新たなイベントへの脱皮なるか!?
東京モーターショー2019が目指す新境地
2019.08.19
デイリーコラム
苦境に立たされる世界のモーターショー
2019年の東京モーターショーは、非常に厳しい状況下で開催される。2つの大きな波に襲われ、難破しそうなほど大揺れする船のようだ。ここでいう2つの波とは、「モーターショーの世界的な地盤沈下」と「2020年の東京オリンピック」である。
まず前者についてだが、モーターショーの地盤沈下は、今や日本だけでなく世界各地のショーにも言えることだ。最近ではインターネットでの動画配信が可能となったこともあり、わざわざモーターショーで新車を発表する機会も必要性も減った。また、世界各地でモーターショーやそれに準ずる大きなイベントが開催されるようになったことから、自動車メーカーの多くは、出展するイベントを絞るようになった。費用対効果の小さいショーについては、出展を見合わせるようにしたのだ。たとえばボルボは、「出展するショーは各大陸にひとつずつ」と明言。アジアで言えば「世界最大市場である中国の北京・上海ショーがあるのだから、日本はパス」というわけだ。
そうしたことから、近年では東京(日本)だけでなく、デトロイト(米)やパリ(仏)、フランクフルト(独)も、自国以外のメーカー/ブランドの出展者数減少に悩まされるようになった。本年のフランクフルトショーを見ると、トヨタも、ルノー・日産・三菱連合も、ゼネラルモーターズも参加を見合わせるという。また、これまで1月に開催されていたデトロイトショーは、同時期にラスベガスでエレクトロニクスの展示会「CES」が開かれるため、2020年からは開催時期を6月に移すこととなった。かつて「世界5大モーターショー」ともてはやされたもののうち、今も盛況なのはスイスのジュネーブショーのみ。他は、どこも苦戦しているのだ。
こうした流れは、今回の東京モーターショーでもはっきりと見て取れる。参加する海外ブランドはメルセデス・ベンツ、スマート、ルノー、アルピナのみ。この状態は、リーマンショックで出展者数が激減した2009年とそう変わらない。あのときはもっとひどく、海外ブランドで参加したのはアルピナとロータスくらいであった。それと比べればまだましだが、厳しい状況なのは変わらないのだ。
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オリンピックが招いた会場の分断
もうひとつの障害として挙げた「2020年の東京オリンピック」についてだが、なぜこれが東京モーターショーにとって“向かい風”になるのかというと、なんとオリンピックを優先するために、会場の利用が制限されてしまったからだ。
例年なら有明の東京ビッグサイトを全館利用できるのだが、今回は6カ所の展示エリアを有する東展示棟も、新設された東新展示棟も使えない。そのため、有明エリアの隣に位置する青海エリアにも会場を設けることとなった。トヨタの商業施設であるメガウェブと、仮設の東京ビッグサイト青海展示棟も利用することにしたのだ。つまり、東京モーターショーは2カ所に分断される格好となった。
有明と青海の間は、無料の展示エリア「OPEN ROAD」と、やはり無料のシャトルバスで結ぶとはいえ、両敷地の間は600m以上離れている。OPEN ROADでは小型モビリティーの試乗もできるというが、雨が降ったら利用する人は少ないだろう。すべての展示を見て回るのは、これまでよりはるかに煩わしくなったと言える。
ただでさえ、最近の日本では「若者のクルマ離れ」が叫ばれ、東京モーターショーでも来場者数の減少が問題視されてきたというのに、ここにきてモーターショーの地位低下とショー会場の分断という、2つの苦難まで追加された。これが、2019年の東京モーターショーがおかれた現状なのだ。
“クルマを並べるだけ”のイベントから脱皮を
しかし、個人的にまったく希望が感じられないわけではない。たとえばメガウェブ会場で開催される「FUTURE EXPO」の存在だ。ここでは、NTT、パナソニック、NEC、富士通などにより、先進テクノロジーやサービスの展示が行われるという。さらに子供向けの職業体験型テーマパーク「キッザニア」とのコラボレーションや、eスポーツの大会なども予定されている。クルマそのものだけではなく、もう少し大きな枠で日本の技術やサービスを感じられるイベントとなることだろう。そして、ここに東京モーターショーならではの価値が生まれる可能性がある。
もう、クルマを並べるだけのモーターショーにはあまり価値はなく、それより「東京にしかない」という特色が求められているのではないだろうか。「何か他では見ることのできない、感じることのできないモノがある」とならなければ、東京モーターショーは存在価値をなくし、どんどんと規模が縮小していくはずだ。最先端の技術が日本にあるというのであれば、それを展示すべきだ。
他のイベントに目を向けると、サプライヤーが中心になっている「人とくるまのテクノロジー展」は非常に大きな盛り上がりを見せている。同じように、米ラスベガスで催される最新のエレクトロニクスショーCESも注目度が高い。日本の東京モーターショーも、そうした技術オリエンテッドなショーを目指してはいかがだろう? もちろん、東京モーターショーにはもう少しエンターテインメントであることが求められるが、それらの融合は決して難しくないはずだ。
2つの困難に見舞われた2019年の東京モーターショーだが、これを機会に、新たな道を見つけ出してくれることを願うばかりだ。
(文=鈴木ケンイチ/写真=IAA、NAIAS、一般社団法人日本自動車工業会、webCG/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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