「2.0」から「40」「50」へ
アウディのモデル名に付された数字を読み解く
2019.02.20
デイリーコラム
排気量隠しを進めるアウディ
2019年2月19日、ついにというか、やっとというか、待ちに待ったクリーンディーゼル車がアウディ ジャパンから発売になった。アウディが日本市場にクリーンディーゼルを導入するという話は10年以上前からあって、2008年にカナダで開催された国際試乗会に参加したのがいまでも懐かしい。
その後、紆余(うよ)曲折を経て、日本での発売にいたるわけだが、記念すべき第1号の「アウディQ5 40 TDIクワトロ スポーツ」をひとあし先に試した印象は期待以上で、今後、Q5の販売はこのTDIが中心になるに違いないと確信する仕上がりだった。
2019年は販売台数を増加に転じさせたいアウディ ジャパンにとってTDIの導入はいい材料になりそうだが、そんなアウディで最近気になっていることがある。2018年途中から、五月雨式にモデル名が変わっていることだ。例えばQ5の場合、2017年の導入当初は2リッター直列4気筒直噴ガソリンターボ(2.0 TFSI)を搭載するグレードは「Q5 2.0 TFSIクワトロ」だった。ところが現在は「Q5 45 TFSIクワトロ」に変わっている。排気量が謎の2桁の数字に置き換えられているのだ。TDIを搭載するグレードも、導入時期が早ければ「Q5 2.0 TDIクワトロ」だったはずだ。他にも、Qファミリーの末っ子は「Q2 30 TFSI」に変わっているし、フラッグシップサルーンは「A8 L 60 TFSIクワトロ」を名乗るなど“排気量隠し”が進むアウディなのである。
排気量と数字の逆転現象も
しかし、モデル名から排気量がわかりにくくなったのは、いまに始まったことではない。例えば「BMW 3シリーズ」の場合、モデル名の下2桁は排気量を示していると思われがちだが、先々代のE90型では3リッター直列6気筒ターボ搭載モデルを「335i」と呼んでいた。また、先代のF30型では1.5リッター直列3気筒ターボモデルを「318i」と呼び、2リッター直列4気筒ターボモデルをパワーの違いで「320i」と「328i」と呼び分けていた。
「メルセデス・ベンツCクラス」も、現行のW205型から名前と排気量が一致しなくなった。最新版では、1.6リッター直列4気筒ターボモデルが「C180」で、より排気量が小さい1.5リッター直列4気筒ターボが「C200」と逆転現象が起きている。ただ、これには理由があって、1.6リッターターボの最高出力が156psであるのに対し、1.5リッターターボは同184psで、さらにC200にはマイルドハイブリッドシステムが搭載されるため、パフォーマンスはC180を明らかに上回っている。
このように、ダウンサイジングターボやモーターアシストを採用するようになり、排気量の大きさだけではパフォーマンスがわかりにくくなったことから、数字を“水増し”して実力にあった名前にしようとしたBMWとメルセデス・ベンツ。これに対してアウディは、よりシステマチックなネーミング法を取り入れた。パワートレインの出力に応じて25から70まで5刻みの数字を当てはめたのだ。具体的には以下のようになる。
- 25:80kW以下
- 30:81kW〜91kW
- 35:110kW〜120kW
- 40:125kW〜150kW
- 45:169kW〜185kW
- 50:210kW〜230kW
- 55:245kW〜275kW
- 60:320kW〜340kW
- 70:400kW以上
数字の割り振りが等間隔でないことや、該当する出力がなく「160kWの場合はどうするんだ?」といった疑問は残るが、こうすることで、同じ2リッターエンジンでも、ガソリンのQ5 45 TFSIのほうが、ディーゼルのQ5 40 TDIよりも出力が大きいことはすぐにわかるし、プラグインハイブリッド車や排気量という概念がない電気自動車の「e-tron」でも、同じネーミングルールが使えるというメリットがある。
その一方で、2桁の数字を見ただけではどんなエンジンを搭載しているか直感的にわからなくなってしまったのは困りもので、BMWやメルセデスを含め、「個人的には昔ながらの名前がよかったなぁ」と思う、いち業界関係者の私である。
(文=生方 聡/写真=アウディ ジャパン/編集=藤沢 勝)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。