燃料としての水素は身近になるのか?
“画期的な発明”の発表会で思ったこと
2019.06.28
デイリーコラム
価格は3分の1以下になる!?
人類のエネルギーへの渇望は、不治の病に似ている――いきなり大仰なフレーズでナンですが、webCG編集部の記者としてEneco Holdings(エネコホールディングス)の発表会に参加して、思いつきました。こういうことです。
治療法が確立していない難病は、その病気が一般的であればあるほど、いわゆる民間療法がたくさん現れる。おまじないの類いや金もうけのためのエセ科学もあれば、本当に未知の薬効成分が含まれる場合もある。玉石混交。いずれも、ひとたび効果的な治療法が見つかれば、姿を消すのが普通だ。
エネルギー事情も同様で、木炭、石炭、石油、原子核(核分裂)と有力なプレーヤーが登場するたび環境問題が深刻化して、次世代エネルギーの模索が真剣に行われ、ここでもまた、多種多様にして玉石混交な「解決策」が現れた。
21世紀に期待される次世代燃料のひとつが、水素だ。エネルギー密度は低いけれど、自然界に豊富に存在し、燃やしても水が出るだけというシンプルでクリーンなところがステキ。ペアを組むテクノロジーとして、燃料電池が挙げられることが多い。つまりは水の電気分解の逆で、水素と酸素を化学反応させて電気を取り出す。これまた排出物は水だけ。宇宙船に搭載された実績が、その実用性と先進性を印象づける。
さて、2019年6月25日に、Eneco Holdingsは、「Eneco PLASMA R Hydrogen GAS」を発表した。これは、GASと名づけられているが、「Enecoガス」と称する気体を発生させる装置のこと。「水の電気分解の原理を進化応用させた、HHO(酸水素)ガスの生成装置」(プレスリリースより)であり、「少量の水と、独自開発した触媒の化学反応により、電気をほとんど使用せず、低温なのに出力の高い、高濃度HHOガスの大量生産を可能にした」(同)という。
装置は定置式で約1tの重さがあるためクルマに積むことはできないが、結果として国内の水素燃料の価格は現在の3分の1以下になり、「わずか2リッターの水で、一世帯の1週間の電力消費量、約65kWhを当社の水素燃料技術で賄える日がやってくる」(同)のだという。
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すなおに「なるほど」と思えない
スイマセン、読者の皆さまに先に謝っておきますが、発表会で説明を聞いても、ワタシにはサッパリ理解できませんでした。
まず、この装置が発生するEnecoガスとは何なのか? パンフレットによると、「酸水素ガス(HHOガス)と純水素ガスの両方を生成」する。つまり酸水素ガスと純水素ガスの2種類が混合した状態が“Enecoガス”であると考えられる。
ちなみに、酸水素とは、水素原子2と酸素原子1の混合気体のこと。水(H2O)ではなく、気体(HHO)の状態で存在する。会場での説明によると、酸素を内包しているため、燃やした際には外から酸素を取り込む「爆発」ではなく、自身が縮小する「爆縮」が起こるという。
話をEnecoガス発生装置に戻すと、これまでも同社は、「水を触媒と反応させて、電気をほとんど使用しないで酸水素を取り出す技術」を持っていた。今回、新たに水素濃度が高い「イオン化した水」(改質水)を使うことによって、さらに大量に酸水素と水素を取り出すことができるようになったという。
この日の説明は、Eneco Holgingsの山本泰弘代表取締役社長自らが行った。個人的に不思議に思ったのは、Enecoガス発生装置のキモであるはずの部分の説明が非常に希薄だったこと。
水に代わって使用することになった改質水は、「ブラックボックス」を介して生成するという。社外秘の部分があるのは理解できるのだが、ブラックボックスの一言で説明を終えてしまうのはいかがなものか。また、「廃棄物からなる独自開発した触媒」(同社パンフレットより)にもほとんど触れなかった。このフレーズからは、工業廃棄物であるヒドロシラン類を使った金ナノ粒子触媒(大阪大学太陽エネルギー化学研究センターが開発)が連想されるが、実際のところはどうなのだろう?
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“革命”の実現を願うばかり
そもそもの「水の電気分解の原理を進化応用させた」テクノロジーについても、もっと知りたかった。水電解法とドライセル水電解法の名前が出たが、では、新技術が両者とどう異なるのか。詳しい説明があってしかるべきだろう。世界のエネルギー事情を劇的に改善させる可能性がある技術なら、おのずと話したいことがあふれてくると思うのだが。
Enecoガスが、純度の高い水素であることを大学教授(同志社女子大学 杉浦伸一教授)を招いて証明してもらったり、Enecoガスで発電機が動く場面をビデオで見せてもらったりはしたが、はて? HHOガスの要素はどこへ行ってしまったのか。内燃機関は、まさに筒内で爆発を起こしてピストンを動かすので、“爆縮の作用”とは相性が悪そう。この場合、水素要素だけが作用すると考えるべきなのか。
総じて、Eneco PLASMA R Hydrogen GASという新しい製品の発表会にも関わらず、各部の専門家・開発担当者が出席して、詳細の説明をしなかったのはなぜか。プレゼンテーションの後に質疑応答の場が設けられなかったことにも、奇妙な印象を受けた。
かように技術説明が足りない(と感じた)理由を3つ挙げてみるならば――
<その1> 大変失礼ながら、社長のプレゼンテーションの組み方が悪かった。ささいな技術要素より、地球環境への憂慮が優先された。
<その2> なんらかの理由で、具体的な技術については触れたくなかった。または、触れられたくなかった。
<その3> 実はキチンと説明していたにもかかわらず、傍聴者(← ワタシのことです)の理解力が大幅に欠如していた。
正解は<その3>だと確信しているが、それはともかく、同社が主張する新技術がなんらかの資金集めのためのアドバルーンにとどまることなく、「低価格・高濃度・大量生成可能な水素技術で燃料革命」(プレスリリースより)を起こしてくれることを、切に願います。
(文と写真=青木禎之/編集=関 顕也)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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