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「スープラ」に「マツダ3」「ポルシェ911」……
河村康彦が2019年上期の注目モデルを斬る

2019.08.14 デイリーコラム 河村 康彦

昔は「エンジン=メーカーの魂」だったのに……

令和元年も早くも後半に突入。そんなタイミングで今年を軽く振り返ってみると、すでに7月までの段階でも、それなりに多くの注目モデルが日本デビューを果たしていたことに気がつく。

中でも筆頭に挙げられるのは、やはりトヨタとBMWという“ビッグカップル”によるジョイントベンチャーが生んだ、新型「スープラ」だったのではないだろうか。

「この部分はトヨタの完全オリジナル」と伝えられる何とも複雑なスタイリングは、大いに評価が分かれそうな仕上がり。が、思い起こせば(実は個人的にも一時期はオーナーであった!)80型と呼ばれる、昨今なぜか再び人気が沸騰中という旧型のルックスも、なかなかに複雑な仕上がりだった。端的に言えば、素直にスタイリッシュとは評しかねるエクステリアの造形というのは、実はスープラのDNAのひとつなのかもしれない。

ちなみに、そんな新型の走りは、6気筒モデルも4気筒モデルも、ビックリするくらいゴキゲンなものだった。もっとも、そのテイストが“BMW臭”を強く感じさせるものであったことも事実。中でも、「ポルシェ718ボクスター/ケイマン」の4気筒ユニットを圧倒する、6気筒ユニットが放つ官能的なテイストには、特にそれが色濃かった。「今の時代に出せたのは、コラボが実現したからこそ」と言われてしまえばそれまでなのだが、スポーツカーの重要な要素のひとつはその動力性能。だから、この部分には“自身の魂”を込めてほしいと、どうしても思ってしまう。

BMWとの共同開発によって誕生した、新型「トヨタ・スープラ」。
BMWとの共同開発によって誕生した、新型「トヨタ・スープラ」。拡大
直列6気筒ならではのスムーズな回転フィールが印象的な、BMW製の3リッター直6ターボエンジン。(写真=郡大二郎)
直列6気筒ならではのスムーズな回転フィールが印象的な、BMW製の3リッター直6ターボエンジン。(写真=郡大二郎)拡大

マーケティングがどうにも不安な「マツダ3」

「アクセラ」改め「マツダ3」も、プロダクト的にもマーケティング的にも、スープラに負けないニュース性の持ち主だ。

このモデル、とにもかくにも気合が入っていたはずなのに、なぜかマツダが“まっとうな試乗会”を行わなかったのがナゾ。まだナンバーが付く前の段階で、狭いクローズドコースでの“事前試乗会”が催されただけだった。そして、自身もこの試乗会でだまされてしまったのが、マツダ3の「静粛性の高さ」と「フラット感の高い走り味」だった。

というのも、ナンバー取得を待ってディーゼルのハッチバックモデルを借り出し、さまざまな場面で4時間ほど連続して乗ってみると、音については粗粒路面でロードノイズが急上昇し、走り味も“しなやかさ”を演出しようとするためか、路面によってはボディーの上下方向の動きが過大であるという印象を得るに至ったのだ。

実は、事前試乗会が行われたクローズドコースというのは、そもそも駆動系部品メーカーの試験場。完成車の評価には路面状況が良過ぎたのだ。それゆえ、現在世に出回っている“早出し”試乗記は、そのあたりを差し引いて読む必要がある(?)と思う。

また、例の新エンジン「スカイアクティブX」搭載モデルの価格が、強気に過ぎるのも気になる点。さらに同エンジンを積むバージョンのプレミアム性を引き立てるためか、圧倒的な動力性能が記憶に残る2.2リッターディーゼルエンジンがリスト落ちしたのも残念無念である。実際、もしもこの心臓が用意されていたら、少なくとも加速性能ではスカイアクティブXの立つ瀬はなかったように思う。昨今聞かれる「日本仕様もハイオクガソリン化」といった話題も含め、マーケティング的にやや心配になるのが、マツダ3である。

「マツダ3ファストバック」(右)と「マツダ3セダン」(左)。マツダ3については、クローズドコースにおけるプロトタイプの試乗会や、海外試乗会などは催されたものの、日本仕様の市販車による試乗会は実施されなかった。(写真=花村英典)
「マツダ3ファストバック」(右)と「マツダ3セダン」(左)。マツダ3については、クローズドコースにおけるプロトタイプの試乗会や、海外試乗会などは催されたものの、日本仕様の市販車による試乗会は実施されなかった。(写真=花村英典)拡大
スパークプラグによる点火と圧縮着火を併用する、「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」という燃焼方式を用いた新エンジン「スカイアクティブX」。
スパークプラグによる点火と圧縮着火を併用する、「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」という燃焼方式を用いた新エンジン「スカイアクティブX」。拡大

純エンジン車が消えようとしている

ところで、日本にいるとあまり伝わってこないが、実はドイツでもフランスでもイギリスでも、最近のトップニュースは「地球温暖化を食い止めるためのCO2排出量の抑制」という話題ばかりとなっている。エアコンが普及していない家庭も多いかの地を、今年は最高気温が40℃を超えるような熱波が繰り返し襲い、多くの人が一斉に“身につまされる思い”を抱くに至ったからだ。

今やその勢いは、CO2に対して25倍もの温室効果を持つという畜産業由来のメタンガス発生を抑制するために「肉食はなるべく控え」、一般的な移動手段の中ではCO2排出量が圧倒的に高い航空機による影響を減らすため「鉄路が選択可能ならば、できるだけそちらを使用しよう」という動きにまで広がろうとしている。当然、車両の電動化も加速方向一辺倒。すでに日本導入済みのものでも「アウディA6」や「Q8」がそうであるように、少なくともヨーロッパ発の一般的なモデルでは、この先「“非電動車両”が選択できなくなるのも時間の問題」と考えるべきだ。

となると、ベーシックな「カレラ」が導入されたばかりの新しい「ポルシェ911」なども、「最後の純エンジン911」となる可能性は高い。これが2019年半ばというタイミングでの、“時代の空気”というものなのである。

(文=河村康彦/写真=ポルシェ、マツダ、郡大二郎、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)

新型「ポルシェ911カレラ」(左)と、「911カレラ カブリオレ」(右)。
新型「ポルシェ911カレラ」(左)と、「911カレラ カブリオレ」(右)。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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