日産・ルノー問題、法改正、中国市場……
自動車業界の2019年を見通す
2019.01.07
デイリーコラム
アライアンスは当面維持されるだろうが……
2019年の自動車業界はどうなるのか。まず気になるのは日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が有価証券報告書の虚偽記載で逮捕された事件の今後である。最近の報道の内容は、ゴーン氏が会社を利用していかに私腹を肥やしたか、果たして有罪になるかのかどうかに集中しているが、筆者が関心を持っているのはゴーン氏個人の運命ではない。企業としての日産が今後どうなるか、である。
今回の事件のきっかけはゴーン氏の不正かもしれないが、その背景には日産のルノーに対する不満の蓄積があるようだ。ルノーの会計報告書を見ると、ルノーの純利益の約半分は日産の貢献(日産の「持ち分利益」)が占めており、日産がルノーの屋台骨を支える存在になっているにもかかわらず、むしろルノーは日産に対する関与を強めようとしている。「不平等条約」を解消したい日産と、引き続き主導権を握り続けたいルノーの駆け引きが水面下で激化していたのだが、それが今回の事件で水面上に出てきた格好だ。
ただし、直ちに日産とルノーが提携を解消することは考えにくい。両社が享受している、共同購買やプラットフォームの共同開発などによるコスト削減効果は、現在年間7000億円規模に達しており、両社にとってこれを失う影響は大きい。このため短期的には日産・ルノーアライアンスは維持されるだろう。しかし、それ以降は両社の距離は次第に開いていくと筆者は考えている。企業の関係も人間関係と同じだ。相互の信頼と尊敬の念がなければ関係の維持は難しい。そして今回の事件は、そのどちらも決定的に失わせてしまった。
もうひとつ、2019年を占う上で重要なニュースが2018年12月末に発表された。警察庁が道路交通法の改正案を示し、パブリックコメントの募集を始めたことだ。このニュースがどうして注目されるのか。それはこの改正が自動運転の「レベル3」の実用化に道を開くものだからだ。そしてこの改正案の中には、筆者が驚かされる内容が含まれていた。「自動運転中の携帯電話の使用」を認める内容が含まれていたのがそれだ。
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自動運転の実現と電動車の普及を見据えた法改正
独アウディは、2017年秋に発表した新型「A8」にレベル3の自動運転機能を搭載すると発表した。具体的には、高速道路における渋滞時(60km/h以下)の運転操作を自動化したものだ。現在実用化されている「レベル2」と何が違うのか。レベル2の自動運転では、人間のドライバーがシステムの動作状態を監視する義務を負い、万一事故が発生した場合には人間が責任を負う。これに対して、レベル3では人間の監視義務がなく、事故が発生した場合の責任はメーカーが負う点が大きく異なる。
ただしレベル3では、システムが要請した場合には人間が運転を代わる必要があり、クルマに運転を任せている間も、人間はコーヒーを飲んだり、新聞を読んだりすることは許されていない。アウディA8でもレベル3の自動運転中に可能な作業は、車両に搭載されたディスプレイでメールを読むなど、クルマの機能に統合された端末でできるものに限定されていた。人の手が必要な場合には映像を切り替えて、自動運転から手動運転へとスムーズに移行できるようにするためだ。
これに対して、走行中の携帯電話の使用を認めた今回の改正案は、車両に一体化された端末でできる作業に限定していたこれまでの業界の“相場感”を上回る内容だ。これが筆者の驚いた理由である。改正された道路交通法は2019年中に施行されると見られている。そうなれば、限定された走行条件ではあるが、運転をクルマに任せる真の意味での自動運転が実現することになる。
もうひとつ、気になる法改正の動きが、自動車税を現在の排気量別から走行距離に応じた課税へと抜本的に変更することが検討されていることだ。今後普及が見込まれる電気自動車(EV)にはそもそも「排気量」という概念がないこと、カーシェアリングの普及などで“所有”から“利用”への移行が見込まれることが背景にある。
ただ、理念は理解できるものの、単純な走行距離課税は多くの弊害を生みそうだ。現在は都市部よりも地方のほうが自動車の走行距離が長い。このため距離課税は地方への増税という側面を持つと考えられ、ますます地方経済を疲弊させかねない。タクシーや物流といった、現在でも人手不足による人件費高騰に悩む業界にも、さらに増税という重荷が課せられる。こうした観点から、筆者個人は走行距離ではなく、1km走行あたりのCO2排出量に応じた課税のほうが好ましいと考えている。ただし、車両段階でのCO2排出量で税金を決めるとEVはゼロということになってしまう。税率は単純に車両からの排出量だけでなく、燃料採掘や発電の段階でのCO2排出量も考慮することが必要になるだろう。
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競争の激化が予想される中国市場
最後に取り上げたいのは、2018年に28年ぶりのマイナス成長となる見込みの中国自動車市場の行方である。この原因について、2018年12月27日付の日本経済新聞は、ガソリン車のナンバープレート規制の拡大や不動産価格の下落、2017年末の小型車減税の駆け込み需要の反動などを挙げている。しかし、ここで触れられていない大きな要因として、米中貿易戦争の影響で中国から米国への輸出が減少し、中国経済が急速に減速していることを付け加えたい。中国の公式な2018年の経済成長率は6.6%とされているが、実際には1.67%にすぎないという報道もある。原因が米中貿易摩擦にあるとすれば、中国自動車市場の成長鈍化も長引くと考えざるを得ない。2019年の中国自動車市場も、これまでのような高成長は見込めないだろう。
こうした中で注目されるのは、ここ数年で急成長した「新エネルギー車(NEV)」の動向である。新エネルギー車とはEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)といった環境性能に優れた車両のことで、中国では補助金やナンバープレートの優先的な交付などによって普及が後押しされてきた。この結果、2017年のNEVの販売台数は2016年比で53.3%増の77万7000台に達し、2018年も11月末までで100万台以上に達するなど、市場全体が停滞する中で依然として高い伸びを示している。
しかし、普及のための補助金は2015~2016年に1兆7000億円に達したといわれており、補助金頼みの普及は限界に達している。そこで中国は2020年末で補助金政策を終了させる方針で、2021年以降、メーカー各社は補助金なしでNEVを普及させる必要に迫られる。これに先立ち、2019年からはメーカー各社に全販売台数に対する一定比率のNEVの販売が義務付けられる(2019年は10%、2020年は12%)。
これまで、NEVの購入補助金は中国ローカルメーカーだけに支給されており、このため現在のNEV市場は中国ローカルメーカーのEVやPHEVで占められている。しかし補助金政策が打ち切られれば内外の完成車メーカーが同じ条件の下で競争するようになり、相対的に技術力で劣る中国のローカルメーカーが窮地に立たされる可能性もある。2019年は、市場が伸び悩む中でNEVの義務化が始まる厳しい年になることが予想される。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=アウディ、本田技研工業、ルノー/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。