第128回:イタリアの秘宝破れたり!?
2019.03.19
カーマニア人間国宝への道
フェラーリエンジンはイタリアの秘宝
「ランボルギーニ・ウルス」の走りは、背の高いスーパーカーそのもの! しかも走りの快感のキモは、アウディのV8ターボだった!
いや正確には「アウディの」ではなく、「アウディのエンジンをベースにランボルギーニがチューンしたV8ターボ」なのでしょうが、そのウルトラパワフルなフィーリングやウルトラ重低音の迫力、超絶鋭い吹け上がり、その他モロモロのすべてが猛烈に気持ちよかった……。
ひょっとして、このエンジンをフェラーリに積んだらどうなんだ! 今のフェラーリV8ターボより、絶対こっちのほうが気持ちいいような気がして仕方がないのでありますがぁぁぁぁぁ!
いや、ひょっとしたらそうでもないのかもしれない。やっぱフェラーリはエンジンが命。フェラーリエンジンはイタリアの秘宝。問答無用にこの世の頂点の快楽を期待する。よってその期待が少しでも満たされないと即落胆。大乗フェラーリ教開祖として、この世の終末のような最大級の失望に襲われてしまう。
だから私は、「カリフォルニアT」や「488GTB」、「ポルトフィーノ」のフェラーリV8ターボに、この世の終末を見てしまったのだ。それは期待がデカすぎるがゆえで、488GTBにウルスのV8ターボをブチ込めば「うおおおお、イタリアの秘宝破れたり!」となるかといえば、そうではないのかもしれない。
フェラーリは快楽製造装置
現在のフェラーリV8ターボも、性能はしっかり出ている。それは間違いないであります。かつて我が「458イタリア」と488GTBとで加速対決を行ったところ、ウルトラ大差でチギられました。
488はあんまり速く感じないのにウルトラ超絶速い! 衝撃でした。「488ピスタ」には乗っておりませんが、ウルトラ大差が超ウルトラ大差になるだけで、大きな違いはないと思うであります。
しかしフェラーリは速さじゃない! 快楽だ! 内燃機関の形を借りた快楽製造装置なのだ! ところがフェラーリV8はターボ化によって、性能と引き換えに快楽が激減した! そんなの意味ないじゃん!
大乗フェラーリ教開祖は、現在そのような深い悩みを抱えておりまして、フェラーリにウルスのエンジン積んだらどうなのか、それを真剣に考えてしまったりするのです。
そんな深刻かつまったくどうでもいいことに悩んでいたところに、ビッグニュースが飛び込んできました。
「『フェラーリF8トリブート』発表!」
えっ、488GTBに対するココロの整理もついてないのに、それがもうモデルチェンジしちゃったのぉ!?
思わず、488が出たのっていつだっけ、と検索してしまいましたよ。2015年1月の発表だったんですね。でも、自分が初めて488に試乗したのは、同じ年の11月。それから3年ちょいしかたってないやんけ! その後488を自分の458とプチ対決させてウルトラちぎられたのは2016年6月。まだ3年もたってないやんか!
ターボではドイツ勢にかなわない!?
トヨタですら近年はモデルチェンジサイクルが長期化していて、「エスティマ」なんざ13年以上フルチェンジがないまま販売されておるっつーのに、フェラーリが2年ちょっと(私感)でモデルチェンジってどうなのよ!
しかしF8トリブートの写真をよく見ると、これはマイナーチェンジではなかろうか……。
フェラーリV8は、「308」と「328」、「348」と「F355」、「360モデナ」と「430」、458と488という具合にフルチェンジとビッグマイナーチェンジを繰り返して参りましたが、今回はビッグマイナーがもう1回加わったようです。
考えてみりゃ「BB」や「テスタロッサ」は2回ビッグマイナーを受けたので、こういうパターンがあってもおかしくは御座いませんね。
でもって、写真を見る限り、見た目は488より全体のバランスが取れ、カッコよくなったようで御座います(私見)。リアガラスのスリットは「F40」へのオマージュとのことで、そんなこと言われちゃうと中高年のココロに刺さっちゃう。アグネス・ラム、アゲイン! みたいな。
んでもってエンジンは、相変わらずの3.9リッターV8ツインターボで、488から50psアップの720psとのことで御座います。ウルスの650psより70psも上なので御座いますね。
しかし、快感を比較したらどうなんだ。私は、少なくとも488やポルトフィーノのV8ターボより、ウルスのソレのほうがはるかに快感はデカかったように思うのです。F8トリブートのソレがどんなもんなのか五里霧中ですが、ターボを気持ちよくさく裂させるノウハウに関しては、ドイツ勢のほうがはるかに熟練しているような気がしてしまっておりまする。それが我が脳内における現状なので御座います。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。