「アルピーヌA110」だけじゃない!
フレンチスポーツカーの奥深き世界を垣間見る
2019.07.24
デイリーコラム
モーターレーシング発祥の地・フランス
フレンチスポーツカーの偉大なアイコンである「アルピーヌA110」が見事によみがえったことから、メディアにはアルピーヌの足跡をたどるヒストリーが頻繁に紹介されるようになった。言うまでもなく、フランスのスポーツカーは、もちろんアルピーヌだけではない。
フランスは、ガソリンエンジン搭載車が発明されてから間もない時期に自動車レースを初開催するという、モーターレーシング発祥の地であり、レースカーはもとより、“超”が付くほど豪華なものから庶民的なものまで、これまで数多くの優れたスポーツカーを送り出してきた。
このコラムでは、そのすべてを紹介することは到底できないが、アルピーヌが活躍していた1950〜70年代のフランス製スポーツカーに焦点を合わせて、思いつくままに記していくことにした。それらは他の国のスポーツカーとは趣の違う強い個性を備え、それが大きな魅力になっている。
クルマの個性は道が育てる
クルマの個性の源をひもとく鍵は、「クルマはある時期まで国という単位の地産地消を前提に発達してきた」という事実にあると私は確信している。そのクルマが生まれた国の地形や気候、人々の趣味や嗜好(しこう)が製品の個性形成に大きく関係している。中でも国土の地形、すなわち道路環境がその個性に強い影響をおよぼしている。それは乗用車だけに限らずスポーツカーも同様だ。
英国の伝統的なスポーツカーは、舗装比率が高く、かつては鏡のようだと評されたほどの平滑な道路で鍛えられ、その結果、右に左にと、中速コーナーが連続する道を走る時に最良の面を発揮する。硬めのサスペンションセッティングやクイックなステアリング、2速と3速が接近したギアリングがそれを引き出すキーだ。
これに対して、フランスのスポーツカーは、平たんな国土に張り巡らされた一般道路を比較的高い速度で快適にドライブできることを求められてきた。平野が多いことから急峻(きゅうしゅん)な登坂路は少なく、国土の大半は平たんだが、そこに造られた一般道の路面は鏡面のように平滑というわけではなく、“うねっている”ことが多い。これを正確にトレースできるようにとサスペンションストロークを大きく設定し、かつ優れた直進安定性を備えている。そして、スポーツカーといえども、居住性に優れ、快適なシートを備える傾向が強い。さらにアルプスの山中やルマン24時間レースという、スパイスが加味されていることも忘れてはならない。
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実用車がスポーツカーを生む
高い性能を求め、機構的なぜいたくが許される高価格車ではエンジンなど主要コンポーネンツを専用設計とすることが多い。これに対して、量産型では市販乗用車のそれらを流用することが一般的だ。優れた設計の量販車、とりわけ大衆車はモータースポーツの裾野を広げ、そのコンポーネンツを用いたスポーツカーメーカーを派生させることになる。イタリアではフィアット、英国ではBMCやナッフィールド系、ドイツでは「フォルクスワーゲン・ビートル」といったところだ。
フランスではルノーの貢献が最も大きく、パナールやシムカなどの大衆車もスポーツカーのスペシャリストにとって重要な部品供給源となっている。
ルノーの中でも最も貢献したのは「4CV」だ。戦後の厳しい経済状況のなか、1946年に登場した小型大衆車ではあったが、機構面では安易な妥協をしていなかった。軽量モノコックボディーに組み付けたサスペンションは、フロントがウイッシュボーン/コイル式、リアがコイルスプリングによるスイングアクスルの四輪独立式で、ステアリングはラック&ピニオン式であった。これだけでもスポーツカーとしての素養があろう。
リアに搭載されるエンジンは、水冷4気筒OHVの760ccで、19ps/4000rpmを発生。信頼性の高いユニットで、3段ギアを駆使すれば活発に回った。1951年には排気量を747ccに縮小しているが、その理由がレースで750cc以下クラスに入るためであったというのは、いかにもモーターレーシング先進国らしい。ミッレミリアにもルマンにも750cc以下クラスが設けられているからだ。
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偉大な4CVからはアルピーヌ
ルノー4CVは、上記のような機構ゆえに、ストックのままでもスポーティーなドライビングが楽しめ、さらにチューナーにとっては絶好の素材と化し、4CVをベースとしたスポーツスペシャルが続々と誕生していった。ルノーベース車の代表格がアルピーヌだが、他にもオトブルやブリッソンノー・エ・ロッツ、ソヴァム(「R4」ベース)などがあった。また、ルノーチューナーとして知られるアメデ・ゴルディーニも自ら市販スポーツカーの生産に乗り出す計画を立てたことがあった。もちろん4CVだけでなく、それ以降のモデルである「ドーフィン」や「R8」も格好の素材となった。
1946年に登場した「パナール・ディナ」の存在も大きい。戦前に大型高級車の生産に注力していたパナールは、第2次大戦後には高級車市場が縮小することを念頭に小型車生産に転じたが、彼らが描いたのは平凡な安手の小型車ではなく、全アルミ構造の車体に610㏄の空冷水平対向2気筒を搭載した前輪駆動車であった。そのエンジンはバルブスプリングに軽量なヘアピン型を用い、半球型燃焼室を採用した進歩的なものだった。間もなく750ccと850cc版が派生し、1954年にはフルチェンジして「ディナ54」に発展した。パナールは大衆車ながら、軽量で高出力ゆえに高い走行性能を発揮したことで、それをベースにしたレーシングスポーツやスポーツカーが誕生することになった。
軽量さが魅力のパナールからも
パナールをベースとしたモデルの代表格は、ルネ・ボネとシャルル・ドゥーチェが興したDBだ。当初は、まったくレース向きではない「シトロエン11CV」を改造していたが、パナール・ディナを素材にしてから、大きく進化した。DBは、当初より空気抵抗の低減こそが高効率なレーシングマシンの必須要素との考えを持ち、ディナのパワートレインはうってつけの存在であった。その挑戦が開花したのが、「ユノディエール」という長いストレートを持つルマンであり、空力的なボディーを備えたDBが成功を収めている。1950年代初期には、その技術的経験を生かした、いかにも空力的な市販スポーツカーを送り出した。
ところが市販車を送り出して間もなく、ボネとドゥーチェは袂(たもと)を分かち、それぞれの道を歩むことになる。ルネ・ボネはパナールがシトロエン傘下に下ったことから、パワーソースをルノーに求め、ミドエンジンのスポーツカーである「ジェット」を送り出している。一方のドゥーチェはといえば、道路公団の技術者に転じたが、パナールと関係を結び、「CDプジョー」でルマンに挑戦している。意欲的なマシンを製作したが本戦ではふるわず、それ以降、コンストラクターとして彼の名を聞くことはなくなった。
話は前後するが、ルネ・ボネ・ジェットは優れたクルマではあったが、あまりに高価過ぎることから販売は芳しいものではなく、会社は財政難に陥り、1964年10月にミサイル開発で急成長していたアンジェン・マトラの傘下に組み入れられた。同社がジェットのFRP製ボディーを生産していたことが縁であり、「マトラ・ジェット」と名を変えて生産を続行した。1967年には採算性の悪いジェットの後継モデルとして、「M530」を発表した。そのパワーユニットには欧州フォード製のV型4気筒1.7リッターが用いられた。マトラはその後もスポーツカービジネスを続行していく。
フランス版フィアットの生産会社として1934年に設立されたシムカもまた素材として使われている。「フィアット850」系から派生させたリアエンジンモデルに「シムカ1000」があるが、これをベースとした「CG」が象徴的な存在だ。初期のアルピーヌのボディーも手がけていた、専門ボディーメーカーのシャップ・フレール・エ・ジェサランが製作したリアエンジンのスポーツモデルで、レースにも出場している。
アトランダムに並べてみたが、フランスには数多くの個性豊かなスポーツカー/レーシングカーが存在してきた。どれも、かの地の道路環境とルマンという偉大な長距離レース、そしてアルピーヌに例があるようにアルプスの山中で鍛えられてきた、個性豊かな魅力あふれるモデルばかりである。
(伊東和彦<Mobi-curators Labo.>/写真=MCL、アルピーヌ、ルノー、ソヴァム、フィアット、パナール、マトラ/編集=藤沢 勝)
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伊東 和彦
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