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モト・グッツィV85 TT(MR/6MT)

最高にちょうどいい 2019.07.06 試乗記 伊丹 孝裕 縦置きVツインという、ユニークなエンジンレイアウトのバイクを多数手がけるモト・グッツィから、新たにアドベンチャーモデル「V85 TT」が登場。クラシカルなスタイリングとモダンなテクノロジーを併せ持つニューモデルの出来栄えを確かめた。

“クラシカルなアドベンチャー”という新ジャンル

2019年に入ってからというもの、モト・グッツィの周辺がちょっと騒がしい。その元になっているのが、V85 TTの存在だ。お世辞にもスタイリッシュな部類ではないが、なんとも言えないぶさカワ感というか、ゆるキャラ感というか、スキのあるそのたたずまいにトキメキを覚える人が続出。これまでモト・グッツィに見向きもしなかった人から「これ、どこのバイク?」と聞かれたのは1度や2度ではない。

実際、ディーラーにはかなりの問い合わせがあるらしく、受注も好調だとか。しかも試乗しないままでの指名買いだったり、これが“初モト・グッツィ”という人だったりと、ちょっとしたV85 TT特需が到来している。

V85 TTがユニークなのは、そのコンセプトに「クラシック・トラベル・エンデューロ」と掲げている点にある。聞き慣れないのは当然だ。モト・グッツィがV85 TTのために作った言葉であり、ごく簡単に言えば、アドベンチャーモデル界のネオクラシックである。

ネオクラシックといえば、昔の名車がモチーフになっていたり、カフェレーサーやスクランブラーがはやっていた時代にインスパイアされたものだったりと、なにかと幅は広く、自由な発想で作られている印象がある。

それでも、アドベンチャーモデルに「あの頃」のテイストを盛り込むという発想は今までになく、確かにモト・グッツィが唯一にして初である。その意表をついたアプローチがまんまと成功し、「どこのバイク?」から「なんかカワイイかも」と気になり始めた頃には術中にハマったのも同然。なんとなく調べているうちに、車体がいたずらに大きくも、重くもないことや、ガイシャにしては意外なほど安価なこと、それでいて十分な装備が備わっていることを知ってしまい、ついディーラーへ。モト・グッツィはのほほんと構えているようで、意外と策略家なのかもしれない。

1921年に誕生したモト・グッツィは、現存するイタリア最古のバイクブランド。羽を広げたタカのエンブレムはイタリア空軍の紋章をモチーフにしたものである。
1921年に誕生したモト・グッツィは、現存するイタリア最古のバイクブランド。羽を広げたタカのエンブレムはイタリア空軍の紋章をモチーフにしたものである。拡大
2018年のインターモト(ドイツ・ケルンのモーターサイクルショー)で発表された「V85 TT」。車名の“TT”は、オールテレインを意味するイタリア語“Tutto Terreno”の頭文字を取ったものだ。
2018年のインターモト(ドイツ・ケルンのモーターサイクルショー)で発表された「V85 TT」。車名の“TT”は、オールテレインを意味するイタリア語“Tutto Terreno”の頭文字を取ったものだ。拡大
クラシカルな雰囲気が特徴の「V85 TT」だが、丸目2灯のヘッドランプがLED式だったり、フルカラーのデジタルメーターを備えていたりと、その中身は実にモダンだ。
クラシカルな雰囲気が特徴の「V85 TT」だが、丸目2灯のヘッドランプがLED式だったり、フルカラーのデジタルメーターを備えていたりと、その中身は実にモダンだ。拡大
ボディーカラーは全4種類。テスト車には有償色の「サハライエロー」が用いられていた。
ボディーカラーは全4種類。テスト車には有償色の「サハライエロー」が用いられていた。拡大

今日のバイクとして不足のない装備類

そんなV85 TTだが、なんの脈絡もなく、思いつきで登場したわけでもない。モト・グッツィは1980年代にパリ・ダカールラリーに参戦したことがあり、85年の「V65」と86年の「V75」が元ネタだ。今回の撮影車両がまとっている「サハライエロー」と呼ばれる外装色も、当時のデザインをアレンジしたものとなっている。その意味で、なんとなくはやりに乗って作られたお手軽なモデルとは一線を画し、れっきとしたヒストリーを持つ正統派ネオクラシックと言ってもいい。

時代を巻き戻したかのようなパーツは大型の丸目2灯ヘッドライトくらいのものなのだが、それだけで80年代に見えるから不思議なものである。その他の部分を見ていくと極めて近代的で(モト・グッツィにしてはだが)、角度が変更できるウインドシールドやクルーズコントロール、大型グラブバーといった快適性向上のための装備を一通り備える。

また、電子デバイスも充実。トラクションコントロールとABSの介入度、スロットルレスポンスの強弱を統括するエンジンモードには、「ROAD」「RAIN」「OFF-ROAD」の3パターンが設定され、それらの情報はフルカラーのTFTディスプレイで確認することが可能だ。

撮影車両に装着されているサイドとトップのアルミケースはオプションだが、ロングラン性能を向上させるためのこうしたアクセサリーは豊富にそろえられ、カタログを見ているだけで夢が広がっていく。

縦置きV型2気筒エンジンが発生するパワーを、シャフトを介してリアタイヤに伝える。その基本パッケージはモト・グッツィの伝統に倣ったものだ。アイドリング+αの領域でスロットルを大きく開けると、そのたびに車体は右側へグラリと揺すられる。縦置きエンジン特有のトルクリアクションと呼ばれる挙動だが、しかしこれは走りだせば気にならない。むしろ、停止している時は他のモデルよりも強くそれを伝えてくるため、現行のラインナップ中、モト・グッツィ濃度は最も濃いといえる。

ボディー骨格は専用設計の高張力鋼管製フレーム。パワートレインを剛体として用い、アンダークレードルを廃することで、最低地上高を増やすとともに軽量化も実現している。
ボディー骨格は専用設計の高張力鋼管製フレーム。パワートレインを剛体として用い、アンダークレードルを廃することで、最低地上高を増やすとともに軽量化も実現している。拡大
ライディングモードは「Road」「Rain」「Off-road」の3種類で、Off-roadモード選択時にはリアのABSがキャンセルされる。
ライディングモードは「Road」「Rain」「Off-road」の3種類で、Off-roadモード選択時にはリアのABSがキャンセルされる。拡大
純正アクセサリーとして用意されるパニアケース。いずれも1.5mm厚のアルミ製で、右に取り付けるものが39リッター、上に取り付けるものが41リッター、左に取り付けるものが33リッターの容量を備えている。
純正アクセサリーとして用意されるパニアケース。いずれも1.5mm厚のアルミ製で、右に取り付けるものが39リッター、上に取り付けるものが41リッター、左に取り付けるものが33リッターの容量を備えている。拡大
Vツインエンジンを縦置きし、シャフトドライブで後輪に動力を伝える駆動レイアウトは、1965年誕生の「V7」から受け継がれるモト・グッツィの伝統となっている。
Vツインエンジンを縦置きし、シャフトドライブで後輪に動力を伝える駆動レイアウトは、1965年誕生の「V7」から受け継がれるモト・グッツィの伝統となっている。拡大

新エンジンにも受け継がれる伝統の味わい

トルクリアクションが強く感じられる要因は、同系のエンジンを持つ「V9」シリーズと比較して、大幅にチューンナップが進んでいるからだ。V9もV85 TTも排気量は853ccとまったく同じにもかかわらず、前者の最高出力が55ps/6250rpmなのに対し、後者は80ps/7750rpmとかなりの差がある。V85 TTのエンジンにはアルミロッカーアームやチタン吸気バルブ、軽量ピストンといった専用パーツが組み込まれ、空冷OHVとは思えない高出力化を達成しているのだ。

モト・グッツィに空冷らしい鼓動感やゆったりとした巡航性能を求めている昔ながらのファンは、必要以上のパワーを得てしまったことに不安を覚えるかもしれないが、その点については変わらず牧歌的である。街乗りでも高速道路でも、3500rpmも回していればほとんどの場面をカバーするフレキシビリティーがあり、身体を包み込んでくれるようなまろやかなビートとサウンドは、この新型ユニットでも健在だ。それでいて、スロットルを大きく開ければスムーズに回転が上昇。5500rpmを超えてなお、よどみなく加速していく様は世代の切り換わりを感じさせる。

足まわりもモト・グッツィらしい。サスペンションは前後ともにゆったりとストロークし、路面に張り付くような接地感を披露。高速巡航時に見せるスタビリティーの高さは、長年変わらない美点である。

ゆったりとしたストローク感が印象的な「V85 TT」のサスペンション。オフロードでは前後ともに170mmというホイールトラベルにより、高い悪路走破性能を発揮する。
ゆったりとしたストローク感が印象的な「V85 TT」のサスペンション。オフロードでは前後ともに170mmというホイールトラベルにより、高い悪路走破性能を発揮する。拡大
853ccという排気量はそのままに、大幅なパワーアップを果たした新型のV型2気筒エンジン。80psの最高出力と80Nmの最大トルクを発生する。
853ccという排気量はそのままに、大幅なパワーアップを果たした新型のV型2気筒エンジン。80psの最高出力と80Nmの最大トルクを発生する。拡大
タイヤサイズは前が110/80-19、後ろが150/70-17。オンロード、オフロード双方の性能を重視した「ミシュラン・アナーキー アドベンチャー」が装着されていた。
タイヤサイズは前が110/80-19、後ろが150/70-17。オンロード、オフロード双方の性能を重視した「ミシュラン・アナーキー アドベンチャー」が装着されていた。拡大
リアサスペンションにはスプリングプリロードおよびリバウンドダンピング調整機能付きのショックアブソーバー(シングル)を採用。オプションでオーリンズ製のショックアブソーバーも用意される。
リアサスペンションにはスプリングプリロードおよびリバウンドダンピング調整機能付きのショックアブソーバー(シングル)を採用。オプションでオーリンズ製のショックアブソーバーも用意される。拡大
「MOTO GUZZI」のロゴが刺しゅうされたシート。後部にはパニアケースを固定したり荷物をくくりつけたりするためのパイプフレームが標準装備される。
「MOTO GUZZI」のロゴが刺しゅうされたシート。後部にはパニアケースを固定したり荷物をくくりつけたりするためのパイプフレームが標準装備される。拡大
「V85 TT」の車重は229kg。830mmのシート高とも相まっての扱いやすさも、このバイクの大きな魅力だった。
「V85 TT」の車重は229kg。830mmのシート高とも相まっての扱いやすさも、このバイクの大きな魅力だった。拡大

このサイズ感がすばらしい

排気量が853ccということからも想像できる通り、V85 TTのもうひとつの美点がほどよい車体サイズだ。近年、アドベンチャーモデルはどんどん肥大化・巨大化してきたが、さすがにもう日本人の体格と日本の道路環境に合わなくなってきた。その反動もあって、ミドルクラスの排気量に注目が集まっている中、ドンピシャのタイミングで出てきたのがこのモデルだ。

830mmのシート高と229kgの装備重量は、扱いやすさを超えないギリギリの範囲にあり、ダートに踏み入れてもさほど緊張感はない。そうしたステージでは、エンジンモードのOFF-ROADを選択しておけば、ライディングスキルをフォローしてくれる制御の恩恵にあずかれるはずだ。

日常的にアドベンチャー気分を味わえ、それでいて手に余らず、扱いやすさがありながら、はた目には強い趣味性を感じさせるバイク。それがV85 TTである。元モト・グッツィ乗りであることを差し引いても、今年大きく感銘を受けたモデルの1台になった。

(文=伊丹孝裕/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

モト・グッツィV85 TT
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
シート高:830mm
重量:229kg
エンジン:853cc 空冷4ストロークV型2気筒 OHV 2バルブ
最高出力:80ps(59kW)/7750rpm
最大トルク:80Nm(8.2kgm)/5000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.9リッター/100km(約20.4km/リッター、WMTCモード)
価格:139万8600円

伊丹 孝裕

伊丹 孝裕

モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。

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