絶えては復活の40年
「ヤマハSR」に見るご長寿バイクの環境問題
2019.02.08
デイリーコラム
変わらぬ“儀式”に感激
「ヤマハSR400」のシートにまたがって、ボディー右サイドにあるキックペダルを引き出す。クラッチレバーの下にあるデコンプレバーを軽く握りながらキックペダルを動かして、「スゥゥッ」とレバーが軽くなったら準備OK。キーがONに、ギアがニュートラルに入っていることを確認して、キックペダルを踏み抜く。と、ト、ト、トトトトト……と単気筒エンジンが目を覚ます。
「いまどきキックでエンジンをかけるバイクも珍しいよなァ」とおかしく思いながらも、そんなSR400が現行モデルとして販売されていることがうれしい。ボディーカラーには「ヤマハブラック」と「グレーイッシュブルーメタリック」の2種類が用意され、いずれも57万2400円のプライスタグが付く。
ヤマハSR400は、いまさら説明する必要もないとは思うが、1978年から続く、同社を代表する一台。399ccの空冷単気筒エンジンを積む。70年代に、ダートトラックやラリーレイドで活躍した「ヤマハXT500」からの流れをくむパワーユニットで、最近では新しい排ガス規制が施行されるたび生産中止の瀬戸際に……というか、実際に販売を中断しながらも、毎回、熱烈なSRファンのラブコールとエンジニアの方々の頑張りによってカムバックを果たしてきた。
四輪車の排ガスが1960年代から問題視されてきたのに比べ、バイクと排ガス規制の歴史は意外と新しい。最初に施行されたのが1998年。この規制を機に、「ホンダNSR250R」や「ヤマハTZR250」といった2ストロークマシンが姿を消した。
執念すら感じる改良策
続いての大波が、2006年。CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)といった有害物質の排出量が厳しく制限されたうえ、測定時に暖気が許されないテスト方法に変更された。そのため、温度や燃焼状態の管理が難しい空冷エンジン搭載車や、燃費が厳しい(=有害物質の排出量を抑えにくい)マルチシリンダー(多気筒)モデルが、2年間の猶予期間を経て淘汰(とうた)されていった。一時代を築いた「カワサキ・ゼファー/ゼファーχ(カイ)」も、その一群に含まれる。
空冷単気筒のSRも2008年に販売を(一時)終了するが、翌2009年の末に復活! 空冷シングルの燃料供給デバイスをキャブレターからフューエルインジェクションに変更。新しいマフラーに触媒とO2センサーを組み込んで排ガスのクリーン化を果たす。
……といった機関面の改良もさることながら、SR400の姿が、(素人目には)まったく変わらなかったことに、拍手! 燃料を高圧で噴射するためのフューエルポンプは、電装系の配線を見直してまで、人目につかないよう左サイドカバーの裏に押し込まれた。
そして直近の復活劇(!?)が、2017年の生産終了と翌2018年9月の販売再開。2017年にいわゆる「EURO4」(二輪車平成28年排ガス規制)が施行され、先に挙げた有害物質の許容値が、従来の半分ほどに。さらにOBDこと自己診断装置(断線検知等)の搭載や、気化したガソリンの回収が義務付けられた。
一時的にカタログ落ちしたSR400は、これまで以上に精緻に燃料噴射を制御するため、新しいECUを採用。O2フィードバック機能を強化し、また、チャコールキャニスターを追加して気化したガソリンの大気放出を極力抑えている。
これぞニッポンのオートバイ
外観を変えないための努力は今回も続けられ、大きくなったECUは、シートの裏側を削ることでシートの下に“隠した”。どうしても外につる必要があったキャニスターは、形状やパイプの取り回しを工夫して黒いフレームに溶け込ませ、涙ぐましいほど目立たないようにしている。
やはりヤマハSR400の、丸目ヘッドランプとシンプルにして端正なスタイリングは、多くのニッポン人に「これぞバイク!」と感じさせますからね。「姿を変えまい」とする開発者の方々の努力には、頭が下がる思いです。ちなみに、空冷単気筒の美しい冷却フィンの一部に緩衝材が挟み込まれているのは、もうひとつの規制たる騒音規制に対応するためなのだとか。
SR400が魅力的なのは、クラシカルな外観からは意外なほど、ライディングが楽で実用的なこと。足つきはいいし、重心が低くて安定しているうえ、低回転域でのトルクが厚いので、街中でトコトコ走るのに不満がない。Uターンが容易なのも、ポイントが高い。
それでいて、いざその気になってエンジンを回すと、にわかにアグレッシブなスポーツバイクに一変するところがいい。空冷シングルは4000rpmくらいから振動がどんどん大きくなっていくけれど、容赦しないでガンガン回す。SR400は、エンジンビートを響かせながら元気よく駆け抜けていく。バイク好きには、たまらない感覚ですね。こんな二面性も、SRファンの心をつかんで離さない要素に違いない。
ヤマハのラインナップに復帰したSR400だが、一難去ってまた一難。EURO4があれば、EURO5もあるわけで、新しい基準が適用されるのは、2020年から。結構すぐですね! SR400の今後はどうなるのか? むやみに心配しても仕方ないので、いまは空冷シングルを堪能したいと思います。
(文と写真=青木禎之/編集=関 顕也)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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