「ホンダN-BOX」追撃の切り札となるか?
「スズキ・スペーシア ギア」の可能性を占う
2019.01.14
デイリーコラム
標準車とも「カスタム」とも違う、新しい提案
昨年(2018年)末の12月20日、スズキは「スペーシア」シリーズの新モデル「スペーシア ギア」を発売したが、これに関する『webCG』の記事が驚くほど多くのアクセスを集め、取材を担当したほった青年が編集部でウハウハしているという。
webCGは基本的に“クルマ好き”からのアクセスが多いわけで、つまりスペーシア ギアは、クルマ好きの心に刺さる素養を持っているということになる。その素養とは、ズバリ「機能的でアクティブな雰囲気(デザイン)」だ。あるいは「所帯じみてない雰囲気」か。スペーシアや「スペーシア カスタム」とスペーシア ギアとの違いは、基本的にデザインだけ。写真をパッと見て、多くのクルマ好きが「これ、いいかも」と興味を持ったのだろう。
スペーシアや「ホンダN-BOX」などの軽トールワゴンが、国内販売の上位を占める超売れ筋であることはいまさら言うまでもないが、クルマ好きの心に刺さっているかと問われれば、やや微妙だ。N-BOXのノーマルグレードは機能的な箱型ゆえに、クルマ好きが「ふだんの足にいいかも」と考える可能性は割合高いと推測されるが、先代N-BOXの機能美からは後退している。ライバルであるスペーシアや「ダイハツ・タント」のデザインは、N-BOXに比べると明らかに生活感が強く、ちょっと敬遠したくなる。この生活感こそ、N-BOXの独走を許す最大の要因ではないでしょうか? わかりませんが。
さらに、いわゆる「カスタム」グレードは、メッキを多用した威圧感のあるオラオラフェイスが定番で、これはエンスージアスティックなクルマ好きが最も嫌うタイプに属する。「アルファード」などに対するクルマ好きの罵詈(ばり)雑言、本当にすさまじいです……。
ところがスペーシア ギアは、生活感もオラオラ感も薄い。しかしシンプルな機能美かというとそうではなく、「ハスラー」などのライトクロカン的なアクティブ感をさらに大盛りにした感じだが、それがスペーシア本来の生活感を覆い隠していて、「男のギア」っぽく、カッコよく仕上がっている。
このデザインなら女性にもウケるのでは?
スペーシア ギアを見て私がまず連想したのは、かつての「ダイハツ・ネイキッド」だ。ネイキッドは、ドアヒンジをあえて外側に出すなどの軍用車っぽい演出で、クルマ好きの支持を集めた。私も「これ、いいな~」とかなり引かれたものです。あるいは、日産の「ラシーン」。あれも方向性はネイキッドに近く、シンプルな道具感がクルマ好きの心を奪った。価格が割高だったこともあり、ネイキッドもラシーンも一般ユーザーの支持はサッパリ得られず、販売不振で一代限りで消えたが、中古車は現在でも高い人気を集めている。
だったらスペーシア ギアも、ネイキッドやラシーン同様、クルマ好きの支持は集めるものの販売不振で消滅する……というパターンかと思いきや、そうはならないだろう。スペーシア ギアは、なにしろ中身は基本的にスペーシア。そして価格はスペーシア カスタムと同レベル(ノーマルの25万円高)だ。ネイキッドやラシーンは成り立ちからしてやや特殊だったが、スペーシア ギアは見た目がアクティブなだけで、使い勝手は一切犠牲になっていないし、価格は、見た目の盛り盛り感からするとかえって割安だ。
このアクティブ感の大盛り、男性受けは間違いないが、販売のカギを握る女性にも受け入れられるんじゃないだろうか。多くの女性は、実際には“きゃわゆい女性向け仕様車”をそれほど好んでおらず、逆に激しく嫌う人も少なくない。女性が最も好むのは、性別を問わないユニセックスカーだ(たぶん)。スペーシア ギアは、女性にとってはやや男性寄り過ぎるかもしれないが、おそらくは許容範囲ではなかろうか?
……これは、ひょっとしたらスズキは、ホンダもダイハツもまだ持っていない、新しい武器を手に入れたのでは? スペーシアのN-BOX追撃態勢は整った! 販売台数逆転……まではムリでも、今後は差を詰めるかもしれない。
(文=清水草一/写真=スズキ、ダイハツ、本田技研工業、webCG)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。