【F1 2019 続報】第7戦カナダGP「ペナルティーが決めた優勝」
2019.06.10 自動車ニュース![]() |
2019年6月9日、カナダはモントリオールのサーキット・ジル・ビルヌーブで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。2人のチャンピオンドライバーによる近接の好ゲームは、レースコントロールでのひとつの判断で大きく様変わりしてしまった。
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タイヤよ、働け
メルセデスが6戦全勝とまたとない好スタートをきった一方で、最高位が前戦モナコGPでのタナボタの2位、表彰台は2人のドライバーで4回のみ、チャンピオンシップでも118点もの大差をつけられてランキング2位とふがいなさが際立っていたフェラーリ。冬のテストでは圧倒的に速かっただけに、また、メカニカルトラブルで惜しくも勝利を逃した第2戦バーレーンGPなど、時として息を吹き返すようなレースもあっただけに、その不振の原因は何なのかと皆がいぶかしがったが、ここにきてようやく跳ね馬の泣き所がはっきりしてきた。モナコでも指摘されていたが、タイヤとの相性がどうも良くないようなのだ。
昨季ピレリが試験的に3戦だけで採用した「シン・ゲージ・タイヤ」が、今年から全戦で導入されている。「シン=thin」、すなわち薄いという呼び名が示す通り、従来型からトレッドの厚みが0.4mm削られたこのタイヤの狙いは、オーバーヒートを防ぐこと。薄い分だけゴムに熱がこもりにくくなり、ドライバーやチームに不評だったブリスター(火ぶくれ)など性能劣化の解消が図れるというものである。
レーシングタイヤには、最大のグリップ力を発揮するための適温というものがあるのだが、シン・ゲージになったことで、その作動温度領域が若干高くなり、各マシンのパフォーマンスに大きな影響を与えているというのだ。より熱を入れないとうまく作動しなくなったタイヤに足を引っ張られているのがフェラーリで、逆に以前からタイヤに厳しい傾向にあったメルセデスには有利に働いているということらしい。
昨年セバスチャン・ベッテルが快勝したモントリオールのコースでは、ストレートをシケインとヘアピンでつなげたレイアウトゆえに加減速を繰り返すことになり、パワーユニットの優劣が顕著に出る。フェラーリの武器である直線スピードを生かすには絶好の場所といえたが、反面ダウンフォースは削られがちで、マラネロの軍団には、タイヤをうまく働かせることができるかといった不安も残った。
当然だが、先に記したオーバーヒートの問題克服以外にピレリに他意はないはずで、かつ全チームにとってコンディションはイコール。フェラーリ以外にもタイヤに頭を悩ますチームは多く、シン・ゲージが有利、不利というのも結果論でしかない。一見して黒いゴムの塊にすぎないタイヤが勝敗を左右するといういささか分かりにくい戦況のようだが、タイヤにしろ、空力にしろ、あるいは複雑なハイブリッド機構にしろ、技術が先鋭化すればするほど、実情が部外者に伝わりにくくなるのは仕方がないのかもしれない。
カナダGPとしては50回目、地元の英雄の名を冠したサーキット・ジル・ビルヌーブでは40回目のF1。果たして各陣営、タイヤをうまく手なずけることができたのか?
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ベッテル、見事なラップで今季初ポール
パワーサーキットでの戦いに備え、メルセデスは7戦目にしてようやく「フェーズ2」と呼ばれる新型パワーユニットを投入。ポイントリーダーのルイス・ハミルトンは、1回目のフリー走行でしっかりトップタイムを記録、バルテリ・ボッタスを2位に従えて幸先のいいスタートをきったものの、2回目になるとウオールにマシンをヒットさせるミスをおかし貴重な時間をロス。2回目、3回目ともフェラーリに1-2を奪われた。
予選になると、銀と赤のマシンがトップを争うことになる。トップ10グリッドを決めるQ3、最初のタイム計測ではハミルトンが最速。迎えた最後のアタックでは、見事なラップを披露したベッテルが逆転に成功し、フェラーリとしてはバーレーンGPに次ぐ今季2度目、ベッテルにとっては今年初、2018年ドイツGP以来となる通算56回目のポールポジションを獲得することとなった。
0.206秒差で敗れたハミルトンは予選2位。異なるチームがフロントローを分け合うのは今季初めてのことだ。フェラーリのもう1台、シャルル・ルクレールは最後のセクターで遅く、チームメイトから0.680秒遅れの3位。メルセデスのバルテリ・ボッタスは、最初のアタック中にスピン、唯一のタイム計測となった2回目のラップもうまくまとめきれず6位だった。
3強チームの分厚い壁を切り崩して4位に入ったのは、ルノーのダニエル・リカルド。トップとの差0.831秒とタイムも立派なものだった。ルノー勢はニコ・ヒュルケンベルグ7位、さらにルノーのパワーユニットを搭載するマクラーレンもランド・ノリス8位、カルロス・サインツJr.9位とトップ10に全車が食い込む活躍を見せた。
ルノーにお株を奪われた格好のレッドブル勢は、ピエール・ガスリーが5位。マックス・フェルスタッペンは、Q2で渋滞につかまり好タイムを記録できず、Q3進出に向けた最後のアタック中にはハースのケビン・マグヌッセンがクラッシュ、赤旗となったことで11位。しかしマグヌッセンがピットレーンスタート、またサインツJr.は他車を邪魔したことで3グリッド降格となり、9番グリッドからレースに臨むことに。12番手タイムだったトロロッソのダニール・クビアトが繰り上がり、10番グリッドを得ることとなった。
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首位ベッテルにハミルトン接近
週末を通して快晴に恵まれたモントリオール。決勝日は気温28度、路面温度は50度を超え、タイヤのマネジメントが各陣営の課題となった。上位陣では、フェラーリ、メルセデスはもろいソフトを嫌いミディアム、その他はソフト、またタイヤ選択権のある9番グリッドのフェルスタッペンは長持ちするハードを履いて、70周のレースをスタート。ターン1にトップで飛び込んだのはベッテルで、ハミルトン、ルクレール、リカルド、ガスリーと順当に続いた。
8周目に先陣をきってピットインしたのはレッドブルのガスリー。続いてルノーのリカルドもピットに飛び込み、ソフト勢は早々に最も硬いハードタイヤに換装した。ガスリーは戻った場所が渋滞のただ中でその後の遅れが著しく、5番グリッドから8位フィニッシュと残念な結果でレースを終えることに。一方リカルドは、レース前「レッドブルよりも上位でゴールする」と古巣に宣戦布告したものの、ボッタスとフェルスタッペンに先行を許し最終的に6位でチェッカードフラッグを受けることとなった。
燃費とブレーキングに厳しいモントリオールでは、レースマネジメントの重要度が高い。首位を守るベッテルも、ハミルトンとのタイム差を2秒台に保ち周回。レース序盤は、フェラーリ、メルセデスとてタイヤをなるべく持たせる我慢の走行を余儀なくされた。
26周を終えると、1位ベッテルがピットインしミディアムからハードにスイッチ。メルセデスは若干判断が遅れ、29周目にハミルトンをピットに呼びハードを与えるもトップ2台の順位は変わらず、むしろ間隔は4秒後半に広がっていた。31周目にボッタス、33周目にルクレールがフレッシュなハードタイヤを選択すると、1位ベッテル、3.3秒差で2位ハミルトン、トップから13秒後方に3位ルクレール、まだストップせずハードで周回を重ねていた4位フェルスタッペンという並びとなった。
やがて2位ハミルトンは前方のベッテルとのギャップを削り、40周を過ぎると1秒以下に接近。ベッテルはファステストラップを更新しこれに反応するも、再びDRS作動領域の1秒以下に持ち込まれてしまう。
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ハミルトン「このような勝ち方を望んではいなかった」
このレースの最大の見せ場は、48周目のターン3から4で起きた。先頭のベッテルがコーナーで挙動を乱し、タイヤをグリーンに落とした。肝を冷やしたベッテルだったが、辛くも首位をキープしたままコースに復帰。ハミルトンは壁ギリギリのラインで鼻っ面を抑えられ、こちらも冷やっとしたに違いない。
この一連のアクションがスチュワードの目に留まり、協議が始まる。58周目に下された裁定は、ハミルトンを壁に追い込むような危険なライン取りでコースに復帰したベッテルに、5秒加算のペナルティーを与えるというもの。その後、両車のギャップは2秒から1秒をきり再度の急接近となったものの、先ほどまでのいい意味での緊張感はそこにはなかった。
ベッテル、ハミルトン、ルクレールの順でチェッカードフラッグが振られるも、実際のウィナーはハミルトンという不自然な結末を迎えたカナダGP。7戦目にしてようやく手が届くかと思われた今季初優勝をペナルティーで台無しにされたベッテルは、憤まんやるかたない心情をあらわした。
「グリーンにホイールを落とした直後にマシンをコントロールしろだって? 壁に当たらなかっただけラッキーだったのに、いったいどうすれば良かったというのさ? これはフェアじゃないよ」と無線で語気を荒らげるベッテルは、マシンを所定の位置には止めず、上位3人へのインタビューもキャンセルし、フェラーリのホスピタリティーテントの中へ。再び観客の前に姿を見せると、今度はハミルトンのマシンの前に置かれた「1位」のボードを、自らのマシンが止まるはずだった場所に運び、勝者は俺だとばかりにアピールした。
ハミルトンは、コースオフ後のベッテルのドライビングについて、「コースに復帰するときは、すぐにレーシングラインに戻らず、安全を確認してから戻るべきなんだ」とやんわりとベッテルを非難しつつ、「もちろんこのような勝ち方を望んではいなかったよ」と後味の悪い勝利であることを隠さなかった。また気まずい雰囲気の表彰式では、ベッテルへの同情を示したかったか、ポディウムの最上段に引き上げ2人が肩を並べるシーンも見られた。2008年のベルギーGPのように、ハミルトンにもペナルティーで優勝を逃した経験があり、ライバルを責め立てるようなことはしなかった。
当事者がそれぞれの言い分を主張するのはよくあることだが、競技中は白黒はっきりしないグレーな領域というものが必ず出てくる。スチュワードがグレーだと判定した場合、われわれはそれを「レーシング・インシデント」と呼び、レースではよくある出来事だと片付けるすべも知っている。
今回のペナルティーが誤判定だという論拠は今のところないが、間違いなく言えることは、2人のチャンピオンドライバーによる好ゲームに水を差すジャッジだった、ということである。
シーズンの3分の1を終えたF1は、再びヨーロッパへ。第8戦フランスGPの決勝は、6月23日に行われる。
(文=bg)
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