マツダが直6エンジン・FR車の開発を公言!
ブランド価値向上を狙う商品戦略を読み解く
2019.05.22
デイリーコラム
米国でも新CIによる店舗を拡充
マツダは5月9日、2019年3月期決算説明会を行った。そこでの報告内容は、グローバル販売台数が対前年比で4%減の156万1000台、売上高は3兆5647億円、営業利益は830億円、売上高営業利益率は2.3%というものだった。
ちなみに自動車メーカーにおける営業利益率のひとつの目安は8%といわれるが、同期におけるトヨタ自動車の数字は日本企業初の売上高30兆円超え、営業利益は2兆4675億円、売上高営業利益率は8.2%となっている。経営計画で営業利益率8%を目指すと公言したものの、前期に比べて営業利益は約40%ダウンで、大幅に業績が落ち込んでいる日産ですら売上高営業利益率は2.7%であることを考慮すれば、マツダの営業利益率の低さはいささか気になるところだ。
決算資料によればマツダの販売台数は、対前年で中国は23%、米国は6%、オーストラリアは5%、それぞれ減少している。好調に見える日本でも2%増、欧州は前年並みだったが、いまや世界ナンバー1、2の自動車市場である中国と米国で販売台数が減少しているのは、まずい状況であることには違いない。
利益変動要因としては、為替の影響をはじめ、販売費用増、OEM供給減、中国向けノックダウンの出荷減などが挙げられている。ここで注目すべきが、米国販売ネットワーク改革への投資、というものだ。現在、日本でも始まっている黒を基調とした新しいCI(コーポレートアイデンティティー)に則った店舗を米国で300店舗にまで増やす計画が進行中という。
また、2020年3月期~2025年3月期までの中期経営方針を、2030年-2040年のありたい姿を目指す、また新世代商品群完遂までの「今期からの6年間」と位置付け、「独自の商品・顧客体験への投資」「ブランド価値を低下させる支出の抑制」「遅れている領域への投資」の3つを柱に、さまざまな取り組みを行っていくという。そうした中で、いまクルマ好きにひときわ注目を浴びているのが、ブランド価値向上への投資として示された以下の商品戦略だ。
- 魂動デザインの深化
- スモールアーキテクチャー(SKYACTIV-G/Dのアップグレード、SKYACTIV-X、マイルドハイブリッド、独自バッテリーEV<xEVs>)
- ラージアーキテクチャー(直列6気筒SKYACTIV-X、直列6気筒SKYACTIV-D GEN 2、縦置きアーキテクチャー化<i-ACTIV AWD含む>、48Vマイルドハイブリッド/プラグインハイブリッド)
注目すべきは「ラージアーキテクチャー」の部分で、シンプルに言えば「6気筒エンジンのFR車をつくります」と公言したと見えるわけだ。
細かな施策を積み重ね真のプレミアムブランドに
もちろんことはそれほど単純ではなく、米国や欧州はもとより、日本でも2020年度より採用される燃費規制「CAFE(企業別平均燃費基準)」や今年から始まった中国のNEV規制に対応するには、電動化やSKYACTIV-Xといった新しいパワートレインの準備が不可欠だ。
また落ち込んでいる中国や米国市場を見据えれば、ブランド価値の向上が重要になる。次世代ブランド店舗の展開がうまく進んだとして、それにふさわしい商品群は何かと考えたときに、4気筒のFFモデルだけでは他社との差別化は難しい。エンジンのモジュール化と小型化が進み、メルセデスなども直6エンジンに回帰する中、6気筒エンジンを縦置きするいわゆるFRプラットフォームの車両を用意することは、自然ななりゆきとも言えるだろう。実際、これまでに散々うわさをされてきた話であり、近年は「RX-VISION」や「VISION COUPE」といったFRモデルのコンセプトカーも発表している。ようやくマツダもこの計画を公表できる段階に至ったということだろう。
クルマのブランド価値を維持するために必要な条件のひとつとして、いかに中古車価格を高く維持できるかというポイントがある。それには、新車時の値引きをやめ、統一したCIによる店舗を整備し、メンテナンス体制を整え……といったことをひとつずつ積み重ねていくことが重要だ。日本では1990年代にBMWを皮切りに認定中古車制度が導入されているが、それだってまさにブランド価値を高めるための施策にほかならない。
近年のマツダは値引き販売をやめ、店舗を整備し、虎視眈々(たんたん)とこの機をうかがっていた。今後、「マツダ3」や「CX-30」といったスモールアーキテクチャーのモデルと、次世代の「アテンザ」や「CX-5」「CX-8」、そして「RX-7」や「RX-9」ともうわさされるFRスポーツなどのラージアーキテクチャーのモデルとの両輪で、ジャーマンスリーにも比肩するようなブランドへの成長を目指すというわけだ。その挑戦がまさにこれから始まる。
(文=藤野太一/写真=マツダ/編集=藤沢 勝)
