歴代のV8モデルをオマージュ!
「フェラーリF8トリブート」を読み解く
2019.03.20
デイリーコラム
「ディーノ308GT4」に始まるV8モデルの歴史
フェラーリは今年、ジュネーブモーターショーで「F8トリブート」を初公開したが、そのモデル名に称賛や感謝、賛辞などの意味を持つ“Tributo”を冠し、「デザインの端々に歴代のV8フェラーリへのオマージュが込められている」と明かしたことに関心を抱かれた方も少なくないだろう。
F8トリブートのスタイリングを見ると、確かに「488GTB」まで継承されてきたテイストを刷新した印象を受ける。最も顕著なのが、F1由来の空力デバイスの進化系という「S-Duct」を用いたことと、リアエンドにブロウンスポイラーを備え、さらなる空力改善を図ったことだ。さらに、これまでの3桁の数字を連ねた伝統的なネーミングスタイルから脱し、“F8”と“フェラーリの8気筒”を意味するものに変わった。これらによって、すべてが一新された印象を与えている。
だが、その一方で、4灯式の丸形テールランプを復活させるなど、「歴代モデルをオマージュ……」などとうたったことにはどのような意味が込められているのだろうか。V8ミドエンジンフェラーリの歩みをたどりながら、“オマージュ”の源を探ってみたいと思う。
現在のV8エンジン搭載ロードカーの祖は、今から46年前の1973年に登場した「ディーノ308GT4」だ。それまでV8エンジンを用いていたのはレース用モデル(F1とスポーツカー)に限られ、1947年の創業以来、ロードカーにはV12を貫いてきた。唯一の例外がフィアットと共有したV6をミドに搭載した“ディーノ”シリーズだけで、この時期にはフェラーリの名を冠することができるのはV12だけであり、それが主流との位置付けであった。
ディーノ308GT4はミドシップレイアウトながら、エンジンの横置き搭載によって2+2とした、新しい試みのモデルだった。1975年にはその派生型として、待望の2座席モデルである「フェラーリ308GTB」が投入された。すなわち、創業から26年目にして、初めてフェラーリ名を冠した8気筒車が登場したことになる。ディーノ308GT4のデビューから数えれば、2019年でV8の歴史は46年におよび、かつては異端だった8気筒エンジンは、今や(だいぶ前からだが)、フェラーリの屋台骨を支えるパワーソースになった。
新興勢力にはない“財産”
V8ミドエンジンモデルの進化の過程には、いくつかの技術的マイルストーンが存在している。特に顕著なものは、エンジンを横置きから縦置きに改めたこと(「348」以降)と、限定版の超高性能モデルを派生したこと(「288GTO」と「F40」)、そして、環境に配慮してダウンサイジングエンジンとターボチャージャーを備えたこと(「488」シリーズ)、これらの3点だろう。中でもフェラーリV8がV12の脇に控える存在ではなく、限りない可能性を秘めている事実を強烈にアピールしたのがF40だ。
1987年に登場したF40は、さながらグループCカーを公道用に仕立て上げたかのような、強烈極まりない“マシン”であり、2.9リッターツインターボエンジンは、478psと577Nmという、当時としては圧倒的なパワーを誇った。このF40の存在が、それ以降のV8モデルのスポーツパフォーマンスの向上に大きく影響を与えることになったのは紛れもない事実だ。1994年に登場した「F355」は、フェラーリの牙城を脅かすように誕生したライバルを一蹴するパワーとハンドリングを高い次元で融合した秀作であり、これが現代のV8ミドエンジンモデルの魅力である鋭敏なスポーティーマインドの源流といっても過言ではない。
約半世紀にわたって連綿と続いたV8ミドエンジン2座モデルは、すでに機構的にはほぼ完成の域に達していると考えてもよさそうだ。基本的には毎年、改良を加えることで、その地位を確固たるものとしていて、新型は確実に前のモデルより進化し、パワフルに、かつスタイリッシュになっている。だが、これは私見だが、マクラーレンに代表される新興勢力に対して、老舗としてはなんらかの性能面だけでないアピールが必要と考え、F8トリブートでは、歴史を盛り込んだのではなかろうか。
F8トリブートは、F40のそれをモチーフとしたというレキサン製のルーバーを備えたリアウィンドウを備えている。720psを発生する3.9リッターV8ツインターボエンジンの膨大な廃熱を効率よく発散し、さらにボディーリアセクションの空力特性を向上させようと意図した結果のメカニズムだが、それを臆面もなく偉大なアイコンであるF40に結びつけてしまったところが、いかにも伝統と革新を積み重ねてきたフェラーリらしい、心憎いアピールではあるまいか。
(文=伊東和彦<Mobi-curators Labo.>/写真=フェラーリ/編集=藤沢 勝)

伊東 和彦
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。