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電気だけがホントに正解なのか?
今日におけるEVムーブメントの問題点

2019.04.08 デイリーコラム 河村 康彦

さまざまな課題を先送りにして進むEVの普及

「メルセデス・ベンツEQC」に「アウディe-tron」「ジャガーIペース」「ポルシェ・タイカン」と、このところ量販ピュアEV(=電気自動車)登場のニュースが喧(かまびす)しい。この動きは、よりコンパクトで安価なモデルを軸足とするブランドへと拡大しながら、この先も加速していくこと間違いなし。2019年は、ピュアEVの普及が新しいステージに移行した年として記憶されることになりそうだ。

ただ、こうした動きが目立っているのは、バッテリーの性能や充電インフラといった、これまでネックとされてきた問題に決定的な解決策が見つかったから……ではない。むしろ、最近では航続距離延長のために大量のバッテリーを積むことが一般的となったため、従前のインフラでは「充電に時間がかかり過ぎる」という問題があらためてクローズアップされている。

かねての課題を先送りにしながら、ピュアEVが次々に登場しているのは、それが“待ったナシ”のタイミングに至っているからにほかならない。

一時期は完全に悪者あつかいされていたディーゼルユニットを含め、大気汚染物質の浄化になんとかめどをつけてきた内燃機関。しかし今、有害成分に次いで問題視されているのは、同じ排ガス中の二酸化炭素(CO2)である。かつては“無臭・無色で無毒”と扱われていたこの成分も、今や地球温暖化の主因というのが定説。「物を燃やしてCO2を発生させるのは悪」という時代になると、内燃機関にはもはや打つ手がない。

一方、少なくとも走行時のCO2排出量はゼロとなるピュアEVは、排出量規制の強化が進む昨今において、排出量のメーカー平均値を劇的に下げられる特効薬である。特に、そのデータが規制値を超えた場合は罰金を支払わなければならない欧州地域では、「エンジン車の販売を続ける免罪符」と解釈することもできるわけだ。

かくして、CO2排出量削減の救世主として脚光を浴びているピュアEVだが、残念ながらすべての点で優等生というわけにはいかない。

2018年9月に発表された「メルセデス・ベンツEQC」。450km(NEDCモード)という一充電走行可能距離をかなえるために、80kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。
2018年9月に発表された「メルセデス・ベンツEQC」。450km(NEDCモード)という一充電走行可能距離をかなえるために、80kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。拡大
ドイツ勢より一足早く日本に導入された「ジャガーIペース」。WLTCモード計測で438kmという一充電走行可能距離を実現しているが、その分充電にかかる時間は長くなっており、CHAdeMO規格の急速充電器(50kW)で0%から80%まで充電するのに、約85分の時間を要する。
ドイツ勢より一足早く日本に導入された「ジャガーIペース」。WLTCモード計測で438kmという一充電走行可能距離を実現しているが、その分充電にかかる時間は長くなっており、CHAdeMO規格の急速充電器(50kW)で0%から80%まで充電するのに、約85分の時間を要する。拡大

“適材適所”こそ次世代モビリティーの理想

そもそも、「充電する電気をどのように作り出しているか」というのが第1の問題である。燃料が石油であろうが石炭であろうが天然ガスであろうが、火力発電で起こした電気で充電すれば、走行時の排ガスはゼロでも実は“エミッション・エルスウェア”(排ガスは別の場所で発生させている)というのが真実となる。また車両生産時には「EVの方がより多くのエネルギーを必要とする」という試算もあり、この段階でのCO2排出量もカウントしないと、エンジン車との環境性能の差をフェアに比較することは困難だ。

インフラの面でも、航続距離を伸ばすためには大量の電池を積むしかない現状では、充電に要する時間を少しでも減らすために“超高速充電器”の配備と稼働が求められる。そうなると、今度は送電網の整備や充電器自体のコストなどが、新たな問題として浮かび上がってくる。

本来は「ドライバーが寝ている間か仕事をしている間」に充電を行うのがピュアEVの理想的な使い方であるはずだが、そうはいかないのが現実。集合住宅に住む人にどのように充電インフラを提供するのかも、重要な問題だ。高速道路のサービスエリアやショッピングモールなどに置かれたビジター向け充電器の前で、すでに待ち時間が発生していることを勘案すれば、このところのピュアEVの相次ぐ発表・発売に心中穏やかではない既存ユーザーもいることだろう。

このような点を考えれば、ピュアEVが「世界のあらゆるドライバーへの最適解」ではないことは自明である。まさに千差万別に扱われるクルマのパワーユニットには、実は当然複数の種類があってしかるべきなのだ。水素が持つ、電気が苦手とする「ためておくことや運搬が比較的容易」という特性を生かせば、それをエネルギー源として用いるEV、すなわち燃料電池車の有用性もあらためて見えてくるというもの。要は、自動車もエネルギーミックス的な視点で考察する必要がある時代へと差し掛かっているということだ。

昨今の、「あまりに前のめりに過ぎるピュアEV歓迎の姿勢」は、そんな次世代モビリティーの理想の在り方を、かえって阻害しかねないのでは? そんなことをひそかに思う、この頃なのである。

(文=河村康彦/写真=ジャガー・ランドローバー、ダイムラー、日産自動車/編集=堀田剛資)

充電インフラでは、既存の急速充電を超える超急速充電の開発が進んでいるが、高電流・高電圧化に対する安全性の確保、水冷冷却システムの採用によるによる高コスト化、そして電力グリッドへの影響など、本格的な普及にはまだ課題が多い。写真はNEDOと日産が米カリフォルニア州に設置した100kWの超急速充電器。CHAdeMO協議会では、2020年をめどに急速充電器の最大出力を350kWまで引き上げる予定だ。
充電インフラでは、既存の急速充電を超える超急速充電の開発が進んでいるが、高電流・高電圧化に対する安全性の確保、水冷冷却システムの採用によるによる高コスト化、そして電力グリッドへの影響など、本格的な普及にはまだ課題が多い。写真はNEDOと日産が米カリフォルニア州に設置した100kWの超急速充電器。CHAdeMO協議会では、2020年をめどに急速充電器の最大出力を350kWまで引き上げる予定だ。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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