【F1 2019 続報】第8戦フランスGP「勝率75%の事実」
2019.06.24 自動車ニュース![]() |
2019年6月23日、フランスのサーキット・ポールリカールで行われたF1世界選手権第8戦フランスGP。ここまで全勝のメルセデスがまたしても快走を披露、そして5冠王者は6回目の戴冠に向けて着々と勝利とポイントを重ねるのだった。
![]() |
![]() |
カナダでのペナルティーの余波
前戦カナダGPでセバスチャン・ベッテルに科された「5秒加算ペナルティー」の余波が、それから2週間もたとうとしていたフランスGPにまで及んでいた。
カナダでトップを走っていたベッテルがシケインでミス。挙動を乱したフェラーリのマシンは、一瞬コースオフした後、背後に迫っていたルイス・ハミルトンのメルセデスの目前でコースに戻った。この「戻り方」が、ハミルトンに接触回避させるほど危険だったということで、程なくしてレーススチュワードはベッテルにくだんの懲罰を与え、フェラーリは先頭でゴールしながらメルセデスに勝利を奪われてしまった。
この一連の出来事が賛否入り乱れての騒動と化し、メディアやファン、ドライバーや元チャンピオンまでもが場外で意見を戦わせた。「あのペナルティーは正しかった」とするものや、「罰則を抜きにして、ドライバーにレースを続けさせればよかった」という主張に、「ハミルトンのプレッシャーにまたしても屈したベッテルの自業自得だ」という声、あるいは「何か起こるたびにスチュワードに判定を求めたがるドライバー自身が招いた事態だ」などなど。どれも一理あるところに、今回の裁定の難しさがあった。
そんな中、当事者のベッテルとフェラーリは、この裁定の再検証をカナダGPのスチュワードに求めた。フランスGP初日の金曜日、ベッテルの無実を証明しようと、ビデオ映像など新たな証拠を携えて聴聞会に臨んだ赤の軍団だったが、大方の予想通り、決定的な証拠はなかったとして再検証の手続きは行われなかった。
しかし、ここで落胆している時間はフェラーリにはない。いまのマラネロには、やらなければいけないことが山積みになっているのだ。直線基調のカナダのコースでは、その「狭いスイートスポット」になんとかマシンを合わせることができたのだが、今季これまで全勝のオールラウンダー、メルセデスとの差を縮める糸口はつかめないまま。フランスGPには新型のフロントウイングなどアップデートパーツを持ち込んできたものの、チーム代表のマッティア・ビノットも「問題を根本から解決するものではないが、次のステップに進むためにもここでのフィードバックは重要」と、パフォーマンス向上への道はまだ半ばであると認めていた。
既にメルセデスに123点ものリードを築かれていたフェラーリ。2020年シーズンに向けたニューマシンの開発も本格化してくるため、夏休み前のフランス、オーストリア、イギリス、ドイツ、ハンガリーのヨーロッパ戦では、何としても勝利をつかみ、来季の方向性を明確にしたいところなのだが……。
![]() |
![]() |
ハミルトンが今季3度目のポール、メルセデスは記録更新
昨年、10年ぶりに復活したフランスGPの舞台は、南仏のポールリカール。シケインで分断された長いストレートの前後にテクニカルなセクションを配したこのコースで、フェラーリは初日から悪戦苦闘し、メルセデスは例によって快走を披露しはじめた。
3回のフリー走行いずれもシルバーアローが1-2、そのうち2回はバルテリ・ボッタスがハミルトンを上回るタイムを記録した。予選Q1、Q2と100分の数秒という僅差でボッタスがリードをキープしたのだが、肝心要のQ3になるとハミルトンがスーパーラップを決め、今季3度目のポールポジションを獲得。自身が持つ歴代最多ポール記録を「86」に伸ばした。
記録といえば、この日新たなレコードがもうひとつ誕生した。0.286秒差で2位にボッタスが入ったことで、メルセデスは通算63回目のフロントロー独占に成功。フェラーリ、マクラーレン、ウィリアムズを抜き、最多記録を更新したのだった。
フェラーリは、ポールから0.646秒遅れでシャルル・ルクレールが予選3位。ベッテルは、Q3最初のアタックをまとめきれずノータイム、唯一のフライングラップで出したタイムは7番手と振るわなかった。レッドブル勢は、マックス・フェルスタッペンがトップから1.090秒離されての4位、母国でのGPを迎えたピエール・ガスリーは9位に沈んだ。
フランスでの驚きはマクラーレンだった。中団グループのリーダーとしてランド・ノリスが5位、カルロス・サインツJr.が6位と3列目を占拠。しかも新人ノリスのたたき出したタイムは、3強の一角であるフェルスタッペンのレッドブルに0.009秒差まで肉薄する見事なものだった。地元に錦を飾りたいルノーは、ダニエル・リカルドが面目躍如の8位。アルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィが10番グリッドにつけ、入賞を目指すこととなった。
![]() |
メルセデス1-2をキープ、ベッテルは5位まで順位回復
この週末、サーキットのある地中海沿岸は好天に恵まれ、決勝日も気温26度、路面温度は55度に届く暑さに見舞われた。こうなれば一番やわらかいソフトタイヤでは長く走れないということで、上位10グリッドではソフトタイヤのガスリー、ジョビナッツィ以外は全員ミディアムタイヤを履いて53周のレースに旅立っていった。
スタートでハミルトンがトップを守り、ボッタスも2位をキープ。その後ろでは、ルクレールにフェルスタッペンが並びかけるもフェラーリが前を取り3位のまま。マクラーレンのサインツJr.がノリスを抜き、一瞬フェルスタッペンの前に出たが結局5位に落ち着いた。ベッテルはグリッド順と同じ7位でオープニングラップを終えた。
「あわよくばレッドブルを食ってやる」と息巻いていたマクラーレンだったが、4位のフェルスタッペンとの差は徐々に開き、そうこうしているうちにノリス、サインツJr.ともベッテルに相次いでかわされてしまった。
10周を過ぎ、2秒半のリードを築いた首位ハミルトンがファステストラップを記録。すかさず2位ボッタスも最速タイムを更新するなど、メルセデス同士が快調なペースで飛ばし、3位ルクレールは4秒以上の後れをとっていった。しかし、やがてシルバーアローの2台の間にもスペースができはじめ、ハミルトンによる一人旅の様相を呈するようになった。
![]() |
![]() |
8戦6勝のハミルトン、最後にはベテランらしさを発揮
21周目、トップランナーで最初にピットに入ったのはフェルスタッペンで、一番長持ちするハードタイヤを履いてコースに復帰。翌周にはルクレール、24周目にはボッタス、続いてハミルトン、ベッテルとハードを選択。それぞれがタイヤ交換を終えると、1位ハミルトンは2位ボッタスとの間に11秒ものギャップを築き、ボッタスから3秒差で3位ルクレール、そこから7秒の間隔で4位フェルスタッペン、5秒置いて5位ベッテルという順位になった。
結局、レース半ばにしてほぼ独走状態に持ち込んだハミルトンにその後も敵は現れず、最終的に18秒ものリードを築いて真っ先にチェッカードフラッグを受けてしまった。これでハミルトンはスペインGPから4連勝。今季8戦して6勝、勝率75%という驚異的なペースでチャンピオンシップを首位独走中。このレースを2位で終えたボッタスは、ハミルトンに唯一待ったをかけられるポジションにいながらも、チームメイトとのポイントを縮めることができず、その差は29点から36点にまで拡大してしまった。
フェラーリ勢では、ルクレールがボッタスをゴールまで追い回したが、0.9秒差で2戦連続、今季3回目の3位表彰台。ベッテルはといえば、4位フェルスタッペンに追いつけないと分かるや、残り2周でフレッシュなソフトタイヤに履き替えてファステストラップを記録、1点のボーナスを追加しての5位だった。
ベッテルがファステストラップを狙っていることを無線で知らされていたハミルトンは、最終周になって自らもレースの最速タイムを更新。ベッテルよりわずか0.024秒遅いタイムを、使い古しのハードタイヤでたたき出してしまった……。この余裕、この老獪(ろうかい)さ。6冠への道を着実に進んでいるハミルトンに、いまのところ死角は見当たらない。同じことは、今季勝率100%のメルセデスにも言えることなのだが。
次戦オーストリアGP決勝は、1週間後の6月30日に行われる。
(文=bg)