グローバルで躍進を続ける
ボルボデザインの次なる挑戦【後編】
2019.02.06
デイリーコラム
3台のコンセプトカーが表現したもの
「スカンジナビアデザインとは、機能的でシンプル、安らぎと温かみを持つ……といったイメージや表現手法、製品の造形を指すだけではなく、ライフスタイルそのものと密接な関係がある」と語ったボルボ・カーズのデザイン部門上級副社長、ロビン・ペイジ氏。
2013年9月に発表した「ボルボ・コンセプト クーペ」、続く2014年1月の「ボルボ・コンセプトXCクーペ」、そして2014年3月の「ボルボ・コンセプト エステート」は、ボルボの新世代を示すデザインキューであると当時に、ペイジ氏はボルボが考えるスカンジナビアデザインの具現でもあったと言う。
「スカンジナビアデザインに関して、より分かりやすく3つのキーワードを挙げたいと思います。最初はオーソリティー、2つ目はアクティビティー、そして最後がクリエイティビティーです。これらは一つひとつがそれぞれ3台のコンセプトカーにも表現されています。しかし、その中でも特にオーソリティーを表現したのが、コンセプトクーペになります」
この場合のオーソリティーとは、“よりどころ”を意味するものと考えてもよさそうだ。新世代ボルボのデザインプレビューで、コンセプト クーペがすべての根幹をなすトップバッターとなったのも、そうした理由があったからに違いない。
「続くコンセプトXCクーペは、アクティビティーを表現しました。さまざまなアウトドアギアを収納できるスペースを備えています。3つ目はクリエイティビティーをテーマにコンセプト エステートを提案し、こちらはインテリアのデザインや素材でスカンジナビアデザインらしさを主張しています」
従来からある素材でも新たな組み合わせに挑戦したり、これまでクルマに使用されていなかった材質やデザインに取り組んだりすることも、3つ目のクリエイティビティーに含まれていると考えられる。3台のコンセプトカーは、巧みにテーマと表現を変え、スカンジナビアデザインの具体例を示していたのだ。
自動運転を見据え開発されたEVデザイン
そう聞いてあらためて、ボルボスタジオ青山に展示されていた「V90」や「XC40」のインテリアを見てみると、機能を損なわないデザインであることが理解できる。無理なく操作できるスイッチやメーターの配置と形状、そして自然由来の素材を感じさせてくれる質感やデザインも、まさにスカンジナビアテイストだ。
木や革、ウールなどの、温かみを感じさせる天然素材を用いる反面、時にスカンジナビアデザインは挑戦的でもある。それはボルボの内装に用いられるテクスチャーやそれらの組み合わせにも表れている。
これまでにないものを高い品質で作り上げる情熱を持つ土壌は、例えば高級オーディオの世界に北欧ブランドが多いことや、世界屈指の人気音楽プロデューサーだった故アヴィーチーのエッジの効いたDJリミックスなどからも理解できる。天然素材のぬくもりに頼るだけでなく、創造力豊かで斬新なのも、スカンジナビアデザインが持つ一面だ。ちなみにアヴィーチーの作品『Feeling Good』は、「ボルボXC90」のプロモーションビデオにも使用されているので、ご存じの方も多いことだろう。
スカンジナビアデザインを体現した市販ラインナップが新世代に無事移行した今、ボルボが次に描く未来のクルマは、いったいどんなものなのだろうか。
その答えのひとつが、ロビン・ペイジ氏が率いるデザインチームが中心となって開発された、「360c」と呼ばれるボルボ最新のコンセプトカーだ。スタイリングからも分かるように、これはコンセプトカー3部作のような、わずか数年後の市販を狙った車両のプレビューではない。
来るべき自動運転を見据えて開発された、EVのデザインである。その未来で考えられるのは、個人所有に加えてカーシェアリングやリースという利用形態だ。
所有にこだわらないこうした新しい利用形態は、現在もじわじわと拡大中だが、自動運転が実用化されるような社会が当たり前になった時には、通勤や旅行などの移動の仕方や、都市の設計、建造物の配置、駐車場のあり方にも大きな変化がもたらされるとボルボは考えている。
自動運転でなくなるものと得られるもの
360cの斬新なフォルムには、ボルボテイストが薄いように感じるが、デザインの狙いはどこにあるのか? ペイジ氏は言う。
「確かに分かりやすいグリルや、ボルボというクルマで想像しやすいボクシーなフォルムは360cにありません。しかしトールハンマーを進化させたヘッドライトデザインやボディーサイドのクリーンでシンプルな造形は、ボルボらしさを表現しています。自動運転がカーモビリティーの中心になれば、現在プレミアムカーに求められているであろう“ステイタス性”や“ダイナミズム”といった、クルマのキャラクターを明確化する要素は薄まると考えられます。ただし、所有したいという層は一定数残ると思いますので、その所有欲を満足させる品質やデザイン性などは変わらず重要になるでしょう」
360cでは、環境負荷のない安全な移動手段を表現しているという。運転が完全に自動化されたEVでは、運転の労力から解放し、移動中クルマの中で何をしようとも自由だ。自動運転だけが通行可能な専用レーンの走行中は、その時間を仕事に充ててもいいしパーティールームの代わりにしてもいい。夜間に出発し、移動中に睡眠をとり、翌朝目的地に着くや否や、仕事やバカンスを始めてもいい。好きな時に、望みの場所まで移動できる自由が生まれる。わざわざ空港まで行き、飛行機の遅れや荷物検査の列に悩まされることもなくなるだろう。
「もうひとつ、完全自動運転のクルマでは、多くのセンサーが自動運転のために装備されますが、そのセンサー類をクルマのデザインを保ちながらどう一体化させるのかも、重要な課題です。レベル4やレベル5という段階ごとに車両デザインを分けるのではなく、機能と安全を確保しながら、新たな自動運転車両のデザインを提案したのが360cなのです」
個人所有からカーシェアリング、あるいはレンタルへと、クルマの所有方法や使われ方などクルマそのもののポジションが大きな変革期を迎えようとしている今、ボルボはデザイン面からも未来のクルマにチャレンジしているのである。
(文=櫻井健一/写真=ボルボ・カー・ジャパン/編集=櫻井健一)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する! 2026.1.19 アメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。
-
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る 2026.1.16 英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。
-
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する 2026.1.15 日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。
-
30年の取材歴で初めてのケースも 2025年の旧車イベントで出会った激レア車 2026.1.14 基本的に旧車イベントに展示されるのは希少なクルマばかりだが、取材を続けていると時折「これは!」という個体に遭遇する。30年超の取材歴を誇る沼田 亨が、2025年の後半に出会った特別なモデルを紹介する。
-
東京オートサロンでの新しい試み マツダのパーツメーカー見学ツアーに参加して 2026.1.13 マツダが「東京オートサロン2026」でFIJITSUBO、RAYS、Bremboの各ブースをめぐるコラボレーションツアーを開催。カスタムの間口を広める挑戦は、参加者にどう受け止められたのか? カスタムカー/チューニングカーの祭典で見つけた、新しい試みに密着した。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。




































