装備で、フェンダーやトップも同じくブラックになる。というわけで、このスポーツもエントリーモデルであると同時に、サハラよりワイルド系といえなくもない。まあ、日常的に使うには、サイドステップなしの乗降は骨が折れるのも事実だが、そこは純正用品から社外パーツまで、よりどりみどりである。
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普段使いではこれがいちばん快適か
独立ラダーフレーム構造に加えて、前後リジッドアクスル、ステアリングはボール循環式……というラングラーのハードウエアは、今ではほかに「スズキ・ジムニー/ジムニーシエラ」と「トヨタ・ランドクルーザー“70”」くらいしか思い当たらない本格的、かつ古典的なものである。
また、サスペンションや4WDシステムなどの主要な走行メカについては、サハラとは基本的に共通。サハラにある「アンチスピンリアディファレンシャル」だけは非装備となるものの、今回のような“舗装路+乾いたダート路面”程度の試乗では、影響はほぼない。今のラングラーの4WDには電子制御クラッチでオンデマンド制御する「4H AUTO」が追加されているが、基本はパートタイムである。日常的にも使えるとの触れ込みの4H AUTOも、大舵角で前後回転差が増えるとギクシャクするし、どことなくステアリングフィールにも影響するので、4WDが不要なときは、やはり2WDの「2H」にしておいたほうが快適だ。
……といったラングラーなので、ずいぶん洗練されたとはいっても、連続するギャップでの乗り心地や直進性、あるいはステアリングのフィードバックなどには、クセがないわけではない。そんななかにあって、現在もっとも穏やかなタイヤサイズとなるスポーツは、舗装路を含む日常的な快適性や操縦性では、これまで乗ったラングラーのなかでもいちばん自然で心地よかった。
なるほど路面からの衝撃はそれなりにあるが、細かくバラバラに蹴り上げられたときの所作は「リジッドらしからぬ」といいたくなるくらいにフラット感を保つ。ワダチにも乱されにくく、操舵への反応や身のこなしも明らかに軽快だ。これと比較すると、18インチのサハラはよくいえば重厚、悪くいうと少しドタバタする。
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積極的に選ぶ理由がある
舗装されたワインディングロードなどこのクルマにとっては余技にすぎないが、こういう場面でも、じつはラングラーはよく走る。安定した水平姿勢を徹頭徹尾くずさないので、2WDのままなら「ドリフトもかませる?」と思ってしまうほどだ。というのも、独立フレーム構造は重量物が下に集中しているので、見た目よりはるかに重心が低い。しかも、ラングラー本来の姿にはルーフもドアもフェンダーもトランクもないのだ。トップは軽量な樹脂だし、フェンダーを取り去ればオープンホイールにもなる。加えて、現在ではすべてのカタログモデルに搭載される2リッター4気筒直噴ターボは、V6より前軸荷重が小さく、今回の試乗車の前後軸重配分も53:47というバランスのよさなのだ。
高速道路でアダプティブクルーズコントロールを作動させて、メーターに目をやると、前に初代「ウィリス・ジープ」が走っていた(笑)。……と、それはともかく、17インチのスポーツは高速でも軽快で快適だ。直進性もサハラより高い感じがする。
オーディオについては筆者は門外漢だが、ラングラーのそれは高速でも望外に聞こえやすく、音も悪くないと思った。本来はフルオープン形式のラングラーゆえ、スピーカーも運転席周辺だけでダッシュボードの上面と下面、そして運転席の頭上(ルーフ内側のロールケージにマウント)にある。このように、ドライバーの耳に近い位置にスピーカーが集中しているのも効果的なのかもしれない。これらを含めた計9スピーカーのシステムも、上級のサハラやルビコンのそれと同じだという。
加えて、4気筒ターボも静かで、100km/hでは1500rpm弱でゆるゆる回っているだけ。この速度域までなら、四角四面スタイルに似合わず、風切り音もロードノイズも小さい。
文句のつけようがない悪路性能に加えて、日常使いも意外なほど快適なラングラーは、もっとも安価なスポーツでも不満なし。……というか、悪路といってもせいぜい林道や河川敷レベルの筆者が選ぶなら(サイドステップだけは調達する前提で)積極的にスポーツがいい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1895×1845mm
ホイールベース:3010mm
車重:1990kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:272PS(200kW)/5250rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)245/75R17 112S M+S/(後)245/75R17 112S M+S(ネクセン・ローディアンATX)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:799万円/テスト車=804万7200円
オプション装備:フロアマット ベーシック“WEB”(5万7200円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:5593km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:477.8km
使用燃料:58.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.1km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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