ボルボのセダンはこれからどうなる?
アメリカでの展開について考える
2018.12.14
デイリーコラム
大フォード撤退の一方で
世界の自動車デザインの潮流が、今やセダンからSUVへと移りつつあるというのは、あらためて述べるまでもない事柄である。販売の内訳を精査すると、「SUVの比率が急速に高まりつつある」というのも、昨今ではさまざまなブランドが異口同音に述べているフレーズだ。
実際、2018年春の決算発表の場で、歴史あるスポーツモデルである「マスタング」など一部の例外を除いて、「米国での乗用車販売を打ち切る」と衝撃的な発表を行ったフォードなど、合理化や収益向上を狙ってかなり急進的な動きを見せるブランドも現れている。
ちなみにアメリカでは、いわゆるSUVやミニバンは“ライトトラック”のカテゴリーに属する。“乗用車”といえばセダンやステーションワゴンがその主役で、すでにステーションワゴンのマーケットが消滅して久しい状況のかの地では、すなわち「フォードが北米市場でセダン販売から撤退する」と、かように報じられているわけだ。
一方、セダンの人気は下降線をたどりつつあるといっても、日本市場のような壊滅的な地域と比べればまだまだ大きな市場と表現できるのが、アメリカのセダンマーケットである。「トヨタ・カムリ」と「ホンダ・アコード」という日本発のセダン同士が長年にわたって、アメリカで乗用車のトップシェアをめぐる熾烈(しれつ)な戦いを続けているというのも、多くの人に知られていることである。
そんなカムリやアコード、さらには新型「ホンダ・シビック」というセダンを、少数のユーザーしか存在しない今の日本で選ぶことができるのは結果的に、現在でも多くの数が販売され続けているアメリカのセダンマーケットがあればこそといっても過言ではないはず。とはいえ、そうした中で「ボルボが新型『S60』の生産を、アメリカのサウスカロライナ州チャールストンに完成したばかりの工場で行う」というのは、驚きのニュースだった。
大事な市場で作るに限る
前述のようなセダン受難の状況下にあって、あえて世界でこの工場のみでボルボのセダン「S60」の生産を担当するというのは、当然ボルボにとっても英断であったはずだ。
新しいS60は、現在のボルボ車ラインナップの中にあって唯一ディーゼルエンジンが設定されない。これもまた、かねてディーゼル乗用車がポピュラーではないアメリカ市場を特別に重視していることを示す、ひとつの証左といっていい。ちょっと派手なエクステリアの、システム最高出力400ps超というハイパフォーマンスを売り物とするグレード「ポールスターエンジニアード」をデビュー当初から用意したのも、アメリカ市場に向けてのインパクトを重視してのことと考えれば納得がいく。
ちなみにボルボ自身は、そんな一連の新型S60のマニュファクチャー戦略については「これまでと同様に“地産地消”という考え方に基づいて、生産拠点をアメリカ工場に決定した」と説明している。
だからといって、ボルボがアメリカ国内の工場を“セダン専用”と位置付けているわけではないのは留意すべき点である。実際、現時点でも「次期『XC90』は、2021年からアメリカの工場で生産する」と発表しているし、今や世界最大の中国マーケットが、見栄えの立派な大型のモデルを好む傾向にあることを背景として、さらに大きなフラッグシップセダンである「S90」については、(すでに米中貿易戦争の影響を受け始めてはいるものの)「世界の中で中国の工場が担当する」という決断を下した実績もある。
今回、セダン戦略に関するものとして、「アメリカ国内でパワーユニットまで生産する予定があるか」「S60はアメリカ以外に中国工場でも生産する可能性はあるか」「生産設備としての工場だけでなく、研究・開発の拠点もアメリカに置く可能性はあるか」といった質問もボルボ側にしてみたのだが、それらに対する返事は「回答しかねます」にとどまった。しかしそれも、単なる秘匿なのではなく、何とも流動的な今後の状況を見極める必要があるからのように思えた。
ひと通りの新世代モデルが出そろった今、ボルボの世界戦略は、ことさら慎重な立ち回りが必要とされるアメリカでのセダン戦略を筆頭に、第2のフェーズに差し掛かったということだろう。
(文=河村康彦/写真=ボルボ・カーズ/編集=関 顕也)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。