第540回:「デリカD:5」の過剰な走行性能が復活の兆し!?
三菱の未来がかかる新たな研究開発設備を見学
2018.12.11
エディターから一言
愛知県岡崎市にある、三菱自動車の開発・生産拠点。総面積100万平方メートルにもおよぶこの“地域”に2018年秋、新たなオフィスビルと環境試験棟の2棟が完成した。三菱の将来を託されたこれらの施設が報道陣向けにお披露目されたので、その様子をリポートする。
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こだわりの吹き抜け
2018年10月1日現在、三菱では全世界で約5500人が働いているそうだが、今後10年間で2~3割の増員を図るという。ご存じの通り三菱は近年、あまり誇れないような話題で身の回りが騒がしく、定常的なクルマの開発をしていない時期もあった。しかし、それではジリ貧になってしまうために人員拡大を決定したそうで、そのための新施設建造である。ちなみに着工は2017年6月だが、日産傘下になって資金的な余裕ができたから建てちゃえということではなく、プラン自体はもっと前から存在していたそうだ。
まずはオフィスビルを見学する。地上8階建てとなるこちらには、約2000人が入居可能なオフィスエリア以外に、1800人を収容可能な大食堂や大きな会議室、屋上庭園といった施設が存在する。宗派を問わずに利用できる祈祷室が用意されているというのも今どき感がある。
多くの人々が働いているオフィスエリアに案内してもらうと、フロアの端から端まで見通せる、柱のない構造がすてきだ。建物の中央は大きな吹き抜けとなっており、筆者が渡辺篤史であったなら「これがこだわりの吹き抜けですね」と、つい言ってしまうだろう。そう、実際、この吹き抜けにはこだわりが詰まっている。もちろん、吹き抜け本来の機能である自然の力による換気もこだわりのひとつなのだが、実はこの吹き抜けには階段が設置されており、上下のフロアへの移動が容易にできるようになっている。三菱の社内調査によれば、社内の誰かと連絡を取りたいと考えたとき、同一フロアであれば9割以上の従業員が対面コミュニケーションを選ぶのだが、同じ建物内であってもフロアが違うだけでその割合が3割程度になってしまうのだそうだ(7割はメールや電話)。このほかにも100人規模で集まれる多目的スペースを用意するなど、とにかくコミュニケーションを重視した構造となっており、いろいろな意味で“風通し”が良くなっている。
三菱初の環境試験棟
このほか、いたるところにデジタルサイネージ(液晶パネル)が設置されているのが目立つ。忘れ物が総務に届いていますよといったほほ笑ましいものがあるかと思えば、ライバル車はここが優れているぞなんていう従業員を鼓舞するような情報も表示されるのが面白い。筆者が見たのはピックアップトラック「トライトン」のライバルになるであろうトヨタ車の情報だった。さらに、三菱が繰り返してきた数々の過ちについても「絶対に忘れるな」という感じで定期的に表示されていて、こうした点について、(今度こそ)絶対に過去のものとしないというか、風化させないというか、とにかくそういう意気込みを感じた。ちなみに、今回は見学できなかったが、建物内にはその名もずばり「過ちに学ぶ研修室」が常設されており、いつでも過去を振り返ることができるのが便利(?)だ。
続いてわれわれが向かったのは、三菱では初めて建設したという環境試験棟である。この施設では、さまざまな気象条件を再現し、開発テストができるのが特徴だ。温度は-45℃から+55℃まで設定できるほか、1時間あたり100mmまでの雨を再現したり、雪を降らせたりもできる。これによって三菱は、耐候性を試験するにあたって雨や雪を待つ必要がなくなり、開発をよりスピーディーに進められるようになった。ただし、雪上でのハンドリング性能試験などは、北海道にあるテストコースでしかできないそうだ。
内部に入ると、ガラス張りのショーケースの中で「エクリプス クロス」とおぼしきSUVが雪に埋もれている。聞けば室内の気温は0℃、クルマにびっしりと付着した雪は氷を細かく砕いてつくったもので、スキー場の人工雪とほぼ同じものだそうだ。フロントマスクに雪が積もってしまうと、適切な場所に冷却風が当たらなくなり、いくら寒くてもオーバーヒートしてしまうことがあるのだとか。こっそり触ってみると、べチャッとした雪だった。
こんなことできるミニバンは他にありません♪
続いては構内にある試験コースを、最新モデルでドライブさせてもらえることになった。といっても自分で運転するのではなく同乗試乗なのだが、クルマは発売前の改良型「デリカD:5」。“グワッ”としたフロントマスクになった話題のクルマだ。ステアリングを握るのはパリダカ優勝ドライバーの増岡 浩氏である。
われわれを乗せたデリカD:5が走るのは耐久試験路と呼ばれるコースだ。道中は何度も補修を重ねたようなでこぼこのアスファルトがあったり、割と大きな石が転がった砂利道があったりと、とにかくタフな道である。ミニバンでここを走るのは正直、ちょっとイヤだった。
ちなみに筆者はデリカD:5に乗るのは初めてである。路面の大きな凹凸が迫るたびに身構えていたのだが、フロアの下からガツンと音がしても自分の体がまったく上下動していないことに気付いた。箱型ミニバンらしい上屋のゆさゆさした動きもまったくないのが印象的だった。砂利道では増岡氏が「こんなことできるミニバンは他にないんですよ~♪」と言いながら、豪快にドリフトを決めてくれる。他のミニバンにできないのは、できなくても困らないからではないかという言葉が頭をよぎったが、その場では黙っておいた。
真っすぐな道ばかりじゃつまんない!
耐久試験路を走り終えると、今度は最大斜度26度にもなる登坂路を上り下りする。数字のみでは伝えづらいが、登り勾配に差し掛かると空しか見えないレベルの斜面である。ここをデリカD:5は、斜面でいったん止まり、ゼロ発進からでも楽々とクリアしてしまうのだった。
実は耐久試験路も26度の登坂路も、エクリプス クロスでも同乗試乗させてもらったのだが、デリカD:5は、ほぼ同レベルで走れたといっても過言ではない。三菱のテストコースなので走れるのは当然といえば当然なのだが、はっきり言ってミニバンとしてはオーバースペックの走行性能だと感じると同時に、この過剰さこそがかつての三菱らしさではなかったか、とも思った。
見学会の冒頭で三菱の技術開発本部長である原 徹氏は、2019年に新型車を2モデル投入することと、既存5モデルをリフレッシュすることを掲げた。また、その開発にあたっては「パティシエコンセプト」という方針のもと、「作品創作力」「よい素材の仕入れ」「旬を生かすスピード」を、すなわち「クルマとしての魅力作り」「魅力ある技術」「世に出すスピード」を重視していくことを示した。岡崎地区では現在、新たな風洞実験設備も建設中であり、環境試験棟と合わせて、パティシエコンセプトの運用に大きく寄与することだろう
「真っすぐな道ばかりじゃつまんない!」とは、エクリプス クロスのラジオコマーシャルの中で使われているフレーズである。三菱がクルマづくりを始めて100年余り、皮肉にも直近の歴史がまさにつづら折りのワインディングロードのようになってしまっているのは皆さんご承知の通りである。「もう二度と……」と言いながらも同じ間違いを繰り返してしまうのが人の常ではあるものの、一方で「艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす)」というようなありがたい言葉もある。三菱はいま、もっとプロダクトに注目が集まってもいい段階にまできていると思う。
(文=藤沢 勝/写真=三菱自動車、webCG/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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